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勝手にアナリストレポート Vol.1008:チェンジホールディングス(3962 TSE-P 時価総額1,138億円)

今日の勝手にアナリストレポートは、ふるさと納税プラットフォーム「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクの親会社であるチェンジホールディングス(3962)です。ファミリーレストランの配膳ロボット事業も展開したり、幅広い事業を提供している同社ですが、「Digitize & Digitalize Japan」をキーワードに人口減少という日本が抱える社会課題に正面から立ち向かっている企業です。当初はふるさと納税の急成長に連動する形で株価が上昇したものの、その後は他ふるさと納税プラットフォーマーのポイント還元施策によってシェアを落とすことをネガティブにみられ、株価も下落が続きました。前期でも売上の8割強を同事業が稼ぎ出しているので、それも致し方なしかもしれません。しかし、同社のコアコンピタンスはそこではありません。デジタル、ソーシャル、ローカルという3軸それぞれが弾み車として回り、ここもとは3軸間でも弾み車が回り出し始めています(「ここもと」ってD証券特有の言い方らしいですね)。そのあたりの評価の是非をこのレポートから読み取ってもらえると嬉しいです。

24年3月期2Q決算のポイント

注目すべきは打ち出の小槌が生み出す将来

<キーメッセージ>
〇ふるさと納税事業の駆け込み需要もあり、24年3月期2Qは好調に推移。特殊要因を除いた実質ベースでも会社計画を上回って進捗。
〇駆け込み需要の反動減が懸念されるものの、24年3月期会社計画の達成確度は高いだろう。加えて、イー・ガーディアンが下期連結化されることになる。
〇事業利益の約8割を占めるふるさと納税事業の変動が株価に与える影響は現状大きい。しかし、今後は同事業が生み出すキャッシュ、ネットワークが周辺事業の弾み車を大きくしていることにより着目していくべきと考える。

<サマリー>
チェンジホールディングス(以下、「同社」)は、2023年11月14日に24年3月期第2四半期決算を発表した。24年3月期2Q累計は、売上収益14,657百万円(前年同期比+147%)、営業利益4,329百万円(同37倍)。NEW-ITトランスフォーメーション事業売上が前年同期比+21%の2,967百万円と伸長したことに加え、ふるさと納税の前倒し寄付急増によってパブリテック事業売上が同2.8倍の11,572百万円に伸長したことが好業績に繋がった。前倒し需要インパクト(同社推計:営業利益2,845百万円)を除いても営業利益会社計画500百万円を超過して着地しており、好調さが窺える。
2Q累計進捗を踏まえると、24年3月期営業利益会社計画11,000百万円の達成確度は高いと言えよう。下期からはイー・ガーディアン(6050)連結化による利益積み上げも想定される(営業利益会社計画948百万円:23年10月~24年3月)。株主還元の面では、株主優待制度廃止に伴い、一株配当を10円から12.5円(普通配当12円、特別配当0.5円)に引き上げる。
良好なファンダメンタルズが確認されたものの、同社株価は、年初来安値1,386円に近しい水準で推移している。事業利益の85%がふるさと納税事業を中心としたパブリテック事業から生み出されていることから(23年3月期)、株価が同事業のモメンタムの影響を受けやすいことが背景にある。言い換えれば、今後ふるさと納税事業以外からの収益貢献が見通せるようになれば、バリュエーションの拡張も可能になるということになる。同社はデジタル、ソーシャル、ローカルの3軸で事業を展開する中で、ローカルが生み出したキャッシュとネットワークを従前取り組んできたデジタルと組み合わせ、最大限活用することで大きな弾み車を生み出している。先行する公共DX領域に加え、今後はセキュリティ領域においてもソリューション提供の拡張が進むだろう。データや経験値を積み上げている過程においては、収益インパクトが顕在化しにくいが、成長に向けた準備は着々と進んでいる。そのことが市場でも信認されるようになっていけば、自ずとバリュエーションの拡張が進む可能性がある。

<決算概況>

<本文>
チェンジホールディングス(以下、「同社」)は、2023年11月14日に24年3月期第2四半期決算を発表した。24年3月期2Q累計は、売上収益14,657百万円(前年同期比+147%)、営業利益4,329百万円(同37倍)となった。NEW-ITトランスフォーメーション事業売上が前年同期比+21%の2,967百万円と堅調に推移したことに加え、ふるさと納税の寄付が9月に大きく増えたことを受け、パブリテック事業売上が同2.8倍の11,572百万円に伸長したことが好業績に繋がった。背景には、総務省が23年6月に次回指定対象期間(23年10月1日~24年9月30日)から適用する改正内容(後述)を発表したことがある。前倒し需要の発生は営業利益にも大きく影響を与えており、同社推計では+2,845百万円のインパクトがあったとしている。この影響を除いても会社計画500百万円を大きく超過して着地していることから、実態的なファンダメンタルズも好調だったと言えよう。
ふるさと納税に関する具体的な改正内容は、(1)募集に要する費用について、ワンストップ特例事務や寄附金受領証の発行などの付随費用も含めて寄附金額の5割以下とする、(2)加工品のうち熟成肉と精米について、原材料が当該地方団体と同一の都道府県内産であるものに限り、返礼品として認める、(3)返礼品に附帯物をあわせて提供する場合、返礼品の価値が提供するものの価値全体の7割以上とする、というもの。この改正により、寄付額に対する返礼品の量が減少する、もしくは返礼品が廃止されるといったケースが想定されたことから、11月~12月の寄付行動が増えるタイミングから前倒しで寄付行動が行われた。
前倒しで需要を刈り取った形になるため、繁忙期となる3Qに反動減が生じる可能性は念頭に置いておきたい。9月にはふるさと納税の改正を報じたメディアも多かったことから、返礼品の目減りを懸念した層の駆け込みは相応にあったと考えられる。一方、メディア報道によってこれまでふるさと納税を行ってこなかった層が新規に流入した可能性もある。その層は10月以降も寄付を行う可能性があるため、同社推定の2,850百万円がそのまま反動減となるか現段階では読みにくい。同社は11月14日に開催した個人投資家向け説明会Q&Aセッションにおいて、「10月は相応の反動減があったが、徐々に回復してきている」との見解を示している。同社に限らず、各プラットフォーマーは反動減の影響を最小化するためのプロモーション行動を継続的に行っていることから、年間を通して考えた場合、ふるさと納税受入総額は2022年の前年比+16%を上回って成長することを想定しても良いだろう。


出所:総務省

 セグメント別の動向は以下の通り。
<NEW-ITトランスフォーメーション事業>
NEW-ITトランスフォーメーション事業は、売上収益2,967百万円(前年同期比+52%)、セグメント利益711百万円(同+21%)。同事業では、AI、音声インターネット、モビリティ、IoT、ビッグデータ、クラウド、セキュリティなどの各種アルゴリズム、基盤テクノロジーを活用したサービス(民間DX領域)及びデジタル人材の育成研修(デジタル人材育成領域)を提供している。民間DX領域においては、地域金融機関との非金融事業での連携、人手不足が顕著な業種・業界に対するDXソリューションやロボティクスサービス提供、が引き続き行われた。デジタル人材育成領域では、プラットフォーム型へのビジネスモデルの進化を加速させつつ、生成AI研修など最新DXを取り入れたコンテンツ開発が進められている。なお、イー・ガーディアンの連結子会社化が10月11日付けで完了したことから、今後はサイバーセキュリティ領域への事業拡大が本格化していくことになろう。
 
<投資事業>
投資事業は、売上収益127百万円、セグメント利益126百万円。同事業は4月13日で廃止となっており、期初から4月13日までの業績が計上されている。以降の投資有価証券損益は金融収益・金融費用に計上されている。
 
<パブリテック事業>
パブリテック事業は、売上収益11,572百万円(前年同期比+176%)、セグメント利益5,192百万円。同セグメント売上収益の約80%はふるさと納税プラットフォーム関連売上(プラットフォーム利用料、広告売上等)からなっている。今期に入ってからふるさと納税プラットフォーム「ふるさとチョイス」における手数料率の引き上げやOEM提供、決済手段・決済方法の多様化を進めたことが増収に寄与したうえ、9月には前倒し需要も加わったことから大幅な増収増益となった。
ふるさと納税の寄付を受け付けているプラットフォームには、ふるさとチョイスのほかに楽天ふるさと納税、ふるなび、マイナビふるさと納税、ヤフーのふるさと納税などがある。掲載自治体数は大手であれば約1,700自治体に到達しており(ふるさとチョイスは、23年11月に申し込み可能自治体数1,700自治体、御礼品数55万点を超えたと発表)、プラットフォームの差別化要因はポイント還元率、独自の返礼品取り扱いなどになっている。ふるさとチョイスはこれまでポイント還元というプロモーションが総務省の意向に反するものと考え、独自の返礼品を取り扱うことに注力してきた。そのため、他プラットフォームに比して高額納税者を多く囲い込んでいると言われている。ふるさとチョイスは手数料率も他プラットフォームに比べ半分程度だったとみられる(具体的なテイクレートは各サイト非開示)。他プラットフォームはその高い手数料率を元手にポイント還元を行った結果、ふるさとチョイスの市場シェアは直近20%程度まで低下したとみられる。このような状況に鑑み、同社も手数料率を他社並みの水準に引き上げたことが、大幅な増収増益に繋がった。同社はふるさとチョイスを通じて得た利益を自治体DX事業に投資するスタンスであることから、今後自治体DX事業の成長が加速することに期待したい。
同セグメントにはふるさと納税プラットフォーム関連売上以外に、自治体向けSaaS事業、エネルギー事業などが含まれている。その中で自治体向けSaaSサービスとして展開しているLoGoシリーズは普及が順調に進んでいる。先行して導入を進めてきたLoGoチャットは1,361自治体(有償753、無償608、23年11月6日時点)で活用されている。自治体におけるシェアは79%となっている。LoGoフォームも626自治体(有償511、無償115、23年11月6日時点)と伸長してきているほか、LoGo AIアシスタントなど新たなプロダクトの提供も始まっている。自治体に様々なデジタルソリューションを提供したうえで、様々な業務領域(介護、営繕、福祉、観光、窓口、調達、保育、等)を連動させていくことで、大きな弾み車が形成されていこうとしている。それぞれの市場規模は大きくないが、面を取っていくことで大きな市場を獲得できるようになっていく。ふるさと納税関連事業を通じて強い関連性を築き上げてきた同社だからこそ可能な事業拡大とも言えよう。
 
【業績予想】
24年3月期会社計画は、売上収益34,000百万円(前期比+70%)、営業利益11,000百万円(同+92%)、当期純利益7,211百万円(同+87%)。期初計画からの変更はなし。株主優待制度廃止に伴い、一株配当は10円計画から12.5円(普通配当12円、特別配当0.5円)に引き上げられた。
同社は、イー・ガーディアン(6050)に対する公開買い付けを行い、23年10月2日を以って終了している。その結果、払い込みが完了した10月11日付けで同社の連結子会社(議決権所有割合49.9%)となった。新規連結化に伴う修正計画は未発表。ちなみに、イー・ガーディアンの23年9月期は、売上高11,909百万円、営業利益1,778百万円、当期純利益1,229百万円、24年9月期2Q累計会社計画は、売上高6,491百万円(前年同期比+6%)、営業利益948百万円(同+1%)、当期純利益557百万円(同-15%)となっている。
ふるさと納税関連事業において、9月の前倒し需要発生が12月の繁忙期にどの程度影響を与えるのか、現状では判断が難しい。故に同社も通期会社計画の見直しを発表していないと思われる。株価の反応を見る限りにおいては相応の反動減を織り込んでいるように思われる。ただし、一時的な影響を除いた実質ベースでもファンダメンタルズが堅調であること、イー・ガーディアン新規連結化の影響、についても織り込まれていない可能性がある。日本市場においてアンダーカバレッジによってコンセンサスが醸成されていないケースで散見されるバリュエーション形成である。今後の同社からのアナウンスが株価に与える影響には注視すべきだろう。
 
同社は「Digitize & Digitalize Japan」をキーワードに人口減少という日本が抱える社会課題に立ち向かうことを標榜している。具体的には、ビジネスモデルや業務プロセスのデジタル化およびデジタル人材の育成に取り組むことで、日本の生産性を向上させようとしている。現在は22年3月期~25年3月期の3期を中期計画Phase2とし、「Local」に焦点を当てて事業に取り組んでいる。日本において、GDPの約7割は東京圏以外が生み出していることに着目し、デジタル化の恩恵を東京圏以外に行き渡らせることで、地域が抱える社会課題を解決し、地域の持続可能性を高めていこうとする取り組みである。25年3月期の数値目標は、売上収益780億円、営業利益200億円。営業利益200億円のうち、150億円を既存事業の成長から生み出し、残りの50億円をM&Aによって積み上げる構想になっている。M&A積み上げ分については、イー・ガーディアンの連結子会社化により40%~50%は目途が立った計算になる。
 
同社株価は、2Q決算発表翌日に窓を開けて上昇し、ザラ場では1,714円を付けたものの、その後は下落基調に転じ、年初来安値1,386円とのボックス圏で推移している。事業利益の85%(23年3月期)がふるさと納税事業を中心としたパブリテック事業から生み出されていることから、株価は同事業の変動によって影響を受けやすい傾向にある。今後バリュエーションが拡張していくためには、ふるさと納税事業以外からの収益貢献が拡大していく必要がある。言い換えれば、DJ2の達成確度引き上げ、DJ3(第3次中期計画)以降の成長可能性が市場から信認される必要があるということだろう。
同社は競合関係の問題等から、事業ごとの詳細な開示は行われていない。毎四半期主なトピックとして周辺事業の状況を開示しているが、数値面での言及が少ないため、ファンダメンタルズに織り込みにくくなっている。11月14日に開催した個人投資家向け説明会Q&Aセッションにおいて、周辺事業に関し、「DFAについては、投資をしながら新しいビジネスを開拓している状況です。中小企業の人手不足に対応するべく、省力化につながるロボット等の導入を後押しする支援策として、1000億円規模の補正予算が政府で閣議決定される等、業界として追い風になるニュースが出ているため、更なる普及に尽力していきます。ロゴスウェアは一定程度利益を出しており、グループの業績に貢献しています。ガバメイツは概ね計画通り進んでいます。エネルギー事業は事業開発を行っており投資を継続しています。」との見解を示している。ここで重要なのは、同社がデジタル、ソーシャル、ローカルの3軸で事業を展開する中で、ローカルが生み出したキャッシュとネットワークを従前取り組んできたデジタルと組み合わせ、最大限活用することで大きな弾み車を生み出しているということである。公共DX領域においては、業務モデルの標準化が進んでおり、地方自治体の様々な業務に対し、様々なプロダクトを供給できる体制が整ってきている。今後はコアとなる領域を自社開発しつつ、M&Aや業務提携なども通じて弾み車の大型化および多様化が進められるだろう。イー・ガーディアンの連結子会社化により、今後はセキュリティ領域においても同様のソリューション提供が進められるだろう。データや経験値を積み上げている過程においては、収益インパクトが顕在化しにくいが、成長に向けた準備は着々と進んでいる。そのことが市場でも信認されるようになっていけば、自ずとバリュエーションの拡張が進むのではないだろうか。

 最後に。今回の説明会資料で注目すべき2ページを転載させていただきます。

(出所:同社24年3月期第2四半期決算説明資料)


(出所:同社24年3月期第2四半期決算説明資料)



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