「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖 第一話
あらすじ
FIRST・CONTACTでは深層心理により、相続に隠された真実を暴いたが、この続編は最初から殺人事件に引き込まれていく。
警視庁に呼ばれた早乙女と助手の伊藤は、捜査会議の物々しさに委縮する。会議が進むにつれ、なぜ呼ばれたかを認識した。早乙女の名刺が被害者の身体から発見されたのである。無実であることは立証されていたため、捜査の参加を依頼されたところから始まる。
被害者は奥青梅ダムの堤頂部に大胆に遺棄されていたため、早々に解決がつくと思われていた。しかし、防犯カメラがハッキングされ、半日近くもループ映像になっていたことから、捜査員は困惑する。ただ。早乙女は、遺体の傷の不自然さに着目し、そこから解決へと導いていくのだが、今回は並行して助手の伊藤との恋を伝書鳩が繋ぐ物語でもある。
尚、FIRST・CONTACTは創作大賞に応募しました。同部門へ複数応募できないため、恋愛の要素から、そちらへとも考えましたが、ミステリー小説としての作品でありますので一般公開にいたしました。
登場人物
早乙女弘樹(サオト メヒロキ)・帝央大学心理学教授
伊藤真奈美(イトウ マナミ)・・早乙女教授の助手
佐々木優(ササキ ユウ)・・・・葛飾中央署の刑事
加藤早紀(カトウ サキ)・・・・佐々木の相棒(刑事)
早乙女百合(サオトメ ユリ)・・早乙女の妹
第一章 挑戦者
令和4年4月12日(火曜日)午後4時30分
警視庁
私たち三人は大学を出て、一路、警視庁へ。
伊藤さんは、警視庁が初めてなので、かなりの緊張度である。佐々木刑事も車の中では私にしか話さないので、伊藤さんの緊張度がどんどん高くなっているようだった。
私はといえば、一応、少しは今回の依頼の内容を知っておいた方が良いと思い、佐々木刑事に尋ねた。
すると、今回のご遺体はすぐに見つかったとのことだ。それは、奥多摩の奥青梅ダムの堤頂部、つまりダム上部の道路の真ん中に横たわっていたそうだ。
ダムの関係者が、今日の朝方に点検作業車で通りかかった時に見つけた。初めは寝ているのかと思ったそうだ。スーツ姿で、衣服に乱れもなく安らかな顔をしていたらしい。
だから、起こそうと揺り動かした。しかし、反応は無く、手を持ち上げ脈を確かめると脈がなかったため、慌てて警察に電話したとのことだ。
警察が到着した時にはまだ、身体に温もりがあったので、死亡推定時刻も割と正確に出たらしい。
ということは、早く警察に見つけてもらうという犯人自身の自己顕示欲の表れか、それとも。と考えている間に警視庁の前に着いた。佐々木刑事は地下駐車場入口で手帳を見せ、そのまま車を進めた。指定場所に止めて降りた三人は一階の受付へ向かった。
私と伊藤さんは、厳重な手荷物検査を受けた後、佐々木刑事に連れられて、エレベーターで十階に降りた。右へ進んだ所の会議室へ案内された。ドアの右側には、奥青梅ダム死体遺棄事件と戒名が書かれてあった。
佐々木刑事が、
「教授、こちらが、捜査本部です。今日は、午後五時から始まります。」
すると、伊藤さんが、
「教授、私は玄関ホールでお待ち致します。」
「伊藤さん。貴方は教授の大変重要なアシスタントなので、警視庁に来るだけじゃなく、捜査会議にも参加できるように一課長に許可を頂いております。一緒にお入り下さい。」
「参加してもよろしいのですか。」
「ところで、佐々木刑事。伊藤さんは、今年から単なるアシスタントではなく、講師になりました。今年は私の代わりに何回か講義をしてもらうことになると思います。」
「そうですか。伊藤さんこそ出世されたじゃないですか。」
「いえいえ。まだ、講義日も決まっておりませんし。学生が出席してくれるかどうか。もしも、まばらな人数だったらと思うと頭が真っ白になっております。今から不安でたまりません。」
「大丈夫ですよ。天才早乙女教授の教えを一番引き継いでいる方は、伊藤さんの他に誰もいませんから。」
「ありがとうございます。」
「いつも、外野からの観戦でしたし、捜査会議って一度見るのもいい経験ですよ。それでは伊藤講師、許可されているのであればいいのではないですか。」
「教授、講師だけはやめて下さい。緊張して何も手につかなくなりますので。」
「分かりました。では、入りましょうか。」
中に入ると、数人の制服警官の方が、机の拭き掃除をしていた。前の机には、上席のネームプレートが置いてあった。いざ出陣という感じだな。
佐々木刑事から前の席にどうぞと勧めていただいたのだが、伊藤さんのことを考えると後ろの席でとお願いした。
席についた後、会議に呼ばれたことを考えて高まる胸騒ぎを抑えきれなくなっていた。
「何か緊張します。テレビで見るように殺気だっているのでしょうか。」
「そんなことはないですよ。刑事ドラマのようなことはないですよ。ただ、報告はほぼ毎日で情報は共有します。しかし全体会議は全員が共有する必要性のある時だけであって、ほぼ班ごとに上司に報告し、上司が本部に伝えます。そして上司同士で意思の疎通を図り下へ伝達されます。だから、常に顔を合わせているわけではありません。」
「そうだよ。淡々と報告している感じかな。そうだ、セクハラって言われるかもしれないけれど、長くなるから、お手洗いは済ませた方がいいよ。」
はい、そのようにと言って、敬礼して出て行った。こんなお茶目なところもあるのかと思った。
午後五時前になり、捜査員が続々と集まって来た。口々に、奥多摩で死体が出ただけで、どうして本庁に帳場が立つのかと。見ると、鑑識、コンピュータを抱えたサイバー班らしき人や女性刑事に制服警官と、ありとあらゆる人材が呼ばれている。
これはもしかしてと思っていると、午後五時になり前の席に四人が立って並んだ。先に入っていた刑事さんが規律の掛け声の後、上席に礼という言葉で同時に全員がお辞儀をした。
とうとう捜査会議が始まった。
「本日、午前7時10分頃、奥多摩の奥青梅〈オクオウメ〉ダムの堤頂部で発見されたご遺体について、殺人であると断定され、本帳場が立てられた。
しかし、この事件は管轄の署長指揮事件ではなく、部長指揮事件となった。今日は、箕島刑事部長、後藤一課長、長内〈オサナイ〉検視官、崎島管理官が出席されておられる。そして進行として係長の水野、私が今後進めていくことになった。
何故、西青梅署ではなく、本庁に立ったかというと、本日アドバイザーとしてお越し頂いている、帝央大学の早乙女教授に関連があるものと思われるからだ。」
一斉に振り向き、こちらを見た。
やっぱり訂正。すごい殺気だ。
「死亡推定時刻を判断すると、教授は入学式の打ち合わせで学内におられた。その時間から、到底現場から戻ることはできないことが判明しており、殺人については無関係であると判断された。」
伊藤さんが、小声で、
「先に教授のアリバイを調べていたなんて失礼極まりないですね。」
「これが日本の刑事捜査だよ。一応、先に無実を証明してくれているので、今後の協力がスムーズにいくと思うからいいのではないかなあ。」
「教授は、心が広いですね。協力して欲しいなら礼儀というものがないのですかね。私ならカンカンです。」
第三話:https://note.com/glossy_human6092/n/n581f54e7f9e1
第四話:https://note.com/glossy_human6092/n/n35093a91f62d
第五話:https://note.com/glossy_human6092/n/nccd5b1487427
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第十一話:https://note.com/glossy_human6092/n/n503533d60788
第十二話:https://note.com/glossy_human6092/n/ne945705735dd
第十三話:https://note.com/glossy_human6092/n/nea28b9474c5a
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第二十四話:https://note.com/glossy_human6092/n/n764ed566e5d0
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第二十六話:https://note.com/glossy_human6092/n/n87dc03d681fa
第二十七話:https://note.com/glossy_human6092/n/n4ea3d4f41e4a
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第二十九話:https://note.com/glossy_human6092/n/n1ed54c024475
第三十話:https://note.com/glossy_human6092/n/n8481ef384874
第三十一話:https://note.com/glossy_human6092/n/n2c34f098f41e
第三十二話:https://note.com/glossy_human6092/n/ned17434bc51c
第三十三話:https://note.com/glossy_human6092/n/naead194db700
第三十四話:https://note.com/glossy_human6092/n/na9d0f8af95cf
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第三十六話:https://note.com/glossy_human6092/n/nfc9370eff7b7
第三十七話:https://note.com/glossy_human6092/n/n6ee68d51183b
(最終話)