「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖 第三十二話
第十五章 正体?
令和4年4月24日(日曜日)午後3時
警視庁9階会議室
佐々木刑事が、お聞きしたいことがあるのですがと話しかけて来た。どのようなことですかと聞くと、今日大学から帰る時、校内で結衣の弟に会いました。すると加藤が変なことを言っていましたから気になって。と話して携帯の写真を見た。
「この人です。学内で篠山唯彦と名乗っていました。」
「教授、こいつは浅倉甲唯〈アサクラ カイ〉と言います。結衣の弟です。外資系ホテルのフロントで働いていましたが、姉が捕まった時に帰って来ました。
最初は四男の力さんも帰って来て、一緒に頑張ろうと言われたらしいのですが、力さんが貰うはずであった三千万円を貰い、消息を絶っていました。
それが、学生でもないのに大学で教授に対してよからぬビラを撒いていたとは。」
「逆恨みです・ね。」と苛立ちを隠さない伊藤さんがいた。
頭を下げながら佐々木刑事が、
「申し訳ありません。教授を巻き込んだだけではなく逆恨みだなんて。本当にお詫びのしようもありません。今度見かけた時は、名誉毀損に当たる犯罪行為だと言って終わらせます。」
「いえ、名誉棄損は親告罪ですし、告訴するきもありません。ただ、学生ではありませんから人の批判行動のビラなので、退去はお願いしたいと思います。そうすれば、やがて収まるでしょう。本学生からも拒否されているようですから。まあエスカレートしないように守衛さんには伝えておきます。」
弟ということで少し違和感を覚えていると、そこに多々良刑事が入ってきたので気を取り直した。
息を切らしながらの多々良刑事が、
「お待たせ致しました。途中混んでおりまして、ギリギリになり申し訳ありません。」
「いいえ問題ございません。では、早速ですがご報告をお願いします。」
「はい。まず、本日6時前に集合し、西青梅署に向かいました。8時前に到着し、用意頂いていた車に乗り換え、三枝の案内で森二神さんの自宅に直行しました。ここで、私だけ家に入り話しをしました。」
「すみません。中にはすんなりと入れていただけましたか。」
「そうですね。一応、ダムの死体の件で聞きこみをしていると言うとすんなりと入れてくれました。そういえば、既に昨日話したが、ということはなかったですね。」
「そうですか。変わった質問ですが、お茶は出ましたか。」
「番茶ですが、と言って出してくれました。」
「そうですか。では、その先をお願いします。」
「話していると、あの奥さんは、地の人ではなく。山形の出身とのことでした。そこで教授の意図が分かりました。同郷なので真意が聞けるかもと思われたのではないですか。」
「ええ、話していると所々に東北弁の名残りがありました。山形県とは思いませんでしたが。」
「同郷ということで、山形県の話で盛り上がりました。その中で、二つ気になったことがありました。」
「それは何ですか。」
「一つ目が、訛りが中途半端でした。聞いてみると、長年こっちにいるからとは話していましたが。もう一つは子供の話が過去形でした。」
何がおかしいのかという顔をした佐々木刑事が、
「年齢からいってお子さんが亡くなったのは早すぎると思うが、ないとは言えないだろ。それが気になることか。」
「孫がいるのかと思ったが、その子は十六歳の高校生で亡くなったらしい。だから孫がいることはないみたいだ。ただ、コンビニの袋がゴミ箱に入っていた。ということは誰かが持ってきたと思われる。それも昨日のうちに。」
「何故、昨日来たと断定できるんだ。」
「昨日の部屋の状況を教授からメールで頂いていたからな。ゴミ箱は空だった。」
「昨日私たちが帰ったあと、連絡を取るのではないかと思い部屋の状況をメールし、何か変化がないかを探ってもらっていました。」と話した。
「それでは続けます。おかしいと思い孫の話をしたが孫はいないと話していた。だから、水屋にあった写真が亡くなったお子さんですかと聞くと、そうだと答えた。しかし、教授からの事前メールには写真がカラーであったのと後ろの背景に道路があり、そこを歩く人が写っていた。」
「それって、昔あった歩行者天国じゃ。」と加藤刑事が叫んだ。
「そうだ。だから十歳ぐらいにしか見えない子供が、昭和四十五年に娘であるはずがない。再婚でもしていれば別だが、娘が死んで生き恥をかいていると話していた。」
伊藤さんが、整理して話してくれた。
「すると、今なら60歳過ぎですね。つまりあの写真を撮っているお母さんが娘ということは、その娘さんは80代から90歳前後、そしてあの森二神さんは、年齢110歳は超えていることになり、そんな高齢者には見えませんでした。
その年齢の人を一人山奥に都が放っておいたとなると、福祉課は何をしているんだって、大問題に発展するかもしれません。だから娘さんと考えれば理屈が成り立つのではないでしょうか」
みんな納得していた。
「伊藤さんのいうとおりと思います。そして教授に言われていたので、被害者が神崎さんだと告げると、早くにダムで何をされていたのですかね、と言っていました。」
その言葉に佐々木刑事がすぐに反応した、
「それはおかしいな。私も教授も朝の7時頃に見つかったとは言っていないし、それよりも早くに殺されていたことも話していない。記者会見を見たということもテレビがなければそれも無理だ。」
「その後、神木の話をしたけれど、今どこにあるかは知らないし、昔、村のどの辺にあったかも覚えていないらしい。何かを隠すために神木の件も隠していると思ったので、世間話として、沈んだ村のことを聞いた。
村は川を挟んで二つあったと、そして自分の村だけが反対運動が起こったが、旦那さんが命を持って穏便に済ませたと話していた。」
頷きながら佐々木刑事が、
「それは俺たちも聞いた。最後は神木で首を吊って自殺したと。」
「そしてその後、亡骸はどうされましたかと聞いた。すると、死五神家が丁重に弔い、共同墓地に埋めたとのことだ。しかし、今はダムに沈んでいるらしい。私からは以上です。次に鳩への発信機装着に関して副班長の大道から報告させます。」
「大道です。早乙女教授がおっしゃるように、袋をかぶせて真っ暗な状態で買われていた鳩が、六羽いました。一応六羽とも付けました。そして監視していますがまだ飛び立っておりません。念の為、外の巣箱を確認したところ一羽もおりませんでした。」
伊藤さんが、外のハトはと言いながら、
「鳴き声が聞こえていたので、鳩はいたはずですけれど。」
「それは、連れて帰ったのでしょう。そしておばあさん側の鳩を連れてこないはずはないので、鳩は足されて全部で六羽と言うことだと思います。」
以上の報告を聞いた私は、手強い人だと思うと話した。
伊藤さんが「何故ですか。」と聞いてきた。
「こちらに真意を知られる間際で道を外すような手法です。微妙な方向のずれを起こすように小出している気がする。」と話した。
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