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「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖    第二十三話

 約十分が過ぎた頃、水野係長から着席との指示が出た。全員が席に着いた。

「先程の教授のご意見を踏まえて津野神記者の身辺調査を先にし、その後会議で報告がありしだい事情聴取に掛かることとする。故に、身辺調査を担当する者は、津野神記者に気付かれずに行動することを命ずる。

 では、その身辺調査は五班とする。斉藤、頼んだぞ。一刻も早く全容解明が必要だ。心してかかるように。」

 斜め左後ろの刑事さん達が一斉に返事をした。

「続いて四班より先程報告があった。第二の被害者の身元が分かったようだ。三枝、報告を。」

「三枝から報告させていただきます。奥青梅ダム手前二キロの崖に遺棄されていた冷凍された遺体ですが、昨日のお昼に捜索願いが出されて、データベースから判明致しました。

 ええ、詳細ですが、東京都三鷹市深大寺在住の太田作治、男性、昭和8年7月5日生まれ、88歳。血液型はAB型で、現在は太田不動産の会長だそうです。

 業種は主に賃貸業と不動産仲介業で、三鷹市に本社を置き、市内に六棟のマンションを所有しております。その他隣接の武蔵野市と小金井市を合わせると十一棟のマンションを所有する中堅の不動産会社です。

 死亡推定時刻はかなり前である可能性から、いつ頃から行方不明だったのかを聞くと、2月19日の土曜日からではないかと言うことでした。
 
 なぜ二ヶ月も分からなかったのかというと、二十日の日曜日にカナダに旅行に行くと言っていたので、カナダにいると思っていたそうです。」

 後藤一課長が、
「旅行ならツアーだから、普通来なければ旅行社から家族に連絡ぐらいいくだろう。それはなかったのか。」

「それがツアーではなく、個人での旅行だったようです。というのも、妻に先立たれてから、毎年一回、妻と旅行した外国を一人で辿っていたそうです。

 そして一昨日、どうしても会長の決裁を仰がなければならない案件が出て連絡を取ったらしいのですが、何度掛けても留守電なので、予定表から宿泊先のホテルに連絡すると、宿泊されていませんと言われたそうです。

 そこで、パスポートを探すと金庫に保管されたままなので、昨日慌てて捜索願いを出したそうです。

 これらから死亡推定時刻ですが2月18日は会社に出社しており、そしてパスポートがあることから、旅行の前日の19日に誘拐され、その後凍死させられたと考えます。尚、会社は、息子の太田作太郎、59歳が社長です。

 神崎さんに関してなのですが、息子、娘、従業員など、被害者の周辺を当りましたが、神崎さんという名前の知り合いはいないそうです。

 また神崎さんは元地域活性化開発課なので関わりがあるかと思い、会社の実績を調べてみましたが、会社は賃貸業が七割を占める会社で、関連はないように思われます。」

「しかし関連もなく、同じ方法の足跡を残すとは思えない。また、特徴的な殺害方法から無差別殺人とは考えにくいので、もう少し掘り下げて調査してほしい。」

 三枝刑事がはいと答えた。

 確かにこの二人の繋がりが鍵を握っていると思った。

 その後、水野係長が、
「島尾班。佐々木から報告があった車の当たりはどうだった。」

「はい。車の目撃者に聞くと、確かに似ているとのことです。ただし、朝も早く眠気まなこだったので、確かだとは言えないということでした。
 人物に関しては、一瞬なので全くわからないとのことです。引き続きローラー作戦で聞き込みをしております。」

「分かった。座ってくれ。では、他に報告はないか。」

 手は上がらなかった。水野係長が今日はここで解散とすると言い、起立の号令のあと上席に礼と言って解散となった。

 佐々木刑事と言い争いになっていたのは同期の七班の班長であった。
 
 あとで聞いた話だが、彼は懺悔の多々良と言い、取り調べになると急に山形弁になり、硬軟おり交ぜて相手を必ず完落ちさせると言われる刑事さんで、警視庁では多々良節といわれているということだ。

 多分、私たち別働隊が出す資料が気に入らないのであろう。昭和を引きずる地を這う捜査を信条とするからかも。私としては、少しだけ参考にしていただきたいだけなのだが、なかなかうまく行かないものだ。

 二人は一触即発のようだったが、私から近寄り握手を求め、チームですから一丸となって頑張りましょうと言い、今後ともよろしくお願いしますと頭を下げると、丁寧に挨拶をされていた。ここは、私から握手を申し出たことから穏便に収まったようだ。

 佐々木刑事にはまだ、シコリが残っている様子であったが、右手を佐々木刑事の背中に添えて一緒に会議室を後にした。
 廊下では、佐々木刑事が何度も頭を下げて、すみませんと言っていた。横にいる加藤刑事も頭を下げていた。

 色々あるが、佐々木刑事は元より、加藤刑事にも少しは信頼されていると感じた。優秀な刑事さん二人が付いていてくれれば百人力だと思った。

 今日は遅くなったので、お二人とも送らせていただきますと佐々木刑事に言われ、二人とも甘えることにした。

 私は車の中で、伊藤さんに、明日は午前中所用がありその後は不明なため、四時限目の授業をお願いした。

 驚いていたが、こんな事もあるかと思い、いつも自分なりにシミュレーションはしておりましたので、頑張りますと承諾してくれた。そしてその旨を事務局にメールしておきますのでよろしくお願いしますと話した。

 車は、伊藤さんの自宅に着いた。すると玄関からお母さんが出てこられた。すぐさま降りて、遅くなったお詫びとこの間のお礼をした。佐々木刑事と加藤刑事も降りてきてご挨拶をしていた。そして伊藤さんにご協力いただいているお礼をしていた。

 その後伊藤さんの自宅をあとにして私の家に着いた。
 佐々木刑事が、家に明かりが付いていますよと言うので、今、妹が泊まりにきていると言うと、ご挨拶だけでもと言って降りてきた。
ドアを開けて、玄関でただいまと言うと百合がリビングから出てきた。二人は挨拶後、佐々木刑事が、私との馴れ初めを話しだしたので、加藤刑事がその話はまた今度にしませんか夜も遅いですから、ご迷惑ですよと言い、それではこれで失礼致しますと言って玄関を出て行った。

「お兄ちゃん、食事はまだでしょ。作っているから用意するね。」

「ありがとう頂くよ。ところで、昼間の件だけど、本当にあんな車を買っていいのだろうか。」

「もし嫌になったら私が貰ってあげるから。これでも国内Aライセンスを持っているのは知っているでしょ。あのスポーツカーは任せなさい。」

「バカも休み休みにしろ。サーキットを走るわけじゃないし、それにあんな金額の車を譲ったらいくらの贈与税が必要か分かっているのか。結婚式の費用が吹っ飛ぶぞ。」

「そんなの嘘に決まっているじゃない。今は一人だけ乗せればいいのよ。」

「なんだ、それは。ところで、お前はいつまでここにいるんだ。早く出で行けと言っているわけじゃないぞ。
 ただ、以前と違い、お前がいるのが分かっているから帰るのも楽しいからな。お前の幸せが優先なのは分かっているが、淋しくはなるからだいたいの腹積もりだけと思って。」

「まあ、その淋しさもすぐ終わるわよ。」

 どういうことだと聞いたが答えなかった。そして食べ終わると、ニコっと笑って後片付けをし、さっさと寝室へ入って行った。


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