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Buddy is a living spirit(相棒は生き霊)第五章

注釈
 「 」かぎ括弧は会話
 ( )丸括弧は心の中の会話又は電話等
 [ ]角括弧は生き霊の会話

第五章 千葉県九十九里南町

  車は千葉県九十九里南町に入った。片側二車線の国道をそのまま進むと左手が県道の交差点があり、そこを曲がった。そして県道を直進すると片側一車線になった。一つ目の信号を右折するとお寺が見えた。隣に車十台ぐらい止めることのできる駐車場があり、そこに止めた。

 山神の妻のお墓参りだ。正面の本堂の右側を抜け、奥の墓に向かった。墓地の入り口にある水桶に水を入れた後、そのまま真っ直ぐ進んで左に曲がると、角から二つ目が山神のお墓であった。見るとお墓は三畳ぐらいあるような由緒のある立派なお墓だった。

 (山神さん、ここに奥さんが。)

 [そうだ。ここ睡蓮寺は山神家の菩提寺だ。すまんが囲いの中に入って拝んでくれないか。]

  神山は中に入ったあと振り向いた。正面を向かせようと身体をひねったが、神山はそれでも後ろを向き続けた。そして鞄から手鏡を取り出し少し角度をつけて墓石に向けた。

 [そういうことか。]と言った。

  唯一鏡にだけ映り込むので、山神からだけではなく奥さんからも見えるように映し出したということだ。

 [すまんな。しかし手鏡とは・・。もしや俺が墓参りに行くことを予想していたのか。]

  まさか山神を体から離すためとは言えなかった。
 (そうです。私にもそれぐらいの推理はできます。みくびらないで下さい。)

  自慢げには言っているが、洗面所に映し出されて以来、手鏡は常に持っていた。少しは刑事らしく振る舞うためのセリフであった。

  すると遠くから、
「神山さんではないですか。」と娘の瑠璃の声が聞こえた。

 「瑠璃さん、今日は。偶然ですね。」

 「そうですね。ところで私どものお墓がここにあると良くご存知でしたね。」

  困ってしまったが、
「いや、そうです。南田副班長にそうです。お聞きしたんですよ。」

 「そうだったんですね。」

 「ええ、一応個人情報ですので。ただどうしてもお墓参りがしたかったので無理矢理聞いてしまいました。すみません。」

 「いいえ、とんでもありません。わざわざこんな遠くまで足を運んでいただき感謝申し上げます。ありがとうございます。ところで携帯のようなもので一緒に写真を撮っておられたような。」

 「いえ違います。奥様なので手鏡を持っておられませんかとお聞きになったような気がしたので、たまたま、持っていたもので。」

 気が抜けたような感じで山神が、 
[はあー。?]

  これは失敗だった。神山は霊媒師かと突っ込まれるかもしれない。瑠璃は困ったという雰囲気が漂っていた。ここは言い訳するよりも他の話に持っていくのが正解だと考えた。

 「お父さんはいかがですか。」と聞くと「相変わらず意識は戻りません。」

  そして知らないふりをして、事故のあと処理は進みましたかと聞いた。
「それが全く進んでいないようなんです。ただ、加害者は目覚めたようなんですが。」

 「そうですか。加害者は目覚めたのですね。」

 「はい。でも、詳しくは教えていただけません。相手の方が病院におられるので、まだ事情聴取ができていないとのことでした。」

  瑠璃が、死亡事故が絡むと遅くなるのかと聞いてきたので「人身事故の場合は加害者が生きていれば必ず事情聴取は行なわれ、その言い分を検証する必要から遅くなります。」と話した。一応納得はしていた。

 (ところで、瑠璃さんとこれほど長い時間、話しているのに邪魔が入らないのは何故だ。するとズボンの手鏡を触るとゴソゴソとひとりでに動いている。これは山神が手鏡に閉じ込められていることの怒っている震えであった。
 一旦鏡に入ると戻る前に蓋をすすれば戻らないようだ。そして顔を合わせないと声も聞こえないようだ。これはいいことを発見した。と思った。

  これはチャンスと思い、
「瑠璃さん、あの事故に関して少し思うところがありまして。」

 「と、言いますと。」

 「もしよろしければお父さんの備忘録と言ってメモ帳を見せていただくことはできないでしょうか。」

 「メモ帳とは。」

 「それは、昔でいう警察手帳のメモ欄の代わりである小さめのノートのことです。もしかするとノートというよりも手帳のだと思います。」

 「手帳であればお父さんのスーツだと思います。以前書斎に入った時に書き終わったばかりの手帳をスーツの内ポケットにしまっているのを見たことがあります。」

 「分かりました。今度の非番にお伺いしたいのですがよろしいでしょうか。」

 「ええ、大丈夫でございます。ところで、今回の事故は、お父さんが担当する事件と何か関係があるのですか。」

 「いえ、今のところはっきりとしているわけではありませんが、この辺でモヤモヤしておりまして。」と右手で、みぞおちの辺りを撫でた。

  すると遠くで瑠璃さんを呼ぶ女性の声がした。おばあさんだ。一緒にお墓参りに来られていたようだ。

  ご住職と話し込んでいたようで、私を見てびっくりされていた。
「この間の巡査の方ですね。」

 「はい。今日は、山神さんの奥さんのお墓参りがしたくて参りました。」

 「これはどうも、遠いところまで。でも、ここにお墓があることをよくご存知でしたね。」

  すると、瑠璃が南田さんに聞いたと話してくれた。

 「わざわざありがとうございます。お見舞いまでして頂いただけでなく、お墓参りまで。恐縮致します。」

  横から瑠璃が、「今回の・・」と話し出したので、慌てて制止し、
「私どもはお参りが終わりましたので、この辺で帰らせていただきます。」と伝えた。

  二人はお礼に何度も頭を下げていた。

  話に夢中になっていた為、駐車場に着き車に乗るまで、山神のことをすっかり忘れていた。車に乗ると、ズボンにハムスターでも入れたように、また折りたたみ手鏡が動き出した。すぐに取り出し蓋を開けた。

 当然、カンカンであった。
[神山。もう車まで戻っているじゃないか。瑠璃の顔をゆっくり見たかったのに。このバカやろー。もう一度戻れ。]

 (そんなことをしたらおかしいでしょう。今度ゆっくり会えますよ。)

 [それはどういうことだ。]

 (山神さんの備忘録を見たくて、家にお伺いする約束をしました。)

 [そんな約束をしたのか。]

 (山神さん。自分で追いかけたいのではないのですか。それには今の状況では私が動く以外にはないでしょう。だから、できるだけ多くの情報を知っておく必要から、山神さんの備忘録を見せてください。)

 [分かった。神山。お前、かなりいいやつだな。]

 (改まって言われると照れますね。私、いいやつでしょ。明日は勤務だから、明後日に伺うように約束します。)

 [それはそうと、瑠璃と近くなっていないか。]

 (何を言っているんですか。さっきも話したように山神さんのことを考えているんです。)

 [うんそうか。一応信じておこう。]

  私達は明後日からの戦略を話し合い、帰路に着いた。
 家に着くと早速瑠璃に電話をした。明後日の12時に約束した。

 [12時ってお昼時じゃないか。]

 (あまり遅くなるとその後の行動に差し支えるじゃないですか。)

 [そうだな、分かった。]と話し、そのまま帰宅した。


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