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映画『aftersun』

ごく稀に、鑑賞後しばらく内容が頭から離れなくなる特別な映画に出会うんだけど、本作がまさにそれだった。
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物語は、31歳の誕生日を迎えようとしているソフィが、11歳の時に父親と行ったトルコ旅行のホームビデオを観ながら当時を回想するという、至ってシンプルかつ地味な内容。

キラキラした夏の思い出の端々に、どこか不穏な雰囲気が漂ってるんすよね。なのでいつか何か起きるんじゃないかしらって警戒しながら観るんだけど、実際は何も起きないんす。

が、次第にコレは「起きない」じゃなくて、「起こさない」ようにしてるんだなってわかってくる。
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ソフィの両親は離婚している。そして30歳の若い父親は、恐らく心に病を抱えている。

たまにしか会えない娘とのバカンス。これを最高の思い出にしようと、努めて明るく振る舞っている父親の姿が何とも痛々しい。

ソフィは幼いながらも、なんとなく父親の心の闇に気が付いている。彼の取る不可解な行動にも寛容な態度で接しており、その健気さもまた切ない。

ヤバかったのが、宿泊先のホテルでカラオケ大会(?)が開かれるシーン。ソフィは父親と一緒に歌いたくて、彼の大好きな曲を内緒でリクエストするんすな。これが運良く採用されてステージに呼ばれる親子。やがてイントロが流れ出す。

が、父親は「俺は絶対に歌わない」と、その場を離れない。

仕方なくソフィは一人でステージに上がり、ションボリしながら最後まで歌い切るという。

なおその曲とはR.E.M.の“Losing my religion”。

これ個人的にも大好きな曲で、要は「信じるモノを失った」って内容っすよね。

きっと父親は、それを歌ってしまったら、言葉にしてしまったら、全てが一瞬で崩壊すると思ったんじゃなかろうか。
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お前の笑い声を聴いた気がした
お前の歌い声を聴いた気がした
や、お前がそうしようとするのを、見ただけだった
だけどそれはただの夢
ただの夢だったんだ
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刺さりまくってさめざめ泣いちゃったよ...。

で、本作は全てが抽象的に描かれてるから、それが逆に想像力を掻き立てるんすよね。ラストシーンも色んな解釈が出来そう。

ゆえに観た人の感性によって、意見が全く別れるんじゃないかしら。

もしかしたらあの父親は単なる気分屋&照れ屋なだけかもしれないし。

とは言え、いま心が弱っている人なんかはなるべく避けた方がいい映画のような気もする。

いまメッチャ元気!って人が観たら、それはそれで全く響かないだろうから、そういう人もなるべく避けた方がいいかも(どないやねん)。

#aftersun
#アフターサン

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