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「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖    第二十六話

 三人は車で三枝巡査の実家に向かった。玄関で慎吾ですと言い、三枝巡査のおじいさんが玄関を開け招き入れてくれた。警察官の職業がそうさせるのか、それとも孫が捜査に参加していることに感激しているのか、服装と言いピシッとしている。着替えたのかもしれないが、いつまでも警察官が染みついているのだろう。
 
 上がって下さいと言われ応接間に案内された。三枝巡査にお茶を入れてあげて欲しいと頼まれたので、いえ、すぐにお暇するのでと言って取り敢えずみんなで座った。
 
 ご挨拶後、二つの沈んだ村の話を聞いた。
 
「その村は、江戸時代からあり、美神村と美登神村というが、本当は三神村と三十神村と書き、それぞれ最初三家族と三十の家族が集まって村を作ったと言われていた。
 
 そして三神村はダムに沈むときは二十件ぐらいの家族で、かなり貧乏な村だったと聞いた。片や美登神村は二百件ぐらいの村まで繫栄したらしい。そしてその中で、秀(ヒイ)でた力を持つ五家族が神格化されていった。

 その名前には全て神が付き、一の神が角一神〈ツノイチノカミ〉と言われ、一番目の神の子孫だった。代々村の長〈ムラノオサ〉をしており、みんなのまとめ役で田畑の神でもあった。

 二の神は森二神〈モリノニノカミ〉と言い、自然の恵みに感謝する神であったが、今ではこの子孫だけが絶えてしまっていると聞いている。

 三の神は心三神(コミノカミ)と言って病を直す医者の神であった。

 四の神は氷四神〈ヒシノカミ〉と言い、寒い冬でも氷で作られた家を作って暖をとる住まいの安寧を計る神であった。

 五の神は死五神〈シゴノカミ〉と言い、弔いの神だったそうだ。そしてダムに沈む前まではその子孫を代々崇(あが)めていた。

 そしてダム建設が持ち上がった時、美神村は全員すんなりと立ち退きに賛成した。しかし、美登神村は紛糾した。当時の村長は民主主義から角一神さんではなく、柿内という人が選ばれていた。その他の村の議員も十人の内九人が五神じゃなく、二の神だけが議員だった。

 柿内村長が音頭を取ったのではなく議員の中で四十代そこそこの議員が一人いて、その議員が東京の大学に通っていた息子と一緒になって、都会の暮らしの良さを解いて回り、賛成を増やしていったそうだ。
 四人の神は怒ったが、森二神は多数決には従おうと言って、ダム建設が始まった。」

「ありがとうございます。では、この写真を見てもらえませんか。」と言って先程の写真を見せた。

「これは、サキちゃんだな。」

「おじいちゃん、この人を知ってるの。」

「ほら、お前も会ったことがあるだろ、セリちゃんのおばあちゃんたよ。」

「やっぱりセリさんのおばあさんでしたか。」

 佐々木刑事が、
「教授の言われた通りでしたね。」
 
「その写真は新聞の写真ではないかい。」

「そうです。」
「それは、ダム建設が本格化してトラックが往来し始めた頃、村の神木だけは山の上に移設が決まっていたが、トラックが誤って神木にぶつかってしまったらしい。削れただけで倒れなかったようだが、怒った森二神以外の神がバリケードをして妨害した時だと思う。

 今と違い、実力行使で排除されたんだが、その時の騒ぎでサキちゃんは左足を複雑骨折して、歩行が困難になったと聞いた。だから、なかなかお嫁に行けず母親が面倒を見ていたらしい。でも誰かに見そめられ、お嫁に言ったとは聞いたから、娘さんとお孫さんが来た時には、ああ良かった、子供ができたんだと喜んだのを覚えている。

 でもその時には既に亡くなっていたと聞いたがな。

 その際、新聞社が来ていたという話だったからその時の写真だと思う。
 
 その後はその新聞を見た役所が見舞金を持って来て何とか穏便に済ませ、まもなくダム建設が進んでいったそうだ。」

「もしやその神木はどちらに移設されたかご存じではないですか。」

「いや、確か湖の反対側とは聞いておるが、場所は分からんな。」

「そうですか。」

 それを聞いてロダンになった。

 この体制を初めて見た三枝巡査は、
「教授どうかなさいましたか。」と尋ねた。
 
「心配ない。何かが閃(ひらめ)いたのだから少し待つように」と言った。

 ロダンが解けた私は、おじいさんに、
「この五神の子孫の方をご存知ないですか。」

「さっきも話したが、孫が高校生ぐらいに来て以来だから、もう、十何年は経つからわからんな。」

 では、当時の議員さんでダム推進派の旗頭の人はどこに住んでおられるか分かりませんかと尋ねた。

「珍しい名前だと聞いたことがあるが、ちょっと思い出せないな。私も子供だったから。」

「ありがとうございます。これで充分です。大変助かりました。」

 立ち上がり、玄関で靴を履いていると、おじいさんが「もし思い出したら慎吾に伝えます。」と言われた。

 私たちは三枝巡査の車で西青梅署に戻った。署長は不在であったので課長の所へ行き、今日のお礼と今後も三枝巡査にご協力いただけるようにお願いして署を出た。

 そして佐々木刑事の車に乗って出発した。
 途中、佐々木刑事が、
「教授、複雑な展開になってきましたね。」
「そうですね。できれば、今週末の土曜日にまた、こちらに連れて来て欲しいのですが、よろしいでしょうか。」

「何か引っかかっることがおありなんですね。」

「森に住んでおられるおばあさんには何か隠し事が見えます。」

「私もそう思いました。あの追い返し方は、変でした。」

「できれば、三枝巡査に梯子を用意して来ていただき、土曜日の十一時に二人目の被害者の崖に来て欲しいと、お願いしてもらえませんか。」

「分かりました。」

「その時は加藤も、来ますので。」

 了解ですと言い、こちらも伊藤さんに来てもらいます、と言った。

 車は家の前に着いた。リビングから見ていたのか百合が出て来た。

「百合さん、ご結婚されるそうですね。このあいだは知らなかったもので、改めておめでとうございます。」

「ありがとうございます。今後とも兄をお願い致します。」

「こちらこそお世話になっておりますから。。」と言って帰って行った。
 
 佐々木刑事達を見送ったあと、家の中に入った。

 今週末はまた、出かけるからと言った後、荷物を玄関に置いて明日のパンを買いにコンビニへ行くと言って出かけた。家の真向かいで、あちらを向いて電話で話しているかのように立っている男性の肩を軽く叩いた。

「国立国会図書館までつけて来ていたのは分かっていましたよ。三浦さん。」

 白々しく、「早乙女教授じゃないですか偶然ですね。」と言った。しかし、目の前が私の家なので偶然はおかしと言い、雑誌考都さんに厳重注意してもいいのですよと言った。

「本当に偶然ですって。」

「ご存知ではないのかも知れませんが、私、弁護士ですよ。」

「いえ、知っております。取材を編集したのは私ですので。すみませんでした。」

「あなたの質問はわかります。しかし何も言えません。」

「それは分かっております。親会社が扱っている事件で・・」

 人差し指を唇につけ(しー)と言い、それ以上はこんなところで話すものではありませんと言った。あなたも正当な取材というのでしょうが、私にも秘密保持義務があります。もしも聞きたいことがあれば、親会社の取材班に入れていただくべきではないですかと諭した。

 彼は、分かりましたと言い、帰って行った。一応、この件は佐々木刑事には伝えた。


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