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Buddy is a living spirit(相棒は生き霊)第二章

注釈
 「 」かぎ括弧は会話
 ( )丸括弧は心の中の会話又は電話等
 [ ]角括弧は生き霊の会話

第二章 翌日午前11時 山神の入院する救急病院へ 

 錯覚かもしれないが、あのままではおかしくなりそうなので病院に来た。きのうの病室の前でノックしたが返事はなかった。そうっと開けて、下を向いたままゆっくりと入り、勇気を出して顔を上げた。 

 神山の意に反し、今日はコチラを向いていた。

[小僧、遅かったな。二日目は勤務に合わす必要からもっと早く起きているはずだろう。] 

 また錯覚だと神山は思った。しかし昨日と同じで声も聞こえている。今日は若造から小僧になっていた。もしかすると、山神の車を誘導したために事故に遭ったと恨んでいると思った。

「でも、恨むなら突っ込んで来た人を恨んで下さい。私は無実です。」と言いながら両手を合わせて天に祈った。 

[小僧、うるさいぞ。]

「あああっ。神様、仏様、御先祖様、今までの行いを悔い改めます。今後は御先祖様を敬(うやま)います。また、信心深くなることをお約束いたします」と目を瞑(つむ)って呟いた。

[小僧、さっきから聞いてりゃぶつぶつと。いい加減にせい。目を開けろ、この小心者が。]

 恐る恐る開けると、やっぱり立っている。神山は思い切って聞くことにした。

「あなたは私の中の虚像ですよね。」 

[いいや、お前にだけ見えるらしい。]

 「そうですか。」と言い、「ええそんな。」その後、天井を見つめ夢じゃないんですかと大声を出した。

[大きな声を出すな。俺が見えることを喜べ。]

 「喜べませんよ。そうだ以前聞いたことがあるのですが、現世で未練がある人がお化けになるって。」

 [バカやろ、まだ死んではおらんわ。]

 「そうか昏睡状態だから生き霊(いきりょう)か。ええ、生き霊って恨みを持ってる人に取り付くんじゃないんですか。」

 [それは知らんが小僧に恨みはない。]

 「では、何故私に見えるのですか。」

 [わしにも分からん。もしかすると目覚めるために必要なのかもしれんな。だからもう少し我慢しろ。]

 「それはちょっとお。」と両手の手のひらを向けて、無理無理という動きをした。

 [独身だろ。]

「ええ。独身ですが。」

 [じゃ問題はないじゃないか。]

 「まあ、恨まれていないのであれば我慢しますが、お母さんからは変な目で見られているので、いつも来ることはできないですよ。」

 [そこは何とか考える。]

  その時、ノックが聞こえたあとドアが開いた。母親だ。「また、あなたですか。何か恨みでもあるのですか。」と言われたが、「昨日は申し訳ありません。」と言い、「早く目覚めていただきたいと願う気持ちが先走り、少し感情移入してしまった。」と話した。

[なかなかうまく言うじゃないか]

 「黙っていて下さい。」と言うと母親が、

「何も話しておりませんが。」とキョトンとしていた。

  お母さんの後ろにいた女性が、
「おばあちゃん、こちらの方は。」 

「ああ、お前たちを助けてくださった神山さんというお巡りさんだよ。」

 「そうでしたか。お礼にお伺いもせず失礼致しました。山神瑠璃(やまがみ るり)と申します。その節は大変お世話になりました。」

 「いえいえ、警察官として当然のことをしたまでです。ただ、お母さんを助けることができなくて申し訳ありませんでした。」

「いいえ、神山さんには感謝しかございません。」

[どうだ、うちの娘は。妻に似て美人だろ。]

「そうですね、美人です。」

 これを聞いた瑠璃が、ええと聞き返したので「非番の日は独り言が多くなりまして、ははは・・。」と笑ってごまかした。

[今日は頼みがあったんだが、こんなに早く母が来るとは思わなかったから。すまんな、小僧。]

「呼び捨てでもいいですから、神山と呼んでいただけませんか。」

 すると、瑠璃が、
「命の恩人の方に対して呼び捨てなんてできません。」と頭を下げた。

 「いや、何と言いますか。」

 神山は、これはダメだと思ったので、山神と二人きりになるために、瑠璃たち二人にお昼を取ってもらおうと、食堂へ行くように勧めた。

 「山神さんは私が見ておりますので。」と言うと、最近ゆっくりお昼をとっていな事に気付いた二人は、その言葉に甘えて病院の食堂に行くために部屋を出た。

[うまく持っていったじゃないか小僧、いや神山。]

 「ところで、事故の詳細ですが、報告書は持ってこれないので私のメモでお話しします。」

 [あゝ、それでいい。まず私の車に突っ込んで来た奴はどんな奴だ。]

 「化けて出てやるなんて言わないで下さいよ。」

 [真剣な話しだ。ちょっと引っかかることがあってな。]

  了解したあとリュックからノートを出して話し始めた。

 「名前は石田勇(イシダ イサム)、年齢は44歳、妻は麻美(アサミ)41才と子供が高3の長男、中3の長女と小6の次女の5人家族で、職業は湊(ミナト)港湾開発と言う商社に勤めており、主に税関関係の積み下ろし作業をしているそうです。

 当日は遅くまで音楽番組を見て除夜の鐘を聴いたあと、奥さんに初詣に行くことを伝えて、一人で天空神社へ参拝するつもりで来たそうです。

しかし寝不足から居眠り運転になり追突したそうです。私にはこちらを向いていたような気がするのですが、本人は眠りに落ちたとのことでした。

  車は大晦日の日に会社に出勤した際、2トントラック一台だけガソリンがすくないことに気がつき、給油しようと思ったのですが、横浜港の近所で開いているところがなく、家の近所で入れたあと、初詣の後に入れ替えに行く予定だったそうです。

 だから、こちらがトラックで被害者の方の車が小型車でなければ、あそこまで押し出すことはなかったのにと言っていたそうです。だから、こんな偶然が重ならなければ、あのような悲惨な事故にはならなかったのにと、涙を流していたそうです。

 これは一昨日まで面会謝絶であったのでやっと事情聴取ができたところらしいです。今、逮捕状を請求中で取れ次第逮捕になり、警察病院に転院かと思われます。」

 [そうか。ところで神山はその車にどのような注意喚起をしたんだ。]

 「警笛を鳴らしライトを車に当てました。」

 [神山。ライトを当てたんだな。]

 「ええ、直接顔に当てると目が遮られるので車体がかかる程度は下に向けていましたが、通常であれば気がつくかと思います。」

 [明るさは八百ルーメンぐらいか]

 「その通りです。」

 ここで説明しよう。
(八百ルーメンの明るさとは、街灯のない真っ暗な道において3〜40メートル先まで明かりが届く明るさである。警察官は余程のことがない限り人に当てることはないが、本件では緊急避難として車に向かって当てたようだ。)

[分かった。次に石田が運転していたトラックは荷台が丸出しのトラックか。]

 「いいえ、2トンの冷凍車両です。」

 [それでは、冷凍庫の中は入っていたのか。]

 「はい。暮れに通関した冷凍の魚がぎっしりと載せてありました。」

 [やはりな。]

 「やはりなっ、とはどういうことですか。もしやこの事故には何かがあるのですか。」

[今はまだ仮説でしかないが、暮れに通関したのであれば二十八日が最後のはず。正月に配達したとして三日以上トラックに積んだままというのは明らかにおかしい。冷凍のまま箱詰めをしているといえども、エンジンを切れば冷凍装置も切れるはず。

万が一、バッテリーだけに頼ったとしても、正月を迎える頃には動かなくなっていただろう。

だから暮れまで何日もトラックに乗せたままというのはおかしい。取り敢えずこれから言うことをよく聞くんだ。相手の石田に関する情報を全て報告して欲しい。いいな。]

 「分かりました。山神さんの中では疑うだけの何かがあるということですか。」

 [すまないが、まだ、お前には言えない。辛抱してくれ。]

 「分かりました。」

  ノックが聞こえた。看護師であった。ドアを開け、オムツや下着を変えにこられたようで仕切りのカーテンを閉めた。二人は窓際の椅子に腰掛けて、作業が済むのを一緒に待っていた。

カーテンが開き看護師が部屋を出ようとした時、挨拶のため立ちあがった神山の前に、山神が立ちはだかりぶつかりそうになった。あれっという表情の神山であった。急に消えてしまった。周りを見たがどこにもいない。着替えてさっぱりしたので元へ戻ったと思った。

しばらくすると二人が食事を済まし帰ってきた。瑠璃と目が合った。よく見るとかなりの美人だと思った。今後どのような連絡をするか分からないと言い訳し、瑠璃の連絡先を聞いてみた。二つ返事であった。

 すると左手が勝手に左の頬を叩いた。瑠璃が「大丈夫ですか。」と聞いたあと、神山の携帯を受け取り、連絡先を打ち込んでいた。神山がお礼を言うと今度は手が震え落としてしまった。瑠璃が心配してくれたが、ここ最近寒い日が続いていたので痙攣したと笑って話した。そして二人に挨拶したあと病室を出て行った。

 痙攣など一度も起こしたことがなかったのだが、少ししたのち元に戻ったので気にせずお祓いも兼ねて父のお墓参りをすることにした。

 神山は、久しぶりに住職と会い父の思い出話をした。この住職は神山の父の幼馴染みで、小さい頃は遠くまで探検に出かけ、帰る道が分からず交番に駆け込んで助けてもらったらしい。神山の父はその時のお巡りさんに憧れて、警察官になったとよく話していたらしい。

 話は尽きなかったがそろそろと言い帰ろうとした。すると別れ際に、「支えができたようだね。」と意味深な言葉を投げかけられた。その時は気が付かなかったが、修行を積んだ僧侶には感じるものがあったのかもしれない。しかしここ数日、何かと変なことが多かったため、今は違う意味で少しホットしていた。そしてそのまま家に帰った。

神山の自宅

 ドアを開け玄関からリビングに入ると、

[汚い部屋だな。]

 今何か聞こえたような気がした。病院の出来事が現実と受け入れるのに戸惑っているのだろうと思った。

両手を両耳に当てて、あわわわとお呪(まじな)いをした。

 [何を訳がわからんことをしておる。]

 (まさか、ここは私の家だ。聞こえるはずがない。とうとう頭がイカレテしまったのか。)

[お前は独り言が多い奴だな。]

 「どういうこと。本当に山神さんが話しているのですか。」と聞いた。

 [おお。あの病室から出るのに色々試してみたが、偶然お前に乗り移ったら外へ出ることができた。]

 「私は嫌です。私の体から早く出ていって下さい。そうだ。もしかするとお嬢さんと連絡先の交換の際に、左手が痙攣したのは貴方の仕業(しわざ)ですね。」

[いや、知らんな。その時は寝ておったわ]

 「霊が寝るわけがないじゃないですか。」

  沈黙があり、返事はなかった。このご都合主義者と罵ったが返事はなかった。それからは山神の言葉が聞こえなくなったため諦めて床についた。


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