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坂田銀時という男



●前書き

 2005年は、筆者の人生において生涯忘れることのない激動の年である。

 私は春に結婚し、夏に出産をした。24時間育児を続ける日々が続いていたある日、つけっぱなしにしていたテレビから新番組のアニメが始まった。

 「銀魂」である。

 江戸時代に襲来した宇宙人(作中では天人と呼ばれる)に侵略され、侍達は廃刀令により刀を奪われ、肩身せまく生きている、そんな突拍子もない設定に惹かれ、私は一話を観た。面白かったので、来週も観ようと、曜日と時間をチェックした。

 何週視聴した後か覚えていないが、私は原作コミックスをまとめて購入し、毎週ジャンプを買うようになっていた。買い物に出かけた際、お菓子売り場で食玩を買い、ガシャポンを回し、気付けば同人原稿を描き始めていた。

 そして19年の歳月が流れた。

 座布団に寝かせられていた赤ん坊は大学生になり、銀魂は77巻で完結、2021年には劇場版の完結編が公開された。映画銀魂THE FINALが公開されて3年経った今も、銀魂の人気は衰えない。原作者空知英秋は新作の漫画を発表しないまま、銀魂の続編も描くことなく沈黙を貫いているが、2025年には「3年Z組銀八先生」(スピンオフ)がアニメ化される事態となっている。

 銀魂の中で圧倒的な人気を誇る「坂田銀時」とは何者なのか、何が読者を魅了するのか。一銀魂ファンとして、私なりの考察をここに記そうと思う。


●坂田銀時のプロフィール

 公式設定によると、誕生日は10月10日、身長177cm、体重65kgとなっている。年齢は27歳。江戸かぶき町で「万事屋銀ちゃん」を経営している。廃刀令が出されているため、愛用の武器は「洞爺湖」と印字された木刀。親や師から受け継がれたものではなく、通販で購入したいわくも何も無いただの木刀である。

 まず注目すべきは「誕生日」だ。銀さんには家族がいない。元々は孤児であり、戦の跡場に転がる死体から刀や金品、食べ物を盗みながら生きていたところを吉田松陽に拾われた。原作の過去回想には松陽と出逢う以前の記憶は何一つ描かれていない。両親の記憶が1ミリも無いのに、自分の誕生日がわかるわけが無い上、「銀時」という名前も、誰がつけたのか分からない。

 天人が江戸に襲来したのは「20年前」と明確な記述がある。20年前、銀さんは7歳である。世が戦乱の時代に突入する前の7年間、誰かの庇護下に無ければ幼児が一人で生きていける筈は無い。しかし原作者は銀さんの出生に関する過去回想は徹底して描かなかった。

 原作8巻で、銀さんは星海坊主に「俺ァ欲しかったよ、アンタみたいな家族が…」と言っている。銀さんには家族の記憶が無い。原作者はコミックスのフリートークで「銀さんの名前の由来は金太郎の本名『坂田金時』」だと記している。名前に関しては松陽が付けた可能性があるが、誕生日に関しては公式キャラブックを販売するにあたって適当に設定したと見ている。     

 銀魂本編の中で誕生日を祝うエピソードがあるのは柳生九兵衛だけで、銀さんの誕生日を祝うエピソードは無い。だが銀さんは結野アナのお天気占いを見て「今日の天秤座は…」に反応していることから、誕生日は10月10日だと自認している。

 次に、銀さんは「女好きの遊び人」という設定になっているが、見境なく女を口説くことはしない。本人曰く「積極的な女は嫌い」、想いを寄せるのは気象予報士の結野クリステルである。銀魂に登場するヒロイン達は大体銀さんに対し好意を抱いてはいるが、全員揃って暴力的なので、銀さん自身は苦手としている。猿飛あやめの過激なアプローチに対しては容赦なく暴力で対応する。作中の描写によると「血糖値が高すぎてパフェは週一でしか食べられない(甘党)」、「ナースが大好き(衣装が)」、「上に乗られるより後ろから攻める方が好き」。憑いている守護霊は「アスラマン」(幼少の頃ガシャポンで購入したキン肉マン消しゴムの霊)。

 ちなみに弱点は「オバケ(幽霊)が怖い」ことと「泳げない」こと。松下村塾にいた頃、「糖分の匂いだけで当ててみせる」とスイカ割りに挑み、崖から落ちて溺れたことがきっかけでカナヅチになったらしいが、高市変平太の言っていたことなので真偽は謎である。


●万事屋を始めるに至る経緯

 銀魂の冒頭は新八と妙の父親の語りから始まる。幼き姉弟を残し、病で死んだ父親の回想から、成長した弟 = 志村新八が、バイト先の喫茶店で銀さんと出逢う。

 第一話で銀さんは既に「万事屋銀ちゃん」だった。そこに新八、神楽が加わり、珍奇な依頼を解決していくギャグバトル漫画だが、事あるごとに挟まれる過去回想シーンで、銀さんが万事屋を開くまでに重い過去を背負っていたことが少しづつ暴かれていく。

 孤児として吉田松陽に拾われ、松下村塾で桂小太郎、高杉晋助と出逢う。天人の襲来により、開国を許した江戸幕府は天人と手を結び、天人から国を守ろうとして蜂起した侍達を大量粛清した。師である吉田松陽は幕府に捕えられ、銀さんは「白夜叉」として、桂、高杉、坂本辰馬らを仲間に攘夷戦争で志士として戦った。しかし、その結末は幕府の役人達に追い詰められた挙句、友人達の命と引き換えに、師である松陽の斬首を命じられる。友の命を優先し師の首を撥ねた銀さんは、攘夷戦争終結後、粛清対象となった罪人リストにより投獄され、拷問を受けるが、池田夜右衛門の手により逃がされ、身ぐるみひとつで辿り着いたかぶき町の墓地で、墓の供物に手を出したところをお登勢に見つかり、拾われた。

 お登勢はスナックを経営している老婦人だが、銀魂において非常に重要な女性キャラである。護るべきものを全て失った銀さんは、お登勢が亡き夫の墓に供えたまんじゅうを食べた後、「(死んだ旦那と)一方的に約束してきた。この恩は忘れねェ。あんたのバーさん老い先短いだろうが、あんたの代わりに俺が護ってやる」と誓いを立てる。登場するたび「いい加減家賃払えクソガキィィィ!!」「うるせーババア!!」と喧々轟々だが、お登勢は亡き夫に雰囲気の似た銀さんに、スナックの2階を貸したのだ。銀さんは「何もやる事がねェから何でもやることにした」と作中で語っている。

 原作の23巻によると、万事屋を始めた当初は仲間が存在した。スナックで働きながらたまに掃除に来てくれる「チャイナドレスの女性」と、金丸君、池沢さん、古畑さんである。全員簀巻きにされて川に捨てられているので、生死のほどは不明である。


●銀魂の初期設定

 コミックスのフリートークで、原作者は「燃えよ剣」(司馬遼太郎著)の土方が大好きで、新撰組を舞台にした漫画を構想していたと明かしている。主人公は剣術修行のため上京してきた永倉新八で、沖田は女性、土方の造形は銀さんで、剣術道場に集まった皆が新撰組を結成する話を作ろうとしたが、どうにもキャラが定まらず、土方に「銀さん」という名前を当ててポジションを変えた途端色々まとまったという。

 漫画はキャラクターで決まると言っても過言ではない。銀魂の魅力は、個性豊かな美男美女達が多数登場するが、揃いも揃ってバカ、という点にある。バカではあるが、皆それぞれにそこはかとなく暗い過去を持っているのも共通している。ただ高杉晋助に限っては、ボケないので動かしづらいキャラだったと原作者は言っていた。

 原作者は連載当初、長くは続かないと思っていたらしく、キャラの名言は序盤の方が多い。死にかけのお爺さんが「死ぬ前に、昔好きだった女に会いたい」と万事屋に依頼した回(第11訓)から徐々に人気が上がったと語っている。人気が不動のものとなり、連載が長期化するにつれてキャラのセリフがめちゃくちゃ多くなり、コミックスのフォントは老眼では正確に読み取れないほど小さくなっていった。


●銀さんの強さ

 銀魂が少年ジャンプ作品の中で異質とされる点が複数ある。友情、努力、勝利をメインテーマとした王道少年漫画誌において、「主人公に必殺技が無い」「修行をしなくても最初から最後まで強い」「武器が通販で買った木刀」「主人公に向上心が無い(やる気がない)」などである。強敵と戦い一度はやられても、怪我が治れば仇討ちに向かい、必ず勝つ。(時には真剣も使う)

 重複するが、銀さんに家族はいない。松陽に拾われ、仲間が出来るが、それらも全て失った。

銀さん曰く

 「護りたいもんが二つあった。どちらも失いたくなかった。

  だがそのうち一つを捨てねェと、二つとも失う目に遭った。

  どっちも護ろうとした。だがそいつはどっちも捨てる事と同じだった」


 厳密に言うと、松陽の首を斬ることで、仲間の命は助かった。しかしその後、道を違えてしまう。桂はお飾りだけの幕府を潰し、天人のいない侍の国を取り戻そうと攘夷志士に固執、坂本は戦で利き腕に致命傷を負い、商いの道を極めるべく宇宙へ飛び立ち、高杉は何もかもを奪ったこの世界をぶっ壊す、と、テロリストになる。

 桂は何度も銀さんにもう一度共に戦おうと説くが、「俺ァ派手なケンカは好きだが、テロだのなんだの陰気くせーのは嫌いなの」と、袖にされてしまう。

 「武士たるもの、己の信じた一念を貫き通すものだ」と言う桂の主張に対し銀さんは、「お膳立てされた武士道貫いてどーするよ。そんなもんのためにまた大事な仲間失うつもりか? 俺ァもうそんなの御免だ。どうせ命張るなら俺は俺の武士道貫く。俺の美しいと思った生き方をし、俺の護りてェもん護る」と答えている。

 補足しておくが、桂も銀さんも「武士」ではない。仕えるべき主君がいない者は武士ではなく、ただの「浪人」である。武士は主君が辱めを受ければその仇を討つが、自分の家族や女子供が殺されても仇討ちなどはしない。銀魂の世界では、徳川茂々に仕える真選組や見廻り組の隊士らが武士である。

 アニメしか見ていないファンがいると仮定して敢えて書くが、銀魂の世界では「守る」という言葉は使われない。「護る」を徹底して使う。意味はほとんど同じだが、「護る」には助ける、庇う、大切にする、という意味合いがあり、特定の何かを自らの力を持って庇おうという姿勢を表現したい場合には、この字を使う方が効果的だとされる。原作者の「護る」への固執は銀魂の特徴である。銀さんだけでなく、登場するキャラクター達は男女問わず「護るために強く在らん」という矜持を持っており、ただひたすら「宇宙最強」を目指し、殺戮を続ける神楽の兄、神威は「失うもんがねェ強さは何も護れねェ弱さと同じだ」と銀さんになじられる。

 はなから何も持たざる者が、何かを手にし、戦うことでまた全てを失う。そしてまた新しく手に入れたものを、「護るために戦う」。「敵」として現れた者も、戦いが終わればいつの間にか「仲間」になっている。そうして銀さんは「絆」を繋いでいく。血の繋がりが無くとも、繋がれた絆はいつしか「魂」として共有される。

 銀さんと出逢った時に、松陽は銀さんに刀を手渡し、こう言った。

 「これからは剣(そいつ)をふるいなさい。敵を斬るためではない、弱き己を斬るために。己を護るのではない、己の魂を護るために」

 過去回想で、松陽の座学は全く聞いていなかった銀さんだが、おそらく脳ではなく心で受け止めていたに違いない。

 「俺にはなァ、心臓より大事な器官があるんだよ」

 それこそが坂田銀時の「強さ」である。


●銀さんの魅力

 ジャンプ本誌連載中4回行われたキャラクター人気投票で、銀さんの1位は不動だった。「主人公なんだから当然だろう」と思う人もいるだろうが、銀さんは設定上「イケメン」ではなく、濁った目にモジャモジャの天然パーマヘア、着物の着こなしはだらしなく、女にモテないことをたびたび嘆いている。ギャンブル好きで、酒癖が悪く、100回位ゲロを吐いていた。

 少年ジャンプは少年誌 = 読者層は基本男性、というのは成立しない。イケメンが多数登場する作品は男性以上に女性ファンが熱狂的に支持している場合が多い。事実、私は何度も同人イベントに参加したが、銀魂創作の島にいるのは9割以上女性であり、今も変わっていない。歴代のガンダム作品の中で、美少年5人を主人公にした「ガンダムW」も、熱狂的な支持層はほぼ女性だった。男性はガンダム、その他モビルスーツのデザインに興味を示し、プラモやフィギュアを収集するが、女性はキャラクターと、その人間関係を重要視する傾向がある。

 話を戻すが、銀魂には魅力的な女性キャラクターが多数登場し、皆それなりに銀さんに好意を抱いている。猿飛あやめ以外の女性陣も「生活能力は無いが、いざという時頼りになる男」として銀さんを認めている。だが、原作の中で銀さんは特定の女性と添い遂げることは無かった。銀さんは遊び人という設定だが、女性関係においては意外に真面目なのである。キャバクラやストリップ劇場に行き、アダルトビデオを観るが、男性としては普通のことである。作中一度だけ女性の着替えを覗いていたことがあったが、たまたま座っている位置から見えただけで、不法侵入をしてまで女性の入浴を除くような変態行為はしない。久兵衛と月詠は胸を揉まれているが、ラッキースケベ展開だった。銀さん自身には「体の関係を持ったなら責任を取って結婚する」という認識があり、飲みすぎて記憶に無くても、結婚を前提に付き合おうとはする(ドッキリ回)。

 ジャンプ限らず少年漫画の主人公で、堂々と鼻くそをほじり、万年金欠な上に二日酔いでゲロを吐いているキャラクターが他にいるのかわからない。日常ではまるでダメなおっさんだが、銀さんが輝きを見せるのは戦闘シーンだと断言したい。「白夜叉」というあざなは秀逸だと思う。「白い夜叉」と「白夜」(沈まぬ太陽)をかけているのである。

 銀さんはエモノが木刀でも、必殺技が無くても、絶対に負けない。一度護ると決めたものは、絶対に護り通す。

 「俺は自分の肉体が滅ぶまで、背筋伸ばして生きてくだけよっ」

 1巻で銀さんが言ったこの台詞は、非常にシンプルだが、彼の生き方を集約している。そして、銀魂という作品の冒頭で、新八の父親が今際の際に残した台詞にリンクする。

 「どんなに時代が変わろうと、人には忘れちゃならねーもんがあらぁ。

  たとえ剣を捨てる時が来ても、魂におさめた真っすぐな剣だけはなくすなっ」

 銀さんの魅力とは何か?

 敢えて言おう「ギャップ萌え」であると!


 銀さんは商売柄誰かに依頼されて戦いに巻き込まれる展開が多いが、私情でガチギレしたのは「地雷亜が月詠を監禁した時」「キャサリンが結婚詐欺に遭った時」「お登勢が次郎長に斬られた時」「徳川定々が舞蔵の腕を切り落とした時」の4回だと追記しておく。


●「銀魂」とは何か

 漢字二文字のシンプルなタイトルだが、銀色に輝く魂なのか、坂田銀時の魂なのか、銀さんが好きなパチンコの銀の玉なのか、如何様にも解釈出来る仕様になっている。

 この作品について特筆すべき点は複数あるが、最も興味深いのは、物語が「現在」と「過去回想」で並行して進行する点だと思っている。少年漫画であるならば、孤児である主人公がある日誰かに拾われ、生活を共にし、勉学や剣術を習いながら友を得る。世が戦乱の時代に突入し、保護者であり恩師である男はあらぬ罪を着せられ、政府によって投獄されてしまう。主人公は仲間と共に、戦乱を鎮め、恩師を取り戻すために蜂起し、その剣を振るう。これだけでひとつの物語として充分成立しているのである。それこそジャンプ漫画に相応しい、「友情、努力、勝利」をテーマにしたドラマと言える。しかし原作者はそれを「すべて終わったこと」として、「主人公の第二の人生」から物語を描き始めた。

 銀さんだけではない、真選組隊士や敵として登場する悪役にも、ことごとく過去回想を入れる。登場時の印象がどんなクソ野郎でも、悪行に手を出さざるを得なかった「悲しき過去」があることを、読者に突きつけてくるのだ。(骨の髄まで腐った奴も当然いる)

 神楽の家族が母親の病をきっかけにバラバラになってしまったことも、柳生九兵衛が女として生まれたにもかかわらず男子(当主)として生きる道を強いられたことも、武州の浪人達がが上京し、真選組を結成するに至った過程も、寺田辰吾郎と泥水次郎長が綾乃(お登勢)を巡って闘ったことも、独立した物語として充分に面白い。「登場人物全員バカ、下ネタ満載のギャグ漫画です〜」と装いながら、ベールをめくれば義理人情に溢れたドラマが多種詰まっているのが銀魂の魅力である。実際、個性的なキャラが多すぎるので、銀さんが登場せずとも、サブキャラをメインにして成立している話も多く存在する。

 連載を長引かせようとすればいくらでも出来たと思うが、原作者には限界があったのかもしれない。銀魂は「虚(うつろ)」という不死の存在が、宇宙間の惑星にある龍脈(星が持つエネルギー)をまとめて爆発させ、宇宙ごと破壊しようとする企みを阻止するための戦いへと向かい、宇宙と地球を救い、日常を取り戻すことで完結する。

 虚の風貌は吉田松陽である。不死者として永い時を生きるうちに、多重の人格が生まれた。何度も何度も殺され、人間への憎悪が募る中で、それに抗おうと生まれた人格のひとつが「松陽」だったのである。松陽の斬首をもって進む道を違えた銀さん、桂、高杉は、松陽の顔を持った残虐非道な怪物に対峙すべく、集結する。不死者にとっての救いは「死」だった。

 過去回想と現在がようやくつながり、銀魂は大団円で終わる。連載途中で原作者が事故や病気で急逝しなくて本当に良かったと思う。ちなみに公式キャラクターブックの原作者への127問127答で、「マンガとは?」の問いに対し「なんか銀魂の連載終わったら死にそうな気がするんですよね。気が抜けて。なんか変にツイてるし。」と答えている。

 銀魂とは何か、原作者視点で考察するならば

 「バカが世界を救う漫画です」

 が相応しいと思っている。


 人気投票回で銀さんが言った台詞はこうだ。

 「ここには完全無欠のヒーローなんてどこにもいねェ

  みんな欠点抱えた欠陥品ばかりだ

  でもだからこそ俺達はつながり合う

  互いに欠けたものを補おうと支え合う

  俺は一人じゃ何も出来ねェ不完全な主人公だ

  だが俺達不完全体達は… まぎれもねェ、完全無敵の主人公だよ」


●後書き

 漫画連載が終わり、映画(実写化も含む)が公開されても、銀魂の祭りイベントやコラボイベント、原画展開催など、その人気は衰えない。私は一度だけコラボカフェに行ったが、料理は不味い上、特典で配布されるポストカードはランダム配布だった。一緒に来てくれた親友が菩薩オーラを持っていたおかげで、銀さんと神楽(両方とも推し)のカードは入手出来たが、物販コーナーのアクリルキーホルダーは銀さんだけ完売していた。

 銀魂のキャラクターで一番人気は銀さんだが、土方十四郎、沖田総悟、高杉晋助、桂小太郎、神威の人気も相当根強い。コラボ商品のラインナップは大体がこのメンバーに、神楽が紅一点として入るのが定番化している。各キャラの誕生日には、Twitterに誕生日を祝うイラストや写真の投稿が溢れる。

 昭和生まれの私にとって、推しのグッズは出来(平面なら作画・立体なら造形)の良いものを選び、たくさんの種類を集めることに心血を注いでいたが、令和のご時世になり、新たな推しの形が現れた。

 「祭壇」である。

 推しのイラストを額に入れて飾り、同じ絵柄のアクリルスタンドや缶バッジを100単位で並べ、ぬいぐるみやフィギュアを飾り、推しの誕生花やケーキを供える。

 私は重度の高所恐怖症だが、どうやら集合体恐怖症もあるらしく、初めてその写真を見た時は「えっ、怖っ!!」と思った。

 これは銀魂に限らず、他のアニメやゲームのキャラに対しても同じで、「グッズに投資した金額 = 推しに対する愛の大きさ」を写真に収め、ネット上で公開するファンが増えているのだ。100人のファンが1つずつ買えば100の売り上げが、1人のファンが100個買うとなると、売り上げは100倍になる。ファンの承認欲求も満たされ、経済も潤う。原作者にも、著作権を管理している出版社にも版権料が払われる。

 以前、ある喫茶店が銀魂のキャラクターをイメージした紅茶を発売するとネットで情報を流していたが、ラインナップが銀さん、新八、神楽、妙と、銀魂のキャラ人気を全くわかっていなかったため、ラインナップを変えれば売り上げが上がることをコメントしたが、無視された。販売開始の時点で、案の定銀さんだけが売り切れていた。

 現在は銀魂のキャラクター人気に便乗する形で、コラボカフェやイベントチケット「購入前提」でしか、グッズは購入出来ないようになった。カフェやイベント、原画展も完全予約制か抽選制度になり、企業は銀魂の推しのためならいくらでも金を出す熱狂的なファンを対象にした確実な商法を展開する。

 私にはもう銀魂のグッズ収集に対する熱意は無いが、推しを「神」と呼んでいるファンを見ると、壺や水晶を買わされる宗教と変わらないと内心思っている。煙草、アルコール、セックス、麻薬、ギャンブル、買い物、宗教。人は何かに依存することで日常のストレスを解消しながら生きている。ただ、ストレスが荷重になるほど、依存度は高くなり、ものによっては「中毒」となる。アルコール、麻薬、ギャンブルは言わずもがなだが、推し活は誰にも迷惑をかけない上に、推しへの愛を語るファン達は皆キラキラしていて、楽しそうに生きている。

 生涯未婚率が上昇していると統計が出ているが、推しはファンを裏切らないし、浮気もしない。どうかその愛を貫き、棺の中まで添い遂げてほしいと願う。

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