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「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖 第三十六話
二時間後、到着した。
津野神さんは、私が先に行きますと言い、森二神さんの家のドアをノックした。扉が開き、なぜお前がおるのじゃと言った。サヨおばあちゃんに心三神が今何をしているか知っているかと聞いた。すると、あの子は最後の仕上げだと言っておったと話した。そして居場所を教えてほしいと聞かれても教えるつもりはないと言った。
しかし、それはこのかたの妹さんの命と引き換えにしているのだと怒ってくれた。
津野神さんは、サヨおばあちゃんの手を持ちながら、
「復讐するのにそこまでして森爺が喜ぶのか。自分たちの復讐ができれば、罪のない人の命を奪ってもいいのか。それは、あいつらがしたことと何が違うのか。サヨおばあちゃんも何の罪もないお父さんを殺されたから憎くてしようがないのじゃないのか。この人たちが何をした。伊藤さんに罪はない。天国で森爺が、サヨやっと会えたのと言ってくれるのか。」
私は百合と顔を見合わせた。
サヨおばあちゃんは、手紙か何か分かるものを探すと言って隣の部屋へ行った。
不思議そうにしている私たちに向かって津野神さんが、
「写真を一目見た時から、分かっていました。多分あなたが百合さんですね。こう見えても記者の端くれなので一度お会いした人の顔は覚えています。縛られて雰囲気が少しぐらい違っていても助手の伊藤さんだと分かりました。」
少し涙ぐみながら百合が、
「分かっていて協力してくれていたのですか」と聞いた。
「ジュンコから復讐の仲間に誘われましたが、私は協力しないと言いました。ただ、止めもしないとも言いました。罪になるのでしょうね。」
「いや、一般人ですから殺人の計画に参加していませんし、大丈夫でしょう。」
「ジュンコは、あれでも根は優しい子だったんです。元は研修医でした。一年前、急性アルコール中毒の患者が運ばれてきました。病状が酷かったので入院したそうです。
そのあと彼の境遇を親身に相談に乗るうちに恋愛に発展したとのことです。その後サヨおばあちゃんの話が持ち上がった時に、その彼が協力させてくれと言い出しました。お金は結構持っていたらしく、今回の計画とハッカーを見つけて来たとのことです。」
サヨおばあちゃんが戻って来た。ハガキなどはなく連絡先は分からなかったらしい。ただ、コレが心三神の彼との写真だと見せてくれた。
やっぱりと言った。それを聞いた津野神さんが知り合いですかと尋ねた。
「此処最近、私を追いかけまわしている、ある犯罪者の弟です。実質、私がその姉を刑務所送りにしました。」
「逆恨みですか。」
百合が、ちょっと見せてと言いながら、
「この人どこかで見たような。」
「どこで見た。」
「ちょっと待って、あっそうだ。京友禅の老舗のお店が見本市を晴海で開いたのよ。その時、ビルの前でスタッフが交通事故にあったんだけど、私は何もできずに救急車を待っていたら、真っ先に助けに来てくれた人がこの人だった。
その時、順子こっちだと言って、奥さんらしき人を呼んできて、持ってきたAEDを使ってくれたおかげで一命をとりとめたことがあったの。
パトカーが来たあとお巡りさんにそのことを話したんだけど、その人は立ち去っていなくなっていたわ。お巡りさんが、手際が良かったので、医療関係者だと思いますとは言っていたけれど、だれも見たことがないって言っていたわ。」
私はロダンになった。
津野神さんも百合もこの態勢を知っているため、期待しているのが横目でも分かった。
ロダンが解けた私は、津野神さんと百合に二人の居場所を見つける方法を思いついたと話した。しかし、血を抜かれだしてから、今で約三時間半。晴海として約二時間。十時間で死亡するということは逆算すると、救い出すのに四時間半しかない。しかし、それよりも一時間の余裕は必要と思われる。すると・・。
「サヨおばあちゃん、伝書鳩は残っていますね。」
「あんたらが来てから使っておらん。」
すると、ここから晴海まで約八十キロ。伝書鳩は風などに影響され完全に直線を飛ぶわけではないのと、此処にあるのは競争用の伝書鳩ではないから、時速五十キロから六十キロだろう。
そうすると、約一時間半から二時間だから、救い出すのには約二時間半ほどだ。結果一回しかチャンスはない。もしも、待ち構える場所を間違えるようなことになれば、伊藤さんを救い出すことができなくなる。晴海だという確実な材料は他にないのか。
百合が、何かないかといら立っていると、
「おばあさん、その人が最近来たことはないの。」
「もう二、三週間前じゃな。」
「その時に何か買ってきてもらったものはなかったの。」
「あるよ、甘いものが欲しくなるから、飴を沢山買って来てもらった。」
「じゃ、その時のレシートは残っていない。」
閃いたような顔をした津野神さんが、
「そうか。そこに店の名前が書いてあるのか。サヨおばあちゃん、そのレシートは残していないの。」
「残しておるよ。」
後ろの水屋からレシートを出して確認した。しかし、その場所は奥多摩のコンビニであった。近所で買えば足がつく可能性を考えての事だろう。
時間は刻々と過ぎていく。
津野神さんがさっきの写真を見せてほしいと言った。それを見せると、動画は送られてきていないのですかと聞かれた。来ていますというと、送ってもらうことはできますかと言われたので、父に電話をして送ってもらうように頼んだ。
佐々木刑事が来ていると言ったので、変わってほしいと言うと、
「佐々木刑事、私は、津野神さんと百合と三人で森二神さんの所に来ています。」
(そのおばあさんが犯人ですよね、なぜそこにいるのですか、絶対に協力なんかしませんよ。)
「いや、協力してくれています。詳細は後でお話をするとして、お願いがあります。伊藤さんの監禁場所を探っていますが、残り時間からチャンスは一回しかないので本丸に行く直線道路を探しています。探し当てることができれば電話しますので、そこに警察官を配置してほしいのです。」
(分かりました。課長に伝えてすぐに動けるよう手配します。)
ピンという音でメールが来た。
三人で見ていると、津野神さんがやっぱりと言った。そして拡大してみたいので貸してくださいと言われた。
「教授、伊藤さんはやっぱり晴海です。それも埠頭のビルの一室です。すみません。家に電話してください。佐々木刑事とお話しがしたいのです。」
「分かりました。」
佐々木刑事が、
(何でしょう。)と聞いたようだ。
「津野神です。至急パソコンを開いて伊藤さんの動画を出してください。その後、伊藤さんのベルトの金具にカーテンの隙間から外が映るシーンで停止して拡大して下さい。そこにレインボーブリッジが微かに映っていると思います。確認してください。」
しばらくすると、
(今確認しました。映っています。)と言ったようだ。
「これで大体分かりました。あのサイズの金具に映るぐらいなので、場所は晴海の埠頭近くであり、鳩の巣を置いても大丈夫な古いビルでしょう。そして五階より下の階でレインボーブリッジが見える側の部屋だと思います。ただ、埠頭からの距離は分かりませんが。ここからは早乙女教授に変わります。」
「早乙女です。今、津野神さんが言ったとおり間違いないと思います。晴海埠頭に警察官と救急車を派遣してください。人質の安否が心配になりますのでサイレンは鳴らさないでください。」
「分かりました。」
「あと、多々良班の大道さんに伝書鳩を六羽とも放ちますので、GPSを追って下さいと伝えて下さい。その一羽でも晴海埠頭に着けば、そこが彼らのアジトです。時間がなく、チャンスは一度だけです。みんな協力して本丸に突撃してください。私も伝書鳩を話したらすぐに向かいます。」
そういうと、サヨおばあちゃんに津野神さんの住んでいた家を開けてもらい、三人が入っていった。鳩を確認すると六羽とも元気であった。津野神さんがどこにGPSがあるのですかと聞くので、尻尾に付けてあるはずですと言うと、これでは落ちる可能性があります。今回は失敗が許されないので、必ず着くために足に付けましょう。多分巣箱は屋上でしょうからすぐに見に来るとは思えませんと言い、鳩の足に付け替えた。
「さすが記者の方ですね。あの写真を見てレインボーブリッジと分かるなんて。」
「いえ、伊藤さんのおかげです。」
「どういうことですか。」
「写真を見たときに右手で手話の文字を表しているように見えました。そのあと、動画を見て分かりました。【ハルミ レインボー】と。」
百合と私は、目を併せて頷いた。
サヨおばあちゃんが、
「セリちゃん、この手紙を付けてくれんかな。教授の妹さんを無事に返すように書いたので。」
「分かったわ。これが届くように願っていて。それと分かっているわね。自主してね。そして弥刀井白朗には必ず天罰が下るから、私は信じているわ。」
観念した様子のサヨおばあちゃんは、
「あとで警察に電話しておいておくれ、迎えにきてほしいと。」
「いや警察は既に進入路の入口に待機しているわ。」
佐々木さんに用意ができたので今から鳩を飛ばします。あとで会いましょうと言って、電話を切った。鳩のかごをもって外に出た。かごの扉をあけて鳩の体をもって一羽ずつ空へ飛ばした。
「さあ、伊藤さんを救いに行くよ。」と百合が言った。
三人は車に乗り込みエンジンをかけたが、津野神さんは、サヨおばあちゃんが見送る姿をいつまでも見ていた。
鳩の位置は、逐次、佐々木刑事から連絡が入った。六羽とも集落の上を三回ほど周回したあと、順調に都心に向かっているとのことだ。
我々はと言うと、佐々木刑事から西青梅署の署長に連絡をいれていただき、パトカーの先導によりノンストップで晴海埠頭へ向かっていた。
百合は前を向き戦闘態勢になっていた。途中、高速に乗る際、ETCではなく料金所のゲートから入ったのだが、マイクで緊急車両二台が通りますと言いながら通った車がこの車なので、これが緊急車両なのとビックリしていた。
ところでさすが伝書鳩だ、ノンストップのわれわれよりも早く、既に新宿に到達していた。しかし一羽ははぐれたのか、それともGPSを落として壊れたのか、見当たらなくなったようだ。電波の出るものを付けているせいか方向感覚を無くすものもいるのだろう。申し訳ないと思った。
佐々木刑事から見えたという連絡があった。古びた五階建てのビルの屋上に降りたようだ。住所をメールしてもらったので百合がナビに入れていた。私たちも汐留だ。数分でつきますと伝え、此処からは連絡なしになった。
パトカーは汐留インターを降りると左により、減速し停止した。ゆっくりと横を通り、頭をさげると警察官二人が敬礼をして見送ってくれた。
百合が隣で、必ず救い出しますと大声で言い、ぐーをしながら両手を上げた。