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「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖 第三十四話
第十六章 誤認
令和4年5月16日(月曜日)午前8時20分
早乙女教授室
進展なく3週間が過ぎた。
「おはよう伊藤さん。」
「教授おはようございます。昨日、百合さんがお洋服をもらっていただけないかと来られて、頂きました。ブランド物ばかりでした。」
「そう言えば、去年より五キロ太ってしまって少しきついのよと言っていたな。でも古着なんて失礼だよね。」
「いいえ、きちんとクリーニングに出されていましたし、まだ今年も流行ですから。それに相当お高いものばかりです。私には到底買えない物なので大変喜んでおります。」
本当に喜んでいるようだ。古着でもこんなに喜んでくれるのか。
ところで、あれから約三週間になるが進展がない。佐々木刑事と出くわして以来、浅倉甲衣君も大学に現れなくなった。多々良班の刑事さんが毎日のように大学を見張っているが成果が無いようである。そして昨日は弥刀井緑郎さんがカナダから帰国し警視庁の保護下にあった。
「教授。すみません、今日は早退させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。」
「ああ、いいよ。家の用事かな。ごめん、詮索するつもりじゃないので。お昼が終わったらどうぞ。」
「ありがとうございます。」
二時間目が終わり教授室に戻ってくると、今日はすみませんと言って机から立ち上がり、帰る支度をしていた。紙袋を持っているので気になり聞いてみた。
「伊藤さんが紙袋なんて珍しいね。いつもはリュックだけなのに。」
「ああ、これはちょっと。」
「ごめんなさい。引き止めちゃいけないよね。伊藤さんお疲れ様でした。」
「お先に失礼いたします。」と言って部屋を出て行った。
そうだ私もこのあと寄るところがあった。前に注文していた車の納車日だった。大学に持ってくると言っていたが、目立ちすぎるので取りに行くことにした。
今日は五時間目までないが、早く取りに行って少しドライブでもするかと考えた。正門を出てショールームに向かった。
玄関に着くと松島君が迎えてくれた。ここでお待ち下さいと言われ席に着くと、女性がお飲み物は何になさいますかと言われたのでコーヒーを頼んだ。
しばらくしてコーヒーが運ばれて来た。ゆっくり飲んでいると。爆音と言ってもいいぐらいのすごい音でやって来た。驚いていると松島君が降りてきてエンジンも最高の音を出していますと。
そしてオープンカーじゃないのと言うと、はいと言って屋根が動き後ろのトランクに収納された。ちょっと恥ずかしいかなと言い、閉めて下さいとお願いした。
そのあと、色々な説明をしてもらったあと、最終手続きを終えて乗り込んだ。エンジンをかけ、ありがとうと声をかけて今後ともよろしくお願いしますと伝えて駐車場から出て行った。
しばらく走っていると信号待ちになった。止まっている時はそれほど爆音ということはない。さほど見られてもいないようだ。
しかし、今の車はこんなにもたくさんのスイッチがあるのかとビックリしている。全て覚えるのに一年はかかりそうだ。
このまま横浜まで足を伸ばし中華街で食事を取ることにした。高速に乗り横浜を目指した。道は混んでいたが小一時間で着いた。近くのコインパーキングに止めて目当ての店に入った。ここは、母さんの横浜の実家に帰るたびに寄っていた店である。
もう二時近くになっていたので店は空いていた。懐かしい気持ちになりながら、料理を頼んだ。
ここに来ると何よりも先に小籠包を頼む。特に皮を破った時に肉汁の香りが漂うと食欲を誘う。その後、甘辛具合が絶品のエビチリを頂いた。
お勘定を済ませて出て行こうとした時スマホに着信が、誰からだろうとポケットから出すと父であった。
今横浜に、と言うところで、父が、
(そんなことはどうでもいい。)と言った。
「どうしたの父さん。」
(今からメールするから人のいないところで見てくれ。)
何を言っているか分からなかったが、取り敢えず車を駐車場から出してから見た。すると椅子に縛られて眠らされている百合の姿が写っていた。慌てて父さんに電話した。
「これは。」と叫んだ。
(パソコンに送った写真をお前に送れとスマホにメールが来た。パソコンを見ると百合が捕まっていたんだ。それで、お前に連絡した。)
「分かった。休講にしてすぐに帰る。」
私は大学に本日の講義を休講にしてほしいと頼み、急いで実家に帰った。
いてもたってもいられず車を走らせた。
気が付くと実家の近くまで来ていた。
見張られていることを想定して、車は実家の近くのコーヒーショップに止めさせてもらった。マスターにアイコンタクトで了承してもらった。急いで家のインターフォンを押し、門が開いて玄関から飛び込んだ。
父さんの自宅のパソコンに来たものだと言われ、少しだけ開けて紙でカメラを隠した。今からは筆談すると自分の手帳を開けて書いて見せた。父と母もノートを持ってきて筆談の用意をした。
〈このパソコンはハッキングされている。だから心配している言葉以外は声に出さないように〉と書いた。
すると百合のスマホから電話がかかってきた。慌てて出た。
(もしもしお兄ちゃん。今日は早く帰ってきてね。)
一旦リビングを出て、
「お前、本当に百合か。」
(何を言っているの。妹の声を忘れたの。)
「じゃ、あそこに映っているのは・・。今どこにいる。」
(光一の実家だけど。)
「すぐにこの電話を切って光一君の家から父さんの家に電話しろ。早く。」
しばらくしてかかってきた。
「お前、ついこの間、ミントグリーンの服を着ていたよな。」
(ああ、あれね。今年着たら小さくて一日だけ着て真奈美さんに上げたのよ。)
「お前、さっき変なことを言っていたな。早く帰るようにと。」
(まあ、それはいいじゃない。)
「お前、もしかして伊藤さんに鍵を預けたんじゃないだろうな。」
(ばれたか。いいじゃないのそれぐらい。そんな剣幕になることじゃないから。何も泊まるわけじゃないし。)
「そうじゃない。伊藤さんが誘拐された。それもお前と間違えて。」
(ええ、なぜ。)
「多分、晩御飯を作っていたのだろう。そこにお前だと思って誘拐されたんだ。この前、ミントグリーンの服を着て出かけたことがあっただろ。
私と歩いているところを犯人に見られたか、写真を撮られたかだ。
伊藤さんは髪を下ろすとお前とよく似ているし、服も同じだからだと思う。
取り敢えず、お前はスマホを使うな。父さんのパソコンがハッキングされているから、お前のスマホもハッキングされている可能性がある。
お前がスマホを使うと伊藤さんだとバレテしまう可能性がある。そうなると彼女の命が危い。いいか、電源は入れたままにしておいて、掛かってきても出るんじゃないぞ。
そしてカバンの中に入れてすぐさま私の家に行き、そのスマホをカバンごと置いてくるんだ。位置情報をハッキングされたら、お前のスマホが私の家から外にあると思われる。分かったな。
そしてその後、この件を伊藤さんのご両親に伝えに行ってくれ。いいな。その際、私には電話しないように頼むんだ。あとで説明に行きますと言ってくれ。」
その後、父と母を廊下に呼び今の件を筆談した。父と母には百合が誘拐された振りをするように書いた。そして玄関まで行き、佐々木刑事に電話して全てを伝えた。
来る時は背中合わせの家の塀を乗り越えてきてほしいと言い、そこの明石さんには電話で刑事さんが来るのでその方の言う通りにしてほしいとお願いしたからと伝えた。
すると父のスマホにメールの到着音が鳴った。そこには、パソコンのメールを見ろとあった。開くと動画で伊藤さんの横に何やら医療器具のようなものがあった。左手をズームして見てみると、血を抜いているようだ。何と言うことを。このやろう。