見出し画像

IR担当者として最初に取り組んだこと②

前回書き忘れたことを。

IR担当者の多くは「アナリストカバレッジが欲しい」と言います。個人的にはそんな必要ないと思っています。言い換えれば、「アナリストがカバレッジしたくなる企業になろう」と考えるべきだと思っています。
何年も前からセルサイドアナリストの数は減る一方です。エンロン事件以降、調査業務と投資銀行業務の間に大きな壁が作られたことが最大の要因でしょう。投資銀行業務のお手伝いをできないセルサイドアナリストは投資家から頂く委託手数料のみが収入源です(実態は色々な部署からの補填で成り立っています)。その委託手数料も年々料率が下がる一方。その限られた収入にアナリストだけでなくエクイティセールスも加わって奪い合う訳です。発行体が4桁の数字で表される「銘柄」になるのも仕方ありません(企業分析のプロがこのビジネスモデルを継続し続けていることに相当の疑問を感じていますが・・・)。国内証券は幹事絡みだったり銀行マターである程度上場企業を面倒見るアナリストを一定配置しておかないとなりません。野村、大和、みずほあたりで約50名程度のライティングアナリストがいる感じでしょうか。外資系はそのようなしがらみが少ないので、10~20名程度しか配置していないのではないでしょうか。日本の取引所に上場する企業は約4千社ですから、国内証券がそれをフルカバレッジしようとした場合、一人あたり80社を担当する計算です。無理です。カバレッジ企業の規模感にもよりますが、普通に考えたらアナリストがカバレッジできる企業数の限界は20~30社だと思います(それ以上の企業をカバレッジしているアナリストは、超優秀か、超テキトーのどちらかです)。つまり、全員がフルフルにカバレッジしたとしても、計算上1500社しかカバレッジできないのです。単純に言えば、上場企業の中で上位37%に入らないとカバレッジしてもらえないことになります。

アナリストはどんな企業をカバレッジするのでしょうか?これもよく聞かれる質問です。アナリストは専門セクターを2人(シニアとジュニア、最近は1人チームも多いようです)でカバレッジしますので、まずはその中で時価総額の大きい企業、機関投資家の保有が多い(=問い合わせが多い)企業、これから伸びそうな企業、からウォッチするのが通常です。昨今、コンプライアンスルールの厳格化で、レポートを書いた企業のことしか投資家に話せない、カバレッジしていない企業についてはレポートに事実しか書けない(アナリストの見解を伝えられない)といった状態にあるので、まずは投資家と話す機会の多い企業から立ち上げていくことになっています。いきなり小粒な会社をカバレッジすると、世界中のセールスから「そんな会社より、まずは〇〇をカバレッジしろ!」と怒られます。
しかも、50名のアナリストが全員優秀であれば良いのですが、そう言い切る自信が私にはありません。レベルは千差万別です。優秀なアナリストと接点を持てれば、それこそマネジメントとのIRミーティングも経営面でプラスになります。しかし、名ばかりアナリストに当たってしまうと、それはそれは大変です。過去程度が低いために出禁問題を起こしたアナリストもいますが(ネガティブなことをレポートに書いて出禁になるケースもありますが、これとは異なります)、多くの企業はそのようなアナリストも大切に扱ってしまうので、淘汰されることなく生き残っています。そんなアナリストにカバレッジされたら、それこそ地獄です。

私が事業会社でIRを始めた当初、その会社をカバレッジするアナリストは5名でした(私が初めてカバレッジしたアナリストでしたが、あまりにもその会社にほれ込みすぎて入社しちゃいました笑)。IR面談をすると、大抵投資家はそれらアナリストが執筆したレポートを持っていますが、私は勝手にそのレポートを奪い、「このレポートとこのレポートだけ読みなさい。他は読む価値ないから捨てて」と伝えていました。勿論良いことだけ書いてあるレポートを抽出したのではありません。正しい根拠の元、納得できるメッセージ(ポジ、ネガ関わらず)を発信しているものだけを選びました。そもそも書いたレポートを発行体に見せないというどーしよーもないアナリストもいました(コンプラ上送れないとか言い訳していましたが、それが嘘であることを私はよく知っています)。主幹事証券のレポートで、且つ業績予想が最も強いレポートも排除しました。投資家には驚かれましたが、理由を説明すると納得してくれました。

前回話忘れたことを書きたいと思って、まずは序章と思ったら、悪い癖でツラツラと書いてしまいました。
以上のことに鑑み、私が最近考えていることは「IRこそD2I : Direct to Investors」ということです。データ経済の中で最も大切なことは「いかに一次情報に触れ、自身で判断するか」です。当時はこのように明文化できるような考えではありませんでしたが、同じようなことを行動に移していました。IRの第一歩は「いかに多くの人に認知してもらえるか?」です。「認知」の後に「評価」があります。認知を増やすためにできること。IRの量を増やす(面談数の最大化、積極的且つ能動的な発信)、質の向上(投資家が望むものをきちんと伝える)、などが最初に必要となります。そのために、私はアナリスト時代からお付き合いのある投資家を中心にIRメールの配信を始めました。それから、各証券会社にいるコーポレートアクセス(投資家と企業のパイプ役)に知り合いが多かったこともあり、IRのアレンジを多方面でお願いしたり、カンファレンスに参加させてもらったりすることで、認知を引き上げにいきました。
ここまではIRをきちんとやろうという会社はやっていることでしょう。私は、それに加え「セールス向け勉強会」も何回か開催しました。コーポレートアクセスにスモールミーティングの開催をお願いし、その証券会社にお邪魔した前後の時間帯でセールスの時間を頂戴し、スモールミーティングと同じ内容のプレゼンをさせてもらいました。セールスはアナリストからの情報を投資家に伝えるだけではないので(今はコンプラ上アナリストの意見を伝言ゲームのように伝えることしかできない証券会社もありますが・・・)、その彼らの頭の中に「認知」してもらう工夫をしました。
こうすることによって1/4000が1/2000くらいにはなります。そこからは「評価」を得るための努力になります。「評価」を得るための工夫はまた別の機会にお伝えできれば。

個人向けにも同様のことが可能です。そもそも個人投資家の獲得は長期戦です。証券会社主催の個人投資家向け説明会やIR支援会社・業界紙主催のイベントに参加することになりますが、すぐに買ってもらうことは難しいです。こちらでもまず「認知」から始めましょう。しっかりとした仮説のもと、集客し(開催時間によって、訪れる投資家の属性は大きく変わります)、それをきちんとPDCAで回すことが重要です。可能であれば支店営業マンへの説明する時間ももらえると良いですね。

「認知」向上には「機会の創出」と「PDCA」が重要なポイントになります。これは個人でも機関でも変わりません。IR現場の方々は大変ですが、しっかりと頑張りましょう!

WARCではスポンサードでアナリストレポートを書き始めました。文中にも書いた正しいことを全投資家に伝えるためにです。スポンサードとは言え、よいしょ記事にするつもりはありません。課題や問題点もしっかりと伝えていきたいと思っています。それを受け入れられるマネジメントこそが企業価値を大きくできると信じています。
証券会社が発行するアナリストレポートは基本自社の顧客以外読めない形になっています。その証券会社にアカウントを持っていても、個人投資家は読めないみたいなケースも多いと聞きます。これってフェアディスクロージャー?って思っちゃいますよね。それ故、WARCのレポートは日英同時発行、noteでも同タイミングで配信(日本語のみ)を心がけています。コンプライアンス上、投資助言契約を締結していないところからのメールは受け取れないという投資家もいますが、noteを通じた情報提供は可能です(そもそも、不特定多数が読める状態で、投資判断、目標株価が付していないものは投資助言に当たらないとの認識です)。

IRにお悩みをかかえている上場企業のマネジメント、IR担当者、上場準備中だけど資本市場との付き合い方が分からないという方、遠慮なくご相談ください。WARCとしてのビジネスという一面もありますが、基本は「日本企業の成長を後方から支援したい」という思いで、こんなことをやっていますので。

いいなと思ったら応援しよう!