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Buddy is a living spirit(相棒は生き霊)第二十一章
注釈
「 」かぎ括弧は会話
( )丸括弧は心の中の会話又は電話等
[ ]角括弧は生き霊の会話
第二十一章 瑠璃との誓い
神山は報告を終えると一目散に瑠璃の元へ急いだ。
山神の玄関前に着くと、息を整えてドアフォンを押すと[神山、何を緊張することがあるんだ。もしや瑠璃と二人っきりになるのを喜んでいるんじゃないだろうな]
(二人っきりになるのは無理でしょう)と案にあなたがいつもそばにいるじゃないですかと話した。
[そうだな。アベックになるのも振りだけだしな]
(アベックって三世代前ぐらいの表現ですね。カップルって言ってください。ところで今度おばあさんに聞いてみます)
[何て聞くんだ]
(私たちが似合っていますか、ですよ)
[バカやろ。そんなことを聞く必要がどこにある]
(これも隠れ蓑が功を奏しているかの演技ですよ。それにおばあさんには病院で初めて会っていますから、早めに理由を話してご理解はしていただかないと困りますからね)
[いつも言い含められているような気がするな。お前、やっぱり相当な策士だな]
(買い被りですよ)
[褒めてねーわ]
神山は、瑠璃との距離が縮むのが楽しくて仕方がなかった。玄関に足音が聞こえると、鍵を開けドアが開いた。待ち侘びていたかのように瑠璃から満面の笑みを浮かべ「真一さんお帰りなさい」と言われドキッとしたのだが、山神に【ドンッ】と胸を叩かれ[何故、胸が高鳴ってんだ。だんだん本当になってきているんじゃないだろうな]との声がした。
(そんなわけありませんよ)
[言っとくが、神山の為に言ってやってるんだからな。一応世話にはなっているから言うが、終わったあとで泣きを見るのはお前だからな]
神山は黙って聞いていた。
瑠璃に案内され食堂に入りテーブルを見ると、オードブルとして鯛のカルパッチョと思われる皿があり、両横にはナイフとフォークが置いてあった。その横には二種類のパンがあり、さしづめフランス料理のコースのようであった。しかし瑠璃の元にはグラスだけがあり料理がなかったので理由を聞くと、暖かいものは作りたてを出したい為と神山に喜んでもらう為であると言った。それを聞いた神山は感謝した。
左手にあるおしぼりで手を拭いたあと、横のナプキンを広げ膝の上に置いた。瑠璃が白ワインを注ぐと、その心地いい音が静寂の世界に響く瑠璃の鼓動のように感じた。
[何だこの料理は。こんなおかずを食べたことがないぞ]と怒鳴る声がした。
神山は山神の会話には一切立ち入らないという態度で、返事をしなかった。ここでゆっくり食事をしたい神山は「お父さんにもこれを見せてあげましょう」と手鏡を出し一旦映したあと、ガラスの部分を食べ物に一通り向けた。その後「ではいただきます」と言いながら手鏡の蓋を閉めた。
「父は喜んでおりますか」と聞いたので「ゆっくり堪能してくれとのことです」
「今日は父にしては珍しく素直ですね」とこれほど笑顔が似合う人がいるのかと神山のハートを揺さぶった。
乾杯したあとナイフとフォークを取り、目の前のカルパッチョを一つ口の中に入れた。鯛の歯ごたえと程よいレモンの香りが口の中を覆ったかと思うと、その後に味わい深いオリーブとスパイスの香ばしさがふりかかりワインと絶妙な調和を放っていた。一人暮らしのコンビニ弁当派には、こんなに落ち着いて料理を味わうことがないので、家族のある家が恋しく思えた。その後車海老と和風野菜を和えた料理が出てきた。鰹と昆布の味が漂う和風スープが海老の濃厚な海の味を際立たせていたので、これはと聞くと「前に母とディナーに行った時に食べた料理なんです。今日の料理はみんな母との思い出の食事ばかりです」と少し涙ぐんでいるようであった。
「そうですか。それじゃ今日はお二人を感じながら食べさせていただきます。できれば是非一緒に食べましょう」と誘うと、顔を上下させ頷いていた。
二人は再び乾杯し、神山は「山神さんが早く目覚めますように」と、そして瑠璃は「お母さん、いままでありがとう」と言った。
最後にメインディッシュのお肉が出てきた。一緒にナイフとフォークが出てきたので、マナーとしてはよくないが先に切り分けて二つの小皿に分けて箸で食べた。
瑠璃は「父にも早く食べさせてあげたい」と一筋の涙をこぼしていた。
最後にコーヒーとケーキが出てきた。シンプルないちごケーキで、最初に口に含んだ時よりも喉越しを通る時の甘い香りとイチゴの甘酸っぱい刺激が合わさり、甘さがひつこく感じないケーキであった。
「シンプルですが此処のいちごケーキが大好きなんです。お店は駅の反対側にあるんですが早く帰ってくると必ず買ってきてくれていました」
神山は慌てて手鏡を開けこのケーキを山神に見せた。そして[苦しいわ、早く開けんか]といつも通り怒っていた。しかし目の前のいちごケーキを見ると言葉を失ったのか、何も話さなくなった。そうっと手鏡を覗くとうっすらと涙していた。
神山はうっかりと(幽霊でも泣くんですか)と言ってしまった。心臓を打ってくるかと思い身構えたが何も言わなかった。
ケーキを食べ終わると瑠璃に「本当は捜査情報は明かせないのですが、背に腹変えれないことがおこりました。それは、捜査対象が変わるかもしれないんです。もしも勅使河原に対する容疑が完全に晴れてしまうと、当然に外れてしまいます」
「真一さんの中では勅使河原さんが犯人なんですか」
「確証があるわけではないので、はっきりと断言はできませんが、高い確率で犯人だと思います。しかし完全なアリバイに行手を阻まれているのが現状です」
「では、それを私に話すことで勅使河原さんを追い詰めることができるのですか」
「もしも方針が変わっても勅使河原を追い続けるつもりなんです」と話すと[バカやろう、絶対に許さんぞ]と山神の声がした。
「絶対に危険な目には合わせません」と声が出てしまった。それを効いた瑠璃が「真一さん、父が反対しているんですね」と返してきた。「はい、当然心配されています。それは当然なんですが、女子大生の殺害も山神さんの奥さんの殺害も勅使河原一家の仕業には間違いがないと思うので、逮捕して罪を償わせたいんです」
「父はこの手鏡ですか」と聞くので「そうです」と答えると、手鏡を両手で掴み、真正面を向きながら、神山の考えと同じであることを伝えた。そして山神が元気で捜査をしていても手伝えるのなら手伝いたいと話し、母も同じ考えだと思うと説得した。[ダメだ。何があっても許さん]と言ったことを告げると「お父さん、もしも被害者の娘さんの協力が必要であったら、命に変えても守るのでと説得するはずよ。私が娘だからというのは単なるエゴだと思うわ」
山神の声は聞こえなかった。鏡を覗くと下を向いていた。瑠璃が何と返事をしていますかと聞いたので黙って俯いていると言うと、それは分かったというサインですとニコッと笑った。
「では今から私の考えを話します」
そう言うと瑠璃は背筋を伸ばして神山の顔をしっかりと見た。神山は山神に途中では話しかけないで下さいと言い話し出した。
「まず、十中八九犯人は勅使河原将道だと思います。そして必ず山神班にスパイがいます。そのスパイの正体は今の段階では証拠がないので此処で名前を出すのは控えます。次に女子大生を殺害した方法には必ずトリックがあるはずです。そして、山上さん達の車を襲わせたのは将道でしょう。父親や兄の将兼がするとは思えません。はっきり言って思慮がなさすぎます。警察官を狙えば普通以上の捜査になるのは分かっています。替え玉などありえないことから暴力団の世界でもないでしょう。つまり国会議員やその秘書が手配することはないはずです。勅使河原の長男は帝央大学法学部を卒業し法科大学院を出て司法試験に一発合格したエリートです。ゆくゆくは父親の地盤を引き継ぎ国会議員になるレールが引かれている人間ですから」
[神山。よく知っているな。調べたのか]
「今、お父さんが調べたのかと聞かれたんですが、勅使河原将兼とは少し因縁があるんです」
「お父さん、上から目線じゃなく親身になって聞いてあげて。ところで私は何をすればいいんですか」
「勅使河原将道には空白の1時間半があることが分かっています。これを解明することが突破口になるはずです。明後日の晩から将道が目撃された次の日の朝方までご一緒して欲しいんです」
「真一さん、付いてきてくれと言って下さい」
[ダメダメ、完全に恋人同士の会話じゃないか。神山!]
「分かりました」
[ゴラァ!聞こえているだろ!]
「瑠璃、お願いだ、付いてきてくれ」
「はい」
[目覚めたら、ボコボコにしてやる]
神山は山神の言葉を完全に無視したあと明後日の11時に迎えに来ると言った。すると「そんな遅くに来ると怪しまれます。仕事が終われば泊まるつもりで帰ってきて下さい。それで11時に家を出ましょう。信用してもらえませんのでお父さんの件は言いませんが、おばあちゃんには捜査の事を話しておきます」と言い「見張られている可能性がありますので今日はこのまま泊まっていって下さい。明後日も泊まると勘違いされて現場に行きやすいと思います」と言いながら部屋を出て行った。
[瑠璃、なんてことを言うんだ。母さんもいないのにお前一人の家に神山を泊めるなんて、狼を引き入れるようなもんだ]
(狼なんかになりませんよ。仮にも警察官です。いくら好意を寄せている瑠璃さんでも、そんな卑怯な手は使いません)
[やっと本音が出たな。瑠璃にはこれっぽっちも興味のないようなことを言いやがって、やっぱり狙ってんじゃねーか]
(人聞きが悪いですよ。好意を持っていると言っただけです。何か企みがあるわけではないんですから。何度も言いますが、此処に山神さんがいるんですよ)と右手で胸を触った。
それからは山神の声は聴こえなくなった。しばらくすると瑠璃が戻ってきた。奥の書斎に布団を敷きお風呂の用意をしたとのことだ。洗面所に新しい下着と山神のパジャマを置いたので、今着ている下着は洗濯機に入れて下さいとのこと。そしてゆっくりおやすみ下さいと言われた。
お風呂場までロボットのような歩き方であった。湯船に浸かりながらこのまま寝てしまいそうなぐらい落ち着いた気分になった。するとお風呂のドア越しに瑠璃が現れ、湯加減を聞いてきたので「ちょうど良いです」と答えたのだが、下着が服の中に隠されていると分かっているかのように、取り出して洗濯機に入れていた。神山は持って帰るつもりであったのだが、見透かされていたようだ。
(気立てだけではなく私のような他人の下着を洗うなんて、ますます好きになってしまいました)
[おい!今なんて言ったんだ]
(気立てがいいだけではなく、よく気がつく女性だと言ったんです)
[そうか。久しぶりの我が家の風呂が気持ち良くてハッキリ聞こえなかったわ]
(お風呂に入った気分になっているんですか)
[あゝ、身体がポカポカして気持ちがいい]
(私のアパートでは一度もありませんよね)
[そうだな。何かあるのかも]
(もしや首まで浸かったらどうなるんですかね)
[お湯に浸かっているというよりも暖かい感じがするだけだ。ああっ。もしかして俺を溺れさせようとしたな。この人殺し!]