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「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖    第三十七話(完)

 佐々木刑事から聞いていたビルに近づいたのでスピードを緩め少しして停車した。既にパトカーが何台も取り囲んでいた。三人は車を降りると、佐々木刑事から危ないので少し下がっていて下さいと言われた。

 しかし、いてもたってもいられない私は、
「私も一緒に行かせてほしいと。

 佐々木刑事の前にいた多々良刑事が、私の両肩を持ち、
「教授、餅は餅屋に任せてくださいよ。私はあなたを認めた。だから、私たちも認めて下さい。」

 おろかな私の言動を謝った。私もあなた方を認めておりますと言ったあと、車を横手に回して車を降りて様子を伺った。

 しばらくすると、裏口から伊藤さんを連れ出す結衣の弟を見つけた百合が、お兄ちゃん真奈美さんがと言い、車に乗るように促した。早く鍵を出してと私が運転すると言われ百合が運転席に座った。

エンジンをかけながら、
「四百七十七馬力のじゃじゃ馬さん、真奈美さんを助けにいくわよ。私の言うことを聞くのよ。」とアクセルを吹かした。

 ぶボボオンと車がうなりを上げた。

 そしてワゴン車を追いかけた。するとドアの窓越しに顔が見え、伊藤さんが瀕死の状態で助けを求めていた。外からしか開かないようだ。

 佐々木刑事に追いかけていることを連絡していると百合が、
「あの車、埠頭に向かっているんじゃない。」

「そうかも。」

「突っ込むつもりよ。手錠をかけられたままでドアが開かないということは。時間がないわ。一気に勝負をかけるわよ。」と、そして後部座席に行くように言われた。

 訳がわからなかったが、その通りにすると、
「今からあの車から引っ張り出して助け出すから。」

 私は不思議に思い、
「この車にどうやって引き込むんだ。」と聞くと、この車のこと忘れたのとボタンを押して天井を開けた。

「そんなに余裕は無いわよ。何も言わず私のいう通りにして」

「分かった。」と答えた。

「まず後部座席のシートベルトをいっぱいまで出してロックしてちょうだい。その後、ズボンのベルトに通して縛り体を固定した後、前のシートベルトもいっぱいまで引き出して右手に巻き付けるのよ。準備ができたら、即効でワゴン車に横付けするから、ドアを開けて真奈美さんを引っ張り出して頂戴。チャンスは一回限り、失敗したら真奈美さんの命がないからね。お兄ちゃん用意はいーい。」

「ああ、準備万全だ。いつでもいいぞ。それに車なんか壊れてもいいからな。」

「何を言っているの傷一つ付けずにビタ付けよ。さあ行くわよ。」

 そういうと、車が猛スピードで前のワゴン車を捉え、キュンキュンとタイヤを鳴らせ、あっという間にワゴン車の右横につけた。すぐさまドアを開け彼女の両腕を持ち引っ張ろうとした時、ドアミラーで結衣の弟と目があった。
 その時左にハンドルを切る仕草が見えた。そう思った瞬間、彼女は車と車の間に放り出され、体が宙に浮いていた。私は離してなるものかと必死に腕を掴んでいた。

 しかし、限界と思った瞬間、百合が車を左にドリフトさせて止めた。すると彼女が私の腕の中に飛び込んで来た。そのあと、安心したのかニコッと笑ったまま気を失ってしまった。私と百合は顔を見合わせ微笑んだ。

「百合、さすが元レーサーだな、すごいハンドル捌きだった。でも道路交通法違反で罰金かも。ふふふ。」

「ばっかじゃないの。お兄ちゃんも弁護士なら緊急避難って知っているでしょ。真奈美さんを取り返すには他に方法がなかったんだから、十分成立するわよ。」

「分かってるよ。今だから冗談を言いたかったのさ。百合、本当にありがとう。」

「良いってことよ。兄妹なんだから。それに・・。」

「それにって。なんだ。」

「もう気づいてるでしょ。恋愛音痴もここまでくると最悪ね。」

 その後パトカーと救急車がやって来た。

 救急隊員に伊藤さんを預けるとストレッチャーに乗せてくれた。佐々木刑事が近づいて来て彼女の手錠を外した。お医者さんが待機していてくれたみたいで、輸血の作業をしていた。その後やっと気が付いていた。

 すると百合に、じれったいわね。ほら行きなさいよと言われ、彼女のそばへ押し出された。

 そう言われ、私はやっと決心がついた。と言うよりも、やっと自分の深層心理に気がついた。

 そしてストレッチャーに乗せられた伊藤さんに近づき、
「今から話すことは吊り橋効果ではありません。私の素直な気持ちです。」

 彼女はしっかりとわたしを見つめていた。

 そして私も彼女をしっかり見つめ、
「君は、私が歩んでいく人生において、かけがえのない存在です。そして誓います。私は貴方の人生に欠かせない存在になるために一生努力し続けることを。私と結婚していただけませんでしょうか。」

 彼女は瞳から一粒の涙を落としながら、首を縦に振った。私は彼女に顔を近づけ優しく抱きしめキスをした。

 救急隊員にそれでは宜しくお願いしますと言い、離れようとした。

 バックドアを閉めずに、女性の救急隊員が、
「一緒に乗っていかないのですか。」

「私は家族ではありませんので」と言うと、

「今しがたフィアンセになったでしょ。」

 二人が救急車に入るとバックドアが閉まる前、傍にいた佐々木刑事が右手でぐーを作り親指を立てていた。

心の声が聞こえた。(グッジョブ)と

(バタン、ピーポーピーポー)

五月二十一日(土曜日)午前十時 伊藤さんが入院している病院

 今日は、真奈美さんの退院の日だ。おっと名前で呼んでしまった。ちょっと図々しいかな。まっいいか。

 コロナ下なので、まだ病室には家族でないと入れないのだが、受付で今日はいいですと言われた。よかったがどうしてと思いながらエレベーターで6階へ向かった。

 ところであのあとのことを説明しておこう。

(海の中に車ごと突っ込んだ甲唯は、泳いでいるところを逮捕されたらしい。森二神さんはあのまま西青梅署の刑事さんに逮捕された。サヨおばあちゃんには津野神さんの最後の言葉が突き刺さったのではないだろうか。
 また、伊藤さんの監禁場所では心三神さん、氷四神さん、死五神さん以下、甲唯が雇ったハッカーたちも逮捕された。その他、殺害された神崎さん宅の前の樋口さんは、お爺さんが美登神村出身であることがわかり、殺人のほう助罪で事情聴取されている。
 津野神さんはというと、倫理的には間違っていたと思いますと言い、伊藤さんにお詫びの手紙を出したそうだ。
 あと、弥刀井緑朗さんは、あのあとネットに神崎さんの肉声が流れ、曽おじいさんのスキャンダルが暴露されたため都議会議員への立候補は取りやめたと言うことだ。実質、議員の道は閉ざされたと思われる。
 緑朗さんは、先祖の悪行に嫌気がさし白朗さんと絶縁すると言いカナダに帰ったらしい。
 ところで私の名刺は、心三神さんが記者に成りすまして、数か月前からシンポジューム等に侵入してはせっせと集めていたようだ。それを使い私に早く参加させようとしたということだった。)

 六階のフロアーに降りると、すれ違うたびに看護師の方に横目で見られる。両手で口を塞ぐ人もいる。驚いた様子というよりも、マスク越しでも分かる程、にこやかな顔をしている。私は、少し頭を下げて挨拶をした。
 
 すると、伊藤さんの退院の付き添いに来られたのですかと聞かれた。はいそうですと答えると、おめでとうございます、お幸せにと言われた。何かヘンだ。

 伊藤さんの病室に着くと、お父さんとお母さんと深雪さんがいた。

「伊藤さん、退院おめでとう。」

 一人ではしゃいでいる深雪さんが、
「教授。ここには家族しかいませんので、下の名前で呼んでもいいのではないですか。」

 怒った顔で伊藤さんが、
「深雪、何を言うの。いい加減にしなさい。」

「だって、これが出たらもう隠せないでしょう。」と雑誌を渡された。

 付箋が貼ってあり、そのページを開けると2ページ両開きで、タイトルが〝大学教授決死の救出劇、フィアンセに熱いキスと永遠のプロポーズ゛とあり、目は隠してあるが、私と伊藤さんがキスをする写真が載っていた。表紙を見ると雑誌考都であった。

 私は、お父さんとお母さんに「これはその、あの、事実なのですが、伊藤さんが退院してからきちんとご挨拶に伺う予定で、伊藤さんにも了解を得ていたのですが、このようなタイミングでお話をさせていただくことになるとは、申し訳ございません。」と、しどろもどろでお詫びした。

 口元から笑みがこぼれているお父さんが、
「嬉しいことで週刊誌に載るなんて教授ぐらいですよ。」

 もう、と言いながら深雪さんが、
「お父さん、教授のお名前は弘樹さんっていうので慣れてね。」

「いやいや、恐れ多い。教授がお名前みたいなものなので、今後もそう呼ばさせていただきます。教授、娘をよろしくお願い致します。」

「いえ、こちらこそ。大事にさせていただきます。」

「先生、この中にあるプロポーズの言葉って教えていただけませんでしょうか。女性の救命士さんが、話せないけど、私もあんなプロポーズをして欲しいって話していますよ。」

《この時、頭の上で、えへっと笑っている三浦記者が浮かび、ちょっと乱暴だけれど、あのやろーと心の中で叫んでいた。笑》

後文
 ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACTをお読みいただきありがとうございました。皆さんがお読みいただくことで私の大変な励みになりました。ただいま新作を執筆しております。少しでも興味を持ってお読みいただけるように頑張りますので次回作を投稿いたしましたら、応援の程お願い申し上げます。
本当にありがとうございました。

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