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「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖    第十七話

第八章 点と線
令和4年4月17日(日曜日)午前9時30分
早乙女教授室
 
 校門をくぐりキャンパスを歩いていると、今年は暖かいせいかすっかり葉桜になっていた。

 すると、道路と芝生の境目にいっぱいの桜の花びらが落ちていた。見ると、清掃係の方が花びらを掃除していた。

 私は、おはようございますと声を掛けた。彼からは、教授、今日は日曜日なのに出勤ですか、大変ですねと声を掛けられた。

「いえ、自分の所用で。」

「そう言えば、先程助手の方とご挨拶しましたよ。」

「そうですか、ありがとうございます。」と言って研究棟へ入った。

 ドアを開け、おはようございますと言うと誰もいない。あれと思って部屋を見回していると、後ろから教授おはようございますと言われた。聞くと事務局によるのを忘れていたので、部屋を使用しますと伝えに行っていたらしい。

 伊藤さんと話していると昨日のことがなかったかのようで、やはり私の勘違いだと納得してしまい、変なことを言わずに良かったと思った。

 そして、そろそろだね、佐々木刑事が来るのはと言った。

 時間には正確な方ですから、もうノックがあるのではないでしょうかと、言い終わるあいだにノックがあり、佐々木ですと言う声がした。どうぞと言い二人が入って来た。

 佐々木刑事と加藤刑事は、いつものようにソフアに座り地図を広げていた。地図が大きいのでお茶はいいですよと言ってくれたので、伊藤さんも一緒にソフアに座った。

 佐々木刑事が、教授、発見がいっぱいありました。教授のご意見をお伺いしてから係長に報告に行くつもりですと話した。

「佐々木刑事が言うのであれば期待大ですね。では、その発見を教えて頂けますでしょうか。」とお願いした。

「まず、教授から言われておりました国道へ出た南北の此処と此処ですが、この2件のアナログ式防犯カメラを見ると犯行当日の前日の午後10時頃からダムまでの最終時間である当日の午前4時までの間に合計21台の車が映っていました。

 その中で、紺色から黒色の車は6台ありました。その6台を更に追いかけて行くと、一台だけダム方面へ向かった車がありました。時刻は午前1時半頃でした。

 しかし、この車のナンバープレートは偽造で、運転手はニット帽にマスクをしていたため分かりませんでした。このことは、昨日係長に報告しており、島尾がその車の写真を持って本日目撃者に当たっています。

 ここからはまだ報告していないのですが、犯人と思わしき人物が分かりました。」

「どのようにして分かったのですか。」

「報告したあと、取り敢えず同じ時間に現場へ行ってみようと言うことになり、二人で行ってみました。そこで新たな証拠を見つけました。」

「どんな証拠ですか。」

「午前0時頃から出口の国道で待機していると、教授と会議のなかでお話ししていた一筋目の道路の国道間際にある新聞屋さんが、午前1時頃に店を開けていました。

 店の中を見ると防犯カメラが見えました。一応確認のために尋ねたのですが、アナログ式の防犯カメラでした。急いで店主に録画を確認させてもらうと、犯行当日の車を運転していたニット帽の男が、その前日に店の自動販売機で缶コーヒーを買っており、その場で飲んでいる姿が映っていました。

 先に教授に確認していただいたあと、確証が得られれば報告できると思ったのです。」

「素晴らしい刑事の勘ですね。やはり私の論理だけでは見つからない証拠です。早速拝見させて下さい。」

 佐々木刑事と加藤刑事はニコニコでその写真を見せた。何枚かの写真を見ると、正面から左側にあるロゴが一緒であるのと目の吊り具合がよく似ているため、この人物で間違いがないと話した。

 それを聞いた佐々木刑事は、すみません、係長に電話を致しますと言い、スマホで今のことを報告していた。そして、分かりましたとだけ言って電話を切った。

 一応、上席で検証はするが、教授の見立てで間違いがないのであれば、今日からその人物の捜査にあたるとのことであった。

「一歩前進ですね。」

「すぐに戻りたいのですが、戻る前に教授へ三班からの報告があります。都の秘書室へ問い合わせた件ですが、紹介した記者について会社に問い合わせたところ、そんな記者はいないということでした。」

「問い合わせたということは、会社は実在するということですね。どちらの会社を名乗っていたのですか。」

 ええっと、と言いながらカバンから小さなノートを取り出した。

 これを不思議に思った伊藤さんが、
「なぜ警察手帳に書かずにノートに書いているのですか。」と聞いた。

 すると、佐々木刑事が、
「今の警察手帳は手帳と言いながら手帳の役割がなく、身分証明だけの役割なので、自分でノートを持ち歩いています。我々は備忘録とも呼んでいます。」と説明していた。

 その備忘録をめくり、雑誌考都のミカミジュンコと名乗っていたそうですと言った。どのような字を書くのですかと聞くと、数字の横三に神様の神で三神と書き、名前は順番の順に子供で順子ですと言った。

 伊藤さんがどこかで聞いたようだと呟(つぶや)いた。私もそう感じた。

「伊藤さん、いまの呟(つぶや)きですが、聞き覚えがあるのですか。」

「はい。教授、確か雑誌考都と言えば一月に取材を受けた会社ではなかったでしょうか。」

「確かに。発行された時に一部送られて来たと思いますが。伊藤さん、保管されていますよね。」

 本棚にあると思いますと言って持って来てくれた。これだと言い、雑誌をめくって取材の記事を開き、この記事は私が受けた取材ですと話した。

「教授、こんな取材を受けていたのですか。次世代の若きリーダー達。タイトルがピッタシです。」

「これは、お恥ずかしい。タイトルほどたいそうな人物ではないのですが。」

「ご謙遜を。誰もが認めるタイトルだと思います。」

「それは置いておきましょう。ところで、雑誌考都には直接行って調査されたわけではないですよね。」

「はい、電話で問い合わせただけと聞いています。」

「では、そちらへの聞き込みは私が言ってもよろしいでしょうか。取材をされているので取っ掛かりがあって聞きやすいので。」

「加藤を付けましょうか。」

 ありがたかったが、これは調べてみたいという私の欲求だけで、必要な調査かは分からないのと、捜査本部の方針もあるだろうし、それに島尾刑事達の気持ちを考えると、捜査員を不確定なことで振り回すのは避けたいからと言って丁重に遠慮させて頂いた。

「分かりました。それでは私たちは、急いで教授の調査の許可を貰うのとビデオに映っている容疑者の件の報告をして参ります。もしも、雑誌考都で何か揉め事がありましたら電話して下さい。駆けつけます。」

「そんな大ごとにはならないでしょう。単に聞きに行くだけですから。」

「伊藤さん。教授はこう話されていますが、すぐに電話してください。」

「ところで私、佐々木刑事の電話番号を存じ上げませんが。」

「こんなに付き合いが長いのに私も伊藤さんの携帯番号を知らなかった。そうか、こちらに直接掛けていたから知っているつもりでいたのか。」

 横から加藤刑事が、
「ああっ、そうですか。いつも伊藤さんの話がよく出て来ていたので、知っているのかと思いました。」

「バカ言え。何か勘繰っているんじゃないだろうな。伊藤さんは教授が好きだから、俺は元々、対象にない。バカモン。」

「いえそんな。私は、教授をだれよりも尊敬しております。その意味で大好きな方だとは思っております。」

 やはり、そうだったか。そうだよ。伊藤さんとのことを考えていたことが恥ずかしくなった。なんと一人よがりと思った。

 佐々木刑事は、伊藤さんと携帯番号を交わしたあと、それではと言って部屋を出て行った。

 私は伊藤さんに雑誌考都に訪問するアポをお願いした。もしも、取材の担当者がおられるようであれば、今日でもお伺いしたいと言って欲しいと話した。さっそく電話をしていたが、伊藤さんの反応からおられるようだった。それでは本日1時半にと話していた。

「教授。先方の担当者の方が昼前にお帰りになられるとのことでしたので、1時半に訪問させて頂くことになりました。」

「分かりました。編集の担当は取材に来られた女性ではないはずなので、お名前は言っていませんでしたか。」

「申し訳ありません、気が回りませんでした。すぐに掛け直します。」

「いや、いいよ。もともとその方がいいから。」

 伊藤さんは何故だろうというふうに首を傾(かし)げていた。何故かはあとのお楽しみということで黙っていた。伊藤さんから見ると、何かニヤニヤといやらしい感じだったかもしれなかった。
 
午前11時になった。
 
少し早い気がするが、一時半の訪問なのでお昼を食べた方がいいと思い、伊藤さんにどうかと尋ねた。すると、よろしければサンドイッチを作って来ました。キャンパスで一緒に食べませんかと言われた。

 やったと呟(つぶや)いてしまった。先程納得したはずであるのに、また浮かれてしまった。

「伊藤さんありがとう。でも私がおよばれしたら少なくなってしまいますよね。」

「いいえ、大丈夫です。少し多く作っておりますから。」

「じゃ、遠慮せずに頂くよ。」

 二人は出かける用意をして部屋を出た。キャンパスのベンチに座りお弁当を広げた。見ると色とりどりのサンドイッチだった。朝からこんなにたくさんの具を作ったのかと思った。

「伊藤さんは本当に料理が上手だね。やはりお母さんの教えかなあ。百合なんかカレーか肉じゃがばかりでそれ以外見たことがない。」

「私は、母が朝から晩までパートで忙しかったので、妹のお弁当やら夕食などで台所に立つ機会が多かっただけです。
 ところで百合さんですが、一緒にカレーを作りましたけれど、百合さんも私と同じで市販のカレーではなくルーから作られますよ。」

「カレーにも手作り感があるのか。」

「そうです。料理って奥が深いって言われていますから。今度百合さんが作られた食事に感謝申し上げて下さいませ。」

 分かりましたと言って笑い顔が寄り添った。そしてサンドイッチを食べ終わったあと、デザートとしていちごを出してくれた。よく観察しているのか、ちゃんと練乳付きだ。甘いものには目がないが、特にいちごの練乳がけが大好きだ。

 伊藤さんは頂かないのと聞くと、それは教授用のデザートですと言い、自分が食べるデザートは晩だけにしておりますと、わざわざ作って来てくれていた。ということは、私が食べなければ・・。いやいやと邪念を振り払っていた。

 その後は、百合の結婚のことで話が盛り上がった。
本当に名残欲しいが、そろそろ時間になったので大学を後にした。一応お礼のための訪問という建前なので、手土産に大学通りの有名な人形焼を買った。


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