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「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT」 第二十六話

3月22日午前9時 早乙女准教授室

 潤教授室のドアを開け、
「伊藤さんおはよう。今朝方、佐々木刑事から連絡があったよ。」
 
「先生、おはようございます。それはどんな内容ですか?」
 
「金曜日に結衣さんが捕まったとのことだよ。」
 
「えっ。何の容疑ですか。それに、金曜日なのになぜ今日の連絡なのでしょうか」
 
「一応、自殺に見せかけた殺人未遂の現行犯らしい。今日になったのは、逮捕後取り調べが続いていたのと、私がこの結末を分かっていると思ったからかも。それか、ある程度聴取してからと思ったからかもしれないね。」
 
「えっ。どうしてそんなことに。それに一応殺人未遂とおっしゃるのもおかしいし、結末を分かっていると思ったというのも。頭がこんがらがって。それに誰を殺そうとしたのですか。」
 
「明雄君だよ。」
 
「えっ、明雄さんを。」
 
 えっの連発だった。
 
 それで佐々木刑事から聞いた殺人未遂を行ったマンションの件を話した。
 
「でも五階で良かったですね。もしも十階とかでしたら、いくら安全ネットがあってもかなりの衝撃で無事ではいられなかったかも。」
 
「いや、五階までしか呼べなかったんだよ。」
 
「何故ですか。確かあのマンションは、十何階はあったと思いますが。」
 
「それが、あのマンションはほぼ完成しており、防音テントを片付けていたのだけれど、結衣さんの命令で中止していたらしい。しかし、既に六階まで片付けていたので仕方なく五階で強行したとのことだよ。」
 
「ええ、防音テントと五階までと何か関係があるのですか。」
 
「防音テントがないと外から丸見えになるので、もしかすると見られるかも知れないと思ったとのことだ。」
 
「偶然が偶然を読んだ結果なのですね。明雄さんも無事であったし、これでよかったのですよね。でも何故、結衣さんが明雄さんを」
 
「疑心暗鬼になったのだろうね。」
 
「疑心暗鬼って、どういうことですか。」
 
「明雄君が作った公正証書遺言は、結衣さんが唆(そそのか)したからだよ。」
 
「そんなあ。」
 
「殺人未遂は、それを隠すための行動だったからね。そして、自殺の遺言書を用意していたらしい。」
 
「すると、証拠があったのですか。」
 
「見守りカメラを設置していたと言っていたよね。」
 
「はい。それが証拠になって明子さんが殺人罪で起訴されたわけですから。」
 
「意識がなかったから、迂闊にもカメラの前で明雄君に話していたそうだ。」
 
「何をですか。」
 
「自筆遺言の内容を二朗さんから聞いていたとして伝えたらしい。その内容は、結衣さんに70パーセント全部を譲り、社長にすると。その後、四男の力と一緒に会社を盛り立ててくれと。だから、明子さんや明雄君には財産はいかないということを。
 それであれば、いっそのこと偽物を作って琢磨さんに財産が行けば、ゆくゆくは自分が相続できると思ったらしいよ。しかし、蓋を開けてみると、自分と結衣さんと半々であったからビックリしたらしい。」
 
「だから、明子さんは自筆証書遺言を見たときにビックリしたと言ったのですね。」
 
「そのとおり。多分、明雄君から聞いていた内容と違っていたからね。」
 
「自筆遺言の内容を伝えたことが証拠ビデオにあれば、当然勘ぐられるし、それが、明子さんの裁判で明らかになると、明雄君などから非難されることになるからですね。でも、殺害までする必要性がありますか。変わらないのではないですか。」
 
「いや、遺言に関して掘り下げられると、遺言書を見たことが分かってしまうことになるかもしれない。そうすると、相続人の地位を失うかもしれない。そうなればそれまでの苦労が水の泡になってしまう。であれば明雄君を亡き者にすればだれも追及しないだろう。
 自殺となれば、被疑者死亡で不起訴処分になるでしょう。それに、公正証書原本不実記載という罪刑は、5年以下又は50万円以下の罰金だから事件を追求するような週刊誌も現れないでしょう。事件に大小は無いといえども、現実は、誰も興味を持たないからね。」
 
「もう、人間不信に陥ります。多分、田所弁護士の入れ知恵ですね。自分は手を下さず、孫にさせるなんて酷い話です。」

 少し説明しておこう
(相続人には欠格事由といってある事由があると相続権がはく奪される場合がある。それは、被相続人=死亡者や他の相続人を死亡させたり、又はそれに準ずる行為をおこなったり、その事実を知って告訴しなかった者や詐欺・強迫により遺言書の撤回・取消・変更を行わせた者、そして遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿を行った者のことである。つまり本件では偽造を教唆したことになるかもしれないと判断したのである。)

「推測は禁物だけど、この仕組みを構築するには、結衣さんではむずかしいだろうね。」
 
「そうですね。ところで、発端は何ですか。」
 
「私は、明雄君が保釈された後、すぐに結衣さんと会いたいと言っているということを伝えただけ。そして、明雄君は結衣さんが、自分のために保釈金を出してくれたお礼が言いたかっただけなのに、疑心暗鬼になった結衣さんには明雄君の本当の気持ちは分からず、明雄君が自筆証書遺言のことをネタに脅して来ると思ったみたいだ。」
 
「全ての黒幕は、結衣さんだったのですか。」
 
「いや、真の黒幕は、田所弁護士だろう。」
 
「佐々木刑事は、どのあたりから確信していたのでしょうか。」
 
「多分、結衣さんが、後付けのようにビデオを持ってきたときに確信したのだと思うよ。私もその時点で確信したから。
 まだ、全部は話していないようだけど、結衣さんが白状するのも時間の問題だろうから、そうなれば真実が見えると思うので、佐々木刑事からの報告を待つことにしましょう。」
 
「そうですね。先生と私は心理学者ですからね。推測は無しにしませんと。」
 
なんか晴れ晴れとしているなあ。一応解決したと言えばしたからな。
 
 

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門


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