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Buddy is a living spirit(相棒は生き霊)第七章

注釈
 「 」かぎ括弧は会話
 ( )丸括弧は心の中の会話又は電話等
 [ ]角括弧は生き霊の会話

第七章 昼過ぎ「刑事への第一歩」
 
 用意ができると戸締りをして出かけた。その後、山神の言うとおりに歩いたが、途中から[そろそろ走れ]と言われた。
 
(以前のように、ギリギリで右左はなしにしてください。歩きならいいですが走っていると何かにぶつかる可能性があります。お願いします。)
 
[分かった。120メートル先を右だ。]
 
(それは先すぎて反対に分かりません。幽霊になると距離感覚も人間離れしてくるんでしょうか。)
 
[うーん、それは分からん。あれ。何だとわしは幽霊でもないし、人間だぞ。このやろう。]
 
(怒らないでください。私は超人的と言いたかっただけです。これでも感動しているんですよ。)
 
[何か丸め込まれたような。そろそろだ。その蕎麦屋を右に。そして、150メートル先に数字の一と書く一軒家がある。玄関に着いたら110番し、不審者がいると言え。]
 
(どう言うことですか。)
 
黙って電話しろという山神に、仕方なく110番した。すると庭に通じる勝手口が開いた。一人の男が出てきたが、古いビニール鞄を持っていた。すると山神が[職質しろ。]と言った。
 
 ポケットから手帳を出し、藤沢中央署の神山と名乗り職務質問を行った。
「一【ハジメ】さんですか。」
 
「ええ、一【ハジメ】です。何かご用ですか。これから出かけるんですが。」
 
[神山、こいつを逮捕しろ。]
 
(どういうことですか。)
 
[この家の苗字は、一と書いて一【ニノマエ】と読むんだ。こいつは空き巣か強盗だ。]
 
(分かりました。)
 
「ハジメさん。すみませんが少しだけお時間いただけないでしょうか。ほんの2.3分ですみます。」
 
「手短にお願いします。急いでいるので。」
 
「分かりました。最近この辺りで空き巣や居直り強盗が発生しておりまして。」
 
「此処は大丈夫ですよ。」
 
 すると左から二人の制服警察官がやってくるのが見えた。その男にも警察官が見えたのか、これでいいですよねと言いながら門扉を開け出ていこうとしたので、神山はとっさに逮捕すると言いながら、右腕を捻り上げた。
 
 それを見ていた警察官が、
「逮捕とは穏やかではないじゃないですか。」
 
 そして捻り上げている右腕を掴み神山に放すように言った。ポケットから警察手帳を出し、藤沢中央署交通課の神山と名乗ると、捕まえていた手が緩み、犯人に逃げられた。犯人は庭の方に戻り裏の塀を飛び越え、背中合わせの家の庭に出た。
 
神山は警察官に「あいつは空き巣です。右と左に分かれて追いかけて下さい。」と伝え、犯人のあとを追った。犯人はすばしこく、家の隙間隙間を這い回った。
 
 神山は逮捕術や武道はダメだが、足だけは早かった。高校時代は100メートルで県の代表として国体に出たほどだ。
 
 その後大通に出た所で追いついた。そこへ両方から警察官が回り込んだ為、車が行き交う道路を横切ろうとした。惹かれる寸前で押さえ込み、警察官に借りて手錠をかけた。
 
 二人の警察官には、山神に言われた通り、勝手口から出て外出しようとしていた為、住人が玄関から出ていかないのはあまりにも不自然と思われたので、110番に掛けたあと職務質問をしたと話した。
 
「それにこちらの苗字の読み方は一【ハジメ】さんではなく一【ニノマエ】さんとお読みするんです。しかし犯人は一【ハジメ】と名乗りました。」と説明した。
 
 その後、全員で一【ニノマエ】さんの家に戻った。その頃にはパトカーが三台到着しており、かなり騒々しくなっていた。
 
 隣に聞き込みをすると「奥さんは専業主婦なので普段はご在宅のはずです。」と言われた。
 
 ドアは鍵が掛かっていなかった。犯人に聞くと初めから玄関は侵入路と考えていないから調べていないので、庭のガラス戸を割って入ったという。
 調べると確かにガラス戸の鍵付近が割られており、ここが侵入路と思われた。
 
[神山。刑事が来る前に部屋を捜索しろ。]
 
(それはまずいんじゃないですか。)
 
[構わん。刑事が来ると手柄が・・。]
 
(手柄って。)
 
[いいから。さっきの警察官が表にいる間に早く入れ。]
 
(分かりました。)
 
 神山は言われるがまま玄関に入り、シューズカバーを履いて上がった。二階へ行けという指示で階段を上がって行き[右に曲がった突き当たりの部屋に行け。]と言われた。
 ドアが開いておりベッドが見えると[入れ。]という山神の指示で入ってみると、奥さんと思われる遺体があった。すぐさま大声で警察官達を呼んだ。すると刑事が到着しており、一緒に上がってきた。捜査三課の刑事の田所が神山に質問した。
 
「捜査三課の田所だ。君が三林を逮捕した警察官だね。」
 
「はい。藤沢中央署交通課の神山と申します。非番だったのですがジョギング中に、不思議な光景を目にしましたので。」
 
「外の警官から聞いたが、勝手口から出かける住人を見たからと。中々の洞察力だな。」
 
[いつも訓練しております、と言え。]
 
「えっ何ですって。」
 
[声を出すな。]
 
(すみません。)
 
「あっ、日頃から訓練しておりますので。」
 
「交通課にはあまり関係ないだろう。」
 
「刑事になることが目標でございます。挙動不審かもしれませんが、いつも周りを注意しております。」
 
「分かった。覚えておく。」
 
 山神は[一歩前進だ。]と言い、しばらくすると南田副班長が山神班を連れてやってきた。南田は神山を見つけると近寄ってきた。
「君は班長を助けた巡査じゃないか。確か名前は、逆読みの神山君だったね。」
 
「はい。」と返事をした後、犯人逮捕までの出来事を一部始終話した。その後戻って家を確認すると遺体を見つけたと話した。
 
「空き巣の件も聞いたが、お手柄づくしだな。」
 
「ありがとうございます。では私はこれで失礼致します。事情聴取は本日自宅に戻り次第出勤致します。」
 
[バカやろ、ここで引いてどうする。捜査が終わるまで警戒の巡査に加わりますとかなんとか言わんか。]
 
(ダメです。ガツガツしているように見えて、反対に毛嫌いされるのは目に見えています。これだけの印象を残したのですから、慌てない方が無難です。)
 
[そうか。私も少し焦りすぎていたのかもな。分かった。]
 
 納得した山神は二人で神山の自宅に戻った。
 
 神山は自宅に戻ると洗面所の鏡に立ち、山神を映し出し、
「山神さん、寝不足のような顔をしていたのは、半径3キロの範囲で事件がないかを調べていたんですね。私の為に。」
 
 少し照れたような顔で山神が、
[結果的にお前の為になったのは確かだな。]
 
「照れなくてもいいですよ。昨日言ってた計画って、これなんですね。刑事への階段を上がるのに後ろから押していただいているのが分かりました。」
 
[分かっているなら何故残らなかった。]
 
「あそこで残ったら露骨ですし、モロばれですよ。どっちみち事情聴取はあるはずですからすぐにお会いできるとふんでいましたから。」
 
[神山、お前って本当は刑事向きなのかもしれないな。]


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