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土鍋でごはんを炊いたのだ。

単身赴任者の食事はわびしい。
食べるものもワンパターンで、最早腹を満たすだけの作業だ。
食にはこだわりたいところだが、金と時間とやる気の三拍子全てがないので、どうしようもない。
あと、炊飯器もない。

がだ。現状に満足できているか?
いや、このままではダメだ。
ありのままの自分でいいわけないだろ。
決めた。メシを炊こう。
そうだ、ニトリに行こう。
自転車の柔くなったタイヤに空気を満たして出発だ。

レンジで炊飯できる便利グッズがあることは公式アプリでリサーチ済みだ。1,000円しない。
炊飯器は買わない。
なぜか?
この世の中それなりの金を出せば、魔法のような機能を搭載した炊飯器を購入できる。
しかし人間それでいいのか?
テクノロジーに身を委ねてしまった先に何があるのか?
待ち受けているのは思考停止だ。
脳みそのある生き物ができること。それは、S.O.U.I(創意)とK.U.F.U(工夫)。
限られた道具・環境でどれだけ高いパフォーマンスを発揮できるか、人間の真価が今問われていると言っても過言ではない。正しくはオレの真価。
よし、貧乏人の言い訳としては90点は出せてる。

そんなことを考えながら目的地に到着。
坂道で心地よい汗をかいた。
脇目も振らず売場へ直行だ。余計な買い物はしない。余計なモノは見ない。なぜなら欲しくなるから。
調理器具のコーナーを捜索。

ない。

コーナーの右から左へ目を凝らしながら探すがない。
裏に回ってみるがない。
レンジでパスタが作れるやつはある。
しかし炊飯できるやつはない。
公式アプリで店舗の在庫が確認できるみたいだ。

在庫切れ。

マジか。
出かける前、検索したついでに確認しておけば良かった。
時すでに遅し。
ネットで注文するか?
でも脳は炊飯する気満々だ。口の中でメシの味がする。
どうするオレ?
この込み上がる気持ちをクールダウンさせようと店内を意味もなく徘徊する。

絶対いらないオシャレな食器たちの対岸に土鍋が並ぶ。その末席に土鍋に入ったメシの写真がプリントされたダンボールと中身の土鍋が鎮座。足が止まる。

うまそう。

3合炊きの土鍋らしい。
思わず手が伸びる。手頃な大きさ。かわいい。けど少し重たい。
売り場の棚へ戻す。自転車だし連れて帰れない。
しかし脳内では土鍋の中で炊き上がったメシにしゃもじをつっこんでいる自分がいる。

おじさんと帰ろう。今日からキミはうちの子だ。
買い物カゴにうちの子を回収する。

会計を終えて自転車まで戻ってきた。カゴに納まるか不安だったがキレイに納まった。
できるだけ振動を与えないように段差を避けながら帰路へ着く。

スーパーで2㎏のコシヒカリを買う。最高のデビューにするためにここは金を惜しまない。
説明書の通り研ぎ汁で目止めを行い、いざ炊飯。
米を水にしばらく浸透させ、中火、とろ火、蒸らしとなかなか手がかかる。目が離せない。が、それが愛おしい。

きっちりと蒸らしの時間まで説明書通りに工程を進める。
そして全ての工程が完了。蓋を開ける。
何コレ?
最高という光のつぶつぶ達が、ライブハウスよろしくひしめき合いいい香りと共に湯気を放っている。

いらっしゃい。
思わず土鍋の真上に顔を寄せる。

初めてなのに一度に3合も炊いて大丈夫か不安もあったが予想以上の仕上り。神様が炊いてくれたのかしら?

土鍋しゅごい…。

炊飯に全集中するため、他の調理はしていないが、たとえおかずがスーパーの惣菜でも、即席の味噌汁でもこのメシにはなんでも合う。
この包容力。やっぱり神様が炊いてくれたのかしら。

これでオレのQOLも爆上がり。
炊きたてのメシおいしかったです。

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