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巡る、朝ごはん
人生で初めて、母と2人きりで旅行に行った。
小さな頃は喘息が酷く、あまり出かけられず、小学校に入る頃には妹が生まれた。
そのため、2人で泊まりがけで出かけるという機会がなかった。
23歳にして、初めて母との2人旅だった。
今回の目的地は、鳴子温泉。
澄み切った青空に、まだ夏の香りを残した緑の山々が目に映える。
おびただしい数のトンボが、元気に飛んでいた。
かつては、このような景色が日本各地で見れたのだろう。
旅行中、いちばん印象深かったのは温泉でもなく景色でもない。朝食の時間だった。
母が突然ぽつりと言った。
「朝ごはんをこうして、2人で食べるのって何年ぶりだろう。」
確かに。
2人きりで朝食を食べるなんて、いつぶりかも思い出せない。
母の顔をよく見てみると、少し目に涙が浮かんでいるように見えた。
きっと幼い頃のわたしとの朝ごはんの思い出が、追懐してきたのだろう。
「旅」というものは、時に人の記憶さえ揺さぶる。
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