【超短編小説】階段とすべり台の面接
私は、部屋の前に立ち、ドアを三度ノックした。
内側から「どうぞ」となめらかな声がする。
声が聞こえたのを確認して、部屋の中へと進もうとする。
…つっかかった。
部屋のドアが狭すぎて、ぶつかってしまったのだ。
なんで普通のドアなんだ。せめて引き戸にしてくれ。
気を取り直して部屋に入ると、目の前に面接官がいる。
すべり台の、すべる部分だ。
背丈は、私と同じ。よかった。
この世界では、まず面接官と私の背丈が同じでなければ、話にならない。
第一関門は突破した。私は一安心した。
面接官は質問を始める。
「お名前を教えてください」
「はい。らせん階段です」私は答える。
「あなたのアピールポイントを教えてください」
面接官はなめらかな声のまま、私に問う。
「はい。そうですね…私をお子さんが登るときに、見える景色がだんだんと変わることでしょうか。いろいろな景色を見ながら、高いところにのぼれることと思います」
なるほど…と、面接官は少し考え込んだ後、もう一つ聞いた。
「そうですか。それではあなたは、ご自身で短所だと思うところはありますか?」
「先程お気づきとも思いますが…、体が大きすぎることです。なにせらせん階段は、普通の階段よりも少々場所をとりますから」
「そうですか…実は私、あの遊び場でお仕事する予定なんです」
面接官は手招きをしながら窓を指す。
私が近づいてみると、遊び場があった。
狭くて、遊具一つ置いたらもうほかには何も置けない、小さな小さな遊び場が。
「あなた、あの遊び場に入れる?」
無理だ…私は一瞬で察した。
私は、あの遊び場には入れない。
体を改造しないと、あの遊び場では階段の仕事はできないのだ。
なんで、なんで私はらせん階段なんだろう…!?
黙り込む私に、面接官は話した。
「あなたの考えは、聞かないでおきます。ただ、いろいろな景色を見ないと高いところへは登れなくて?」
気の迷いは後悔だった。