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「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖    第三十話

 みなさん9階の会議室へ移動した。

 佐々木刑事と多々良刑事は挨拶はしたが爆発しそうな一触即発の状態に変わりはなかった。会議室に入るとテーブルが四角になるように並んでいた。

 奥のテーブルの左に佐々木刑事、右に多々良刑事が並び、その両側にそれぞれの班の人が座った。私は二人の後ろにあるホワイトボードの前に立った。時間もないのでと言い、粉受けから黒と赤のマーカーを握り描き始めた。
 まず、重要人物として、
 ①津野神セリ(アリバイあり)
 ②帽子の運転手(?)
 ③集落のおばあさん(森二神さん)(他の四家族と連絡は五ヶ月前から無い)
 ④五ヶ月前に三の神の娘が帰ってきて揉めていたが、内容は忘れた。
 ⑤集落のその他の住人はどこに?
 ⑥弥刀井白朗(父)
 ⑦弥刀井緑郎(息子)(森二神さんは知っている)
 ⑧変わった殺害方法
と書いた。
 
 全員が体をこちらに向けたので話し出した。

「ここでみなさんにお聞きしたいのですが、この中で何かおかしいと思われたことはありませんか。」

 怪訝そうに多々良班の大道副班長が、
「これは今までの捜査会議で出てきたことばかりじゃないですか。これで何かおかしなところと言われても。私に言わせれば、一つ一つ潰していくしかないと思いますが。」

「そうですね。それも大事なことですが気づくことはありませんか。」

 多々良刑事は苛立ちを隠せず、
「教授、大学の講義ではないのですからハッキリと言って下さい。」

「これは、みなさんの集中心を高め、城の中に入ったら、何があってもぶれないで突進していただくため、この中から自分の目で見つけていただきたいのです。」

 得意げに佐々木刑事が、
「城攻めですね。」

「そうです。内堀は埋められました。あとは攻め入るだけです。しかし、時間がありません。」

 みんな、二人の会話を不思議そうに聞いていた。

 すると伊藤さんが、
「教授と佐々木刑事は戦国時代の城攻めを行っているところです。教授のお話では内堀は埋められたものと思われます。

 あとは、門を破りなだれ込むだけになったので、みなさんの意思の統一を計りたいとお話しされているのでございます。」

「伊藤さんの言うとおり。私は教授と長いからこの話がわかるのよ。ところで教授、もしや中心人物は誰かと言うことですか。」

「その通りです。」

 多々良刑事が閃いた様子で、
「このおばあさんですね。」

「そうです。②と⑧は別として森二神のおばあさんを中心に全ての人と繋がります。そして、重要な言葉を発しています。」私は体全体で表現した。

 左手を口元に持ってきて少し顔を傾けた佐々木刑事が、
「何か言いましたか。」

「ええ。森二神さんは、五ヶ月前に隣の孫、つまり心三神(コミノカミ)さんが帰ってきたときに、大声で怒鳴り合っていたと話していたのに、何を話していたのかは忘れたと言っていました。」

「確かにそう言っていましたね。」

「五ヶ月前とはっきり言っておきながら、話した内容は聞き取れなかったのではなく、忘れたと話していました。これは、心三神さんが来たことはどこかで見られているかもしれないため、無理に否定すると怪しまれる可能性がある。

 だから、来たことだけは正直に話したが、その他は誤魔化そうとしたので、整合性が取れていないことに気づかなかったのではないかと考えます。」

「そうか。所詮、天才早乙女の敵ではないですよ。分かったか、多々良。」

 多々良刑事は、
「推理をひけらかす為に我々を入れたのですか。」と少しご立腹だった。

「いいえ違います。あなたの協力なくして城攻めが完成しないからですよ。」とニコッと笑い、多々良節、よろしくお願いしますと言った。

「じゃ何をすれば。」

「既に、森二神さんから心三神さんへ連絡が入っているはずです。」

 不思議そうな佐々木刑事が、
「ええ、どうやってですか。あそこには電話線も引かれていませんし、携帯を持っていなかったような気がしますが。」

「多分持っていないでしょう。一応、外界から遮断された生活をしていると思わせる為にも持っていないはずです。」

「では、どうやって連絡を取っているのですか。」

「部屋に通された時、小さな水屋の上に写真がありました。お子さんなのでしょうが、彼女が持っていた籠に鳩が見えました。籠に入れているということは、伝書鳩でしょう。」

「鳩なんてどこにいましたか。」

「一番奥の、もう誰も住んでいない荒れ果てた家で飼っていると思います。そして伝書鳩は家に帰る習性を利用した通信システムですから、往復に使うには二種類の地点て飼育した伝書鳩を交互に持ち合い、通信手段として活用しているのでしょう。
 だから、最低でも五羽ずつぐらいは飼っていると思います。」

 思いだしたように伊藤さんが、
「そういえば鳩の鳴き声が聞こえていました。飼っていたからあれほど鳩の声が聞こえていたのですか。」

「多分、聞こえていたのは、裏手の外に鳩小屋があるのでしょう。ただ、外の鳩小屋にいるのは自分の鳩だと思います。相手の鳩は家の中にいると思います。
 
 なぜかというと、外に一緒に飼ってしまうと、今いる景色を憶えてしまい、元の巣を忘れてしまう可能性があるので、暗い部屋で隔離していると思います。

 そこで、多々良班の出番です。明日、森二神さんのところへ行っていただき、ダムの殺人事件を聞いて下さい。態度を観察していただき、びっくりしているのではなく、すでに知っているような態度であれば、物騒だからと話を盛り上げて時間を稼いで下さい。多々良刑事の感が頼りです。

 その間に副班長以下は、一番奥の家に入り全部の鳩に小型発信機を付けて下さい。小さいといえども必ず足ではなく見つけにくい尻尾の羽根の中に隠してください。」

 早乙女の計画にのめり込んできた多々良刑事が、
「分かりました。しかし教授、不法侵入になると思いますが。」

「大丈夫です。都に確認すると、あの集落は立ち退き料をもらわなかった一部の住人が、あそこに集落を形成したとの記録があったそうです。そこは国有地であったのですが、都が借り上げ住居を作り、使用貸借で貸しているらしいのです。

 そしてあの奥の家は引っ越したので契約は解除されています。残留物は放棄する文書があり、中の物は全て都の持ち物になっております。私達は都の許可を貰っていますし、鍵も預かっています。

 だから、中の鳩については不法侵入者が置いたものと推定され、占有は離脱しております。だから所有者不明物ということになり都の占有物になります。法的な解釈は色々とあっても、殺処分するのであればいざ知らず、所有者も分からず占有権も放棄されている鳩に、発信機を付けても法に触れることはありません。
 
 それに所有者を探して引き渡す準備をしたことになり、何ら問題になることはありません。それよりも一つだけ懸念されるのが、発信機が途中で落ちないかが心配です。私の予想では連絡は多くてあと一回ではないかと思います。」

 頷く佐々木刑事が、
「そこまで計画されていたのですか。」

 多々良刑事は、
「それほど大事な話ならば、ここではなく捜査会議で行うべきかと。」と疑問を呈した。

「今は大きな塊で動きたくないのです。それに、心配されなくとも規律違反にはなりません。後藤捜査一課長初め、水野係長を通じて上席全員に許可をいただいております。だから、思う存分暴れてください。」

 それを聞いた多々良刑事が、
「そうかい、分かりました。久しぶりに多々良節じゃ。まなぐにもの見しぇだる。」

 聞いたことのない方言だったので伊藤さんが、
「何とおっしゃったのですか。」と聞いた。

「目にもの見せたる、です。」

「三枝巡査は、多々良刑事たちの道案内をお願いします。但し、かなり手前で分かれて下さい。あと多々良刑事達に四駆をお貸しいただけるように署に了解をお願いします。あとは多々良刑事に任せれば大丈夫です。お連れ次第私達と合流して下さい。尚あの件は忘れずにお願いします。」

 分かりましたと言い、いつの間にか全員がいい顔になっていた。多々良刑事がそばに寄ってきた。捜査会議での捜査一課長との話は出来レースだったということですかと言われ、チーム全員が一つにならないと、と言っただけですと話した。

 多々良刑事が佐々木刑事にすまんなと言い、部下に明日は駐車場で六時集合とだけ言って部屋を出て行った。

 我々はというと、明日は九時に私の教授室でということになり解散することになった。みんなで駐車場に行き車に乗ったが、佐々木刑事が三枝を待ちますと言われたので、警視庁の仮眠室じゃないのですかと聞いた。いいえ、警視庁勤めなら分かりますが、一人山から降りてきていますから、私の家に泊めてやろうと思いましてと話した。

 ニコッとしながら伊藤さんが、
「なんだかんだと言って、面倒見のいいのが佐々木刑事のいいところです。」

 胸を張った佐々木刑事が、
「そのとおりです。私は面倒見がいいんです。」

 伊藤さんが、自分で誉めていますねと笑っていた。三枝巡査が大きな荷物を持ってやってきた。
「すみません遅くなりました。大きくて迷路のようで迷子になりました。あれ、加藤刑事は。」
 
 加藤は先に電車で帰ったというと、大丈夫ですか、刑事といえども女性ですからねと言った。

 諭すように佐々木刑事が、
「あいつは柔道二段合気道初段、高校時代は女子ボクシングで国体に出たやつだから、あいつを襲ったらボコボコにされて逮捕だな。」と話すと、三枝巡査は、上を向いて想像したあと前を向き身震いしていた。

 では先に伊藤さんの家へお願いしますと言うと車は警視庁の地下駐車場を出て一路伊藤さんの自宅へ向かった。

 伊藤さんの自宅へ着くと私も一緒に降りた。伊藤さんがチャイムを鳴らすと、鍵とチェーンを外す音が聞こえ、お母さんが出てきた。いつもいつも遅くまで申し訳ありませんとお詫びし、その場で失礼した。

 私の自宅へ着くとみんな降りてきてチャイムを鳴らした。

 中から百合が出てきておかえりと言うと、三枝巡査がこんなに綺麗な奥さんがおられるのに、と声を出し、口を塞いだ。

「バカモン、こちらは早乙女教授の妹さんで、百合さんだ。きちんと挨拶しろ。」

「勘違いしてすみません。伊藤さんとは浮気かと。えへ。私西青梅署の三枝と申します。綺麗な方ですね。独身ですか。」

「この大バカモンが。百合さんは婚約者がおられる。お前は女性と見たら独身と聞くのが趣味か。」

「はあ、そうかもしれません。ところで都会の綺麗な女性はみんな彼氏がいるんですね。加藤さんもそうでしょ。」

「ううん。加藤にそんなのがいるのか。」

「何を仰ってるんですか。佐々木先輩じゃないですか。」

「バカやろ。もう行くぞ。」
 そう言って、帰って行った。

 百合と部屋の中に入った。

 入ると、加藤刑事ってこの間ご挨拶した方よね、と言うから、そうだよと言った。すると、今年は春満開ね。コロナなんかどっかへ行っちゃったって感じと喜んだ。コロナを吹っ飛ばすのは同感だが、と言った。お兄ちゃんは私に任せておいてと、意味がわからない言葉だった。ううん。


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