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Buddy is a living spirit(相棒は生き霊)第八章

注釈
 「 」かぎ括弧は会話
 ( )丸括弧は心の中の会話又は電話等
 [ ]角括弧は生き霊の会話

第八章 刑事の懐へ 藤沢中央署前
 
 アパートで着替えたあと、事情聴取のため署に出勤した。今日まで、非番ではあるが、緊急案件の対処なので出勤してきた。
 交通課に入ると、係長が「今日は非番だろう。」と言ったが、今日の一連の事件を話し、このあと事情聴取を受ける予定である旨を話した。

「立て続けにお手柄だったな。空き巣と殺人とは。」

「一応殺人は否認しておりますが。もしかすると、その空き巣の居直り強盗かもしれません。」

「分かった。取り敢えず席で待機をして、呼ばれたらすぐに行くように。」

 返事をしたのち、横に座る後輩の三村婦人警官から「ものすごい洞察力ですね。どこで訓練していたのですか。」と聞かれた。
 山神が聞いているので話すのをためらっていると[日頃から私的な生活から訓練しておりました、と言え。]と山神から言われた。
 
 ほぼ自分の力ではないため、かなり迷っていたが、山神が言うのであればと思い「普段から遊びでも訓練と思い、観察していました。」
 三村は、私にはついていけないというように身体を震わせ、両手で無理無理としていた。

 しばらくすると、山神班の刑事が呼びにきた。一緒に取調室に入ったが、中は初めての経験だ。逮捕したとしても現場か署内で刑事に引き渡すまでであり、それ以上重大な事件は現場整理ぐらいだから中身はさっぱり分からない。

 向こうを向いている南田副班長が立ち上がりこちらを向いて、
「今日は非番なのに申しわけない。もう少し時間をくれるかな。」という言葉が、犯人に話すような口調であった。神山は少し不安になった。
 それに姿勢正しく対面に座ると取り調べを受けるような感じであった。
 
「明日が出勤日ですので、今日は平日の身体になっておりますから大丈夫でございます。」

「神山君に聞きたいのは。現場のことではなく、何故あの場所にいたのかということなんだ。」

「それは、現場でお話しましたように、ジョギングの途中で不審な男が勝手口から外出しようとしたからです。」

「あの家の苗字がハジメではなくニノマエだといつから知っていたんだ。管轄地域でもないから巡回連絡カードも見ることはないだろ。普通、横一の読み仮名はハジメだろ。だからニノマエという読み仮名がどこから出てきたのかを聞いている。」

(山神さん、ピンチです。助けて下さい。無視か。たぬきじじーめ。署内ではどこにも行けないと言っていたじゃないか。卑怯者。クソッ、こうなったらハッタリしかない。)

「見つけた時から怪しかったので、咄嗟に閃(ひらめ)いた案です。ニノマエと読むというと大変な慌てようだったので間違いがないと判断しました。」

「おかしいな。駆けつけた警察官は、君からここはニノマエさんの家だと言われたと話していたが。」

「それは聞き間違いです。すぐに逃げられたので前後が逆さまになったんだと思います。あの時は追いかけるのに必死でしたから。」

「分かった。」

「何故そんな些細なことを調べておられるのですか。それに何故山神班がすぐにきたのですか。」

「それはたまたま近所で聞き込みがあったので最初に駆けつけたんだ。」

 何か隠し事をしているような雰囲気であったが、そのことだけであればこれで失礼致しますと部屋を出た。

 部屋を出るとすぐに山神が、
[南田のやつ、相当焦っていたな。]
 
(どういうことですか。)

[殺された一(ニノマエ)さんの奥さんは、情報提供者の奥さんなんだ。一応ご主人は保護していたんだが、まさか奥さんを狙うとは思っていなかったから。ガードを付けるべきだと悔やんでいるんだろ。」

「すると、私が何かの情報を持っていると思ったということですね。」

「なんの情話を持っているって。」と署長がそばに立っていた。

「いえ、なんでもありません。失礼致します。」と言って立ち去った。

[もしかすると、疑われているのかもな。]

(誰がですか。)

[お前だ。]

(そんな。ニノマエさんなんて初めて聞いた名前というか、そんな読み方があることも知りませんでしたよ。)

[少し起動修正する必要があるようだな。]

(どういうふうにですか。)
 
[それはこれから考える。]

(ええー。考えがないということですよね。)

 いつのまにか交通課に着いていた。係長から、もともと非番なので帰宅するようにとのことであった。神山は服を着替え、署を後にした。帰る間(あいだ)、ずうっと山神に話しかけたが返事はない。痺(しび)れを切らして「山神さん。」と大声を出すと[瑠璃。]と返事した。見上げると神山のアパートまで来ていたのだが、瑠璃がドアの外で神山を待っていた。

 慌てた神山は、二階へ駆け上がり、
「瑠璃さんどうされたのですか。」

「すみません。どうしても確認したいことがありまして。今日は非番とお聞きしておりましたのでお伺いしたのですがお留守なので、そろそろ帰ろうかと思っていました。」

「そうでしたか。今日は大捕物がありまして、緊急で署へ出勤していたんです。」

「お疲れのところを申しわけございません。ゆっくり休んで下さいませ。私はここで失礼させていただきます。」

[神山、招き入れろ。]

(いいんですか。)

[やらしいことは考えるなよ。]

(そんなことするわけがないじゃないですか。山神さんに見張られてるんですよ。いや、見張られてなくともそんなことしませんよ。これでも志しを持って警察官になったんですから。)

[分かったから早く家に入れろ。]

「私は平気ですので、どうぞお入り下さい。」

「それではお言葉に甘えて。」

 神山は玄関の鍵を開け、どうぞと言いながら中へ招き入れた。汚いベッドルームの扉を閉めてテーブルを片付け椅子に座るように話し「今お茶を淹れます。」と言うと、瑠璃は「先に座って欲しい。」と言った。少しおどおどしながら瑠璃の前に座ると、
「今日、お伺いしたのは他でもありません。父のことです。」
 
 神山は、どんな爆弾を投げかけられるかと動揺した。

「神山さん。どうしても納得がいかないことがあります。何故お墓を知っていたのですがか。」

「それはお話しした通り、南田副班長にお聞きしたんです。」

「それは嘘ですよね。あの後、交通課では何も教えていただけないので、南田さんにご連絡をして事故の状況を聞きました。その際神山さんのお話になったのですが、その中でお墓の場所を話したことはないと言われてました。」

(あっちや。どうしましょ、山神さん。)

[そうか、それで南田が怪しんでいるのか。あいつなら異変を感じ取ったかも知れない。お前の行動がおかしいと言うことが。閃いた。瑠璃に私の正体をバラせ。]

(いいんですか。)

[それしかこの窮地を脱する方法がない。いいからバラせ]

「分かりました。今、お父さんとお話をして瑠璃さんに話せと言われました。」

[神山!お父さんってなんだ!]


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