東京都北区滝野川・稲荷湯がタイムトリップ級ワンダーランドだった
「9月はまだ夏」を唱えておりましたが、とうとう10月に入りました。
強情なわたしですら秋だと思います。さすがに10月は秋。
こうして夏が終わってしまったのだと認めざるを得なくなったのですが、夏らしいこと、できましたか?
「少しは、した。でも全然足りない」くらいでしょうか。
わたしは1歳児を抱えていることもあってか、イベントらしいことは全くできず、ずーっと家にこもりきりの毎日でした。
♪夏の思い出〜、手をつないで〜、歩いたカ・イ・ガ・ン・線〜♪
みたいなワクワクはもちろんゼロでした。
あった人はおめでとう。
夏を感じることといえば、家にいるだけでやたらと汗をかいて、たまにあずきバーを食べるくらい。
そんな残念な夏を過ごしたわたしが唯一、心が踊った日のことを書きます。
稲荷湯を知ったきっかけ
ある日気まぐれに聞いた「古舘伊知郎のオールナイトニッポンGOLD」。
その回ではリスナーが「東京都北区の銭湯・稲荷湯が良い」とメールを送り、同区出身の古舘さんが「稲荷湯は良いよね!」と思い出と共に語っていました。
古舘さんの巧みな話術とあまりの絶賛ぶりに興味を持って検索してみると、なんと映画「テルマエ・ロマエ」のロケ地にもなった古き良き、趣のある人気の銭湯らしい!
えぇ〜〜〜!なにそれ!行ってみた〜〜〜い!!!!!!
どこにも行かず悶々としていたわたしは、「夜ご飯を作る時間までには帰ってくるから!」とベービさんを夫に預け、ある日曜日の昼過ぎ、ひとりで板橋駅へと向かったのでした。
到着までの気持ちの高ぶり
「え?北区なのに板橋駅が最寄りなの?」と疑問に思い、道すがらググってみたら、どうやらJR板橋駅は豊島区・北区・板橋区の3区にまたがる稀な駅だそうです。"板橋"駅なのに板橋区ど真ん中じゃないのかよ!面白いな!!
もうワクワク中だからなんでも面白いんだよ!ほっとけ!!
駅を出て踏切を渡ってすぐ、そんなに広くない道路沿いにびっしり立ち並ぶ個人商店の数々。
わたしがわかってないだけで、れっきとした商店街なのかな?
ただ立地が良くて立ち並んだだけのようにも見える、統一感なくひしめく個人店。新しそうなオシャレ美容院もあれば、山積みの本が傾いている古本屋もある。
近代化の波と下町の歴史のせめぎ合いにゾクゾクしながら歩を進め、ふと道を左に曲がると、
どどん!
急に重厚な屋根が出てきたーーーーーーー!!!!!
絶対ここだーーーー!!!!!
趣100%〜〜〜〜〜!!!!!!!!
いざ、入場
か、かっけぇ...。
まるで歴史の名所に来たんじゃないかってくらい静かな佇まい。
もはや神聖な場所にすら思える。
あまりの迫力に入口で立ち止まっていると、腰が90度近くまで曲がったおばあちゃんが慣れた様子ですごくゆっくり入っていきました。
おばあちゃんが見えなくなるのを待って、写真をバシャバシャ。
わ!暖簾にテルマエ・ロマエの人の絵がある!
嬉しい〜〜〜〜!!!!!!
え!文化庁から有形文化財として登録されてんの!?
やっぱ只者じゃないよねこれ!!!?
素人でも「こいつぁ...他とは違ぇな...」って気付きましたもん!!!!!
ゆーっくり暖簾をくぐると、早速男湯と女湯の仕分けが。
しっかり全体を見ようと思わなかったら、左右が男女の区別だと気付かずに下駄箱を使っちゃいそう。それくらいあっさりとした表示。
左の下駄箱に靴をしまい、女湯の扉をスライドさせて開けます。
さぁ、テルマエ・ロマエの世界に入らせてくれよ...!?
(※ここからは撮影禁止エリアなので、画像はありません)
古いを超えた、もはや別世界
いきなりそびえるは番頭台。
スーパー銭湯に慣れたわたしにとって、もうそれだけで感動です。
壁一枚で男女が仕切られ、番頭さんが両方の更衣室を見渡せるやつだ...!!
実在、したんだ...!!!!
ドキドキしながら表記通りの入浴料を現金で差し出しながら「こちらでお願いします。タオルとボディソープ貸してください」と、前もってTwitterで調べた最低限の武器(情報)で挑みます。
番頭のおばさんは明るく「はーい」と言いながら、ポンと裸のタオルとボディソープを渡してくれました。
そこで初めて気付く。
「あっ!バスタオルは有料って書いてあったから持ってきたけど、シャンプーや洗顔は全く持ってきてないわ...!!!」
そうなんです。滝野川稲荷湯さんのTwitterプロフィールにはきちんと書いてあったのです。
貸タオル、ボディソープ無料。貸バスタオル100円
シャンプー・トリートメント完備のスーパー銭湯に慣れ切った自分の愚かさに一瞬歯を食いしばりそうになりましたが、「まぁ風呂で忘れがちアイテム1位のヘアゴムは持ってきてるから、今日は十分!」と気を取り直して、ロッカーを選びに足を踏み出しました。
時刻は営業開始して間もない15:20。
白髪の方が4人ほど曇りガラスの向こうに見え、更衣室にはたっぷりした黒髪が麗かなおばさまが1人。
風呂場入口脇には常連さんのものと思しきシャンプー、洗顔、ボディーソープなど一通り入ったカゴがいくつも並んでいます。
いいなぁ、堂々と私物を置きっぱなしにできるくらい通っている人たちがいるんだなぁ。
常連さんの影に憧れつつ服を脱ぎ始めると、黒髪たっぷりおばさまが「あ!忘れ物しちゃった!10分くらいで戻ってくるから、いーい?」と番頭さんに確認を取って去って行きました。
「あの人も常連さんなんだなぁ、頼み方もカラっとしてていいなぁ」と横目で見つつ借りたボディソープとタオルを握りしめて、とうとう入浴場へ!
びっくり浴場
入った瞬間に気付きます。
「あっ、テルマエ・ロマエで見た富士山の絵は、男湯だけなのね...」
一瞬悲しくなる事実。
冒頭で載せた写真にあるような立派な富士山の絵は女湯にはなく、別の山が描かれておりました。
まさかこんなところで性差を感じることになるとは...と少しだけへこみながらも、髪と顔を水洗いし、借りたボディソープで体を洗っていきます。
この時間に来る人たちはみんな見慣れたメンバーなのか、ちょくちょくお客さん同士で会話をしていました。
もちろんみんなオーバー60歳(推定)。
浴場で黒髪はわたしだけです。
興味津々マンなので体を洗いながら周りを見渡すと、ふとあるお婆さまに目が留まりました。いや、惹きつけられました。
そこには見た瞬間「え?ここはジブリアニメの中??」と錯覚してしまうくらい、まんまジブリキャラクターにそっくりな女性(推定90歳)が!
ソフィー!!!!!!!!!
『ハウルの動く城』のおばあちゃんソフィー!!!
丸顔、大きな目、そして何より特徴的な大きい鉤鼻!!!!
に、似ている...!!スタジオジブリはこの人を描いたんじゃないか?ってくらい本物感がある...!!!!
しかも、しかもよ?
2人いるの!!!
おんなじ顔した、もっと若い女性(推定65歳)が、鏡挟んだ反対側で洗ってるの!!!!!
若い方は元気の良さが全身から発せられていたので、かなり優しい時の湯婆婆にも似ていました。
※ソフィーと区別をつけるために、ここでは湯婆婆と表記させていただきます
いやもうこれ、絶対母娘じゃん...しかもジブリキャラそっくりの...!!!!
一人で大興奮。
油断すると口を開けてガン見しちゃいそうでした。
イジってるとかじゃないの。本当に似てて、ただただ感動してるの。
あまりにもジブリの世界から抜け出てきたような2人の動きや会話を覗きたい気持ちでいっぱいになったのですが、不躾に見つめ続けるわけにもいかないので、体を洗い終えて浴槽へ向かいました。
熱湯トライアル
横並びに3つ並んだ浴槽。
「あつい」「普通」「ぬるい」の3種類がありました。
(※「普通」と書いてあったかは覚えてないが、とにかく適温の浴槽)
「ぬるい」は炭酸泉でもあるし、日曜日なので薬湯らしい。
ふむ。どこから入ってみようか。
手始めに、既に2人浸かっている「普通」へ入ってみます。
お、ちょっと熱め。
先客のお二人は安らいだ顔で目を閉じたり、絵を見るでもなく壁を無表情で見つめています。
なるほどこれが一番体があったまる良い温度だな〜と納得したところで、次は「あつい」へ挑戦。
ここには誰も浸かっていません。
どんなもんかしらと思って手を少しだけ差し入れてみると...
あっつ!!!!!!!!!!!!
え!?熱い!!!熱いよ!?????
すぐ抜いた指が少しじんじんするくらい熱い。
え!?そんなことある!??
「熱め」くらいだと思ってたよ!?
本当にただ「熱い」じゃん!!!!!!!
恐る恐る左足を入れてみても、やっぱり熱い。
ふくらはぎまで浸けたところで、熱すぎて全身が震えて止めました。
お湯が熱くて全身が震えるなんて、人生で初めてなんですけど...!?!????
経験したことのない熱さに完全にビビり散らかして「あつい」浴槽からすぐさま退散。
そして傷を癒すかのように「ぬるい」へドボン。
これはこれで「ぬるい」。
ぬるすぎる。なんというか、物足りない。
あれ?これは「あつい」を経験したせいで異常にぬるく感じてるのか??
まさか「あつい」「ぬるい」の2つはサウナと水風呂のように使うのか???
もう「あつい」の衝撃が大きすぎて、楽しみ方が全くわからなくなってきました。
わからなすぎて風呂の使い分けについて真剣に考えていると、入口で出会った腰が90度近く曲がっているおばあちゃんがノーマル浴槽に入りながら
「熱かったでしょう」とニコニコして話しかけてきてくれました。
入口では全く目が合わなかったおばあさんがフレンドリーであることや、「あつい」に秒で負ける姿を見られていたことに驚きつつ
「熱かったですぅ〜〜〜!」と反射的に元気よく返しました。
自分でも驚いたのは、自然と笑顔になっていたこと。
これが電車だったら、絶対に真顔で返答するか、良くて作り笑顔だった。
会話は、それだけ。
腰の曲がったおばあちゃんは悠々と「普通」に浸かり、じっと動かなくなりました。
初対面のおばあちゃんとの1往復のやりとりがあっただけなのに、それまでの初めての場所への鋭い探究心が嘘のように消え、急に体の芯からほぐれていくような落ち着きが訪れました。
うわぁ、なにこの感じ。
めちゃくちゃ安らぐ...。
おそらく90歳を超えている腰の曲がったおばあちゃんからしたら、初めて来た銭湯の熱いお湯と格闘していた30歳のわたしは子どもでしょう。
久しぶりの子ども扱い。
ママになり、自分のことどころか子どもの面倒まで乗っかり、知らないうちに気が張っていたわたしには、それがとても沁みました。
たった1往復の会話がもたらした心と体の平穏に浸っていると、おばあちゃんソフィーが「ぬるい」に入ってきました。
そのままわたしの斜め前に座り、気持ち良さそうに目を閉じます。
わぁ!ソフィーだ!!!ソフィーが来た!!!!!!
もうワクワクが止まりません。だって生ジブリだもん。こんなに高まるシチュエーション、そうそうないよ!
ソフィーが目を閉じているのをいいことに、思う存分ガン見させていただきました。
普通は初見で「芸能人と似てる!」と思っても、よく見たら「そうでもない」って萎んでいくじゃない?
それが逆なのよ。ソフィーがアニメキャラだからか、リアルソフィーは見れば見るほど、どんどんアニメソフィーになっていくのよ!!!!
しかも、「ぬるい」はソフィーとわたしの2人だけ。
すごい!今わたし、ジブリの世界にいるみたい...!!!!!
若干「ぬるい」の温度に飽きを感じても、ソフィーを間近で見たいがためにしばらく「ぬるい」に居座ったのでした。
リアルソフィーを十分堪能させてもらったところで、もう一度「普通」に戻ります。
はぁー、あったけぇ〜。
ずっとのしかかってる肩の凝りとか、なんか難しいこととか、わたしを縮こませようとしてくる全てが解けていく気がする温度。
気持ち良すぎてぽうっとしていると、視界の端で湯婆婆がソフィーに話しかけています。
一方「普通」湯では
「もう歳で...」と弱音を吐くおばあさんに
「あら今いくつなの?」
「68です」
「まだ若いじゃない!わたしなんて85よ!」
と励ます会話が繰り広げられています。
そうねぇ、わたしから見たら等しくおばあちゃんでも、20歳くらい離れればそりゃ事情が違うよねぇ...。
はぁ、あったけー...。
ぶくぶく、ぶくぶく......。
「普通」湯で十分温まったわたしは再度「あつい」に再チャレンジし、1回目よりちょっとだけ長い"両足ひざ下10秒"という結果を残して退散しました。
舞い戻った「ぬるい」で体を落ち着けていると、また別のおばあさんから「気持ちいい?」と尋ねられ「はい!」と笑顔で返す。また心の一部が緩む。
・・・あれ?
もしかして新人が「あつい」から逃げ帰る姿を見るのが常連さんたちの1つの楽しみになってる????
そういえばずっと「あつい」に入ってる人はいないな???
ま、いいか。
気持ちいいし。
下町でしたね
十分すぎるほど満喫した後、服を着てスッキリすると、先に風呂を上がっていたお婆さま方のおしゃべりが聞こえてきました。
東京オリンピックが開催されていた時期だったので、話題はもちろんオリンピック。
「競歩みた?」
「見た見た!」
「わたし競歩選手の股間ばっかり見ちゃってー!!」
「みんなの顔が違うように、股間もみんな違うのよね!」
「あっはっはー!!!!!」
・・・これまでわたしがジブリだなんだと感動していたメルヘンさはどこへやら。
そんなおばあちゃんたちに元気をもらって、帰宅しました。
🧚♀️🧚♀️🧚♀️
稲荷湯、超良かったです!!!
風呂と聞くとサウナに目が行きがちだけれど、シンプル銭湯は全く別次元の良さがありました。
今回は書けなかったけれど、明らかに初めてで更衣室をふらふら歩いているわたしに「それはお客さんが自分で作ってプレゼントしてくれたんだよ」等、さりげなく解説をしてくれる番頭さんも素敵でした。
湯もいいし、人もいい。
これは絶対、また行っちゃうな。
おばあちゃん繋がりで、古典芸能が楽しかった時の話もあります👇
過去の人気記事はこのマガジンにまとまっています🛁