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「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖 第二十九話
第十三章 捜査会議(内堀へ)
令和4年4月23日(土曜日)
警視庁 捜査会議室
水野係長が入ってきた。
「上席が入られる。みんな、席に着け。」
その号令で、一斉に席に着いた。上席三人が入って来た。
水野係長の起立、上席に礼という号令で始まった。
「上席、ご苦労様でございました。お疲れのところ申し訳ございませんが会議を進めさせていただきます。」と言う言葉に上席が頷いた。
「では最初に佐々木から報告をもらう。尚、佐々木を班長として班に昇格させる。また、西青梅署の三枝慎吾巡査を班に加える。では佐々木、報告を。」
「佐々木から報告させていただきます。先だって報告したものと最初はダブりますが話の流れからご容赦下さい。火曜日に三枝の案内で早乙女教授とダムの堤頂部に行き、そこで遺体の元の形からダムに沈んだ村を指差しているのではないかと考えました。
この体勢を関係者から聞いた三枝には報告するべきであったと、きつく叱ったことはお伝えいたしました。今日は三枝も来ておりますので再度お詫びいたします。」
二人は同時に頭を下げた。続いて、
「その後、近辺の一番古い集落を訪ねると、一人のおばあさんに会いましたがその時は追い返されています。そして、次にその沈んだ村のことを知っている三枝巡査の祖父に会いに行き、その村の存在と神格化された五つの家族の話、つまり五つの神と崇められた家族の話を聞きました。
ここで早乙女教授が一枚の写真を出して聞いたところ、今回浮上している津野神さんのおばあさんだということがわかりました。ここまでは報告済みの再確認でした。
次に、本日ですが、再度ダムに向かい調査した結果を報告します。」
佐々木刑事は備忘録を手に取り、開いて話し出した。
「二人目の被害者である太田作治さんが引っかかっていた木は、ダムに沈んだ美登神村の神木でした。
それは、三枝の祖父に聞いた時はどこに移設したかは不明でしたが、調査した結果、工事用ダンプカーがぶつかったということから、その木には削れた箇所があり、ダンプカーのヘッドライトの破片と思われるガラス片が食い込んでいました。
この二つの事情から推測すると、いや確信しましたが、ダムに沈んだ村の一部の人による復讐ではないかと考えます。」
回りがざわついた。
「それも五つの家族が深く関わっていると思います。ここで、早乙女教授から補足があります。お願いします。」
佐々木刑事からバトンを渡された私は、立ちあがって話し出した。
「こんばんは、早乙女です。今日までの捜査でその五つの家族である、五神の事をご報告いたします。
まず、一の神は津野神さん、二の神は山の集落に残っていたおばあさんで森二神(モリノ ニノカミ)さんです。今、横の席から絶えたのではないのかと言っておられましたが、そうでもしないと嫌がらせを受けていたダム建設賛成派から逃げられなかったという話です。
当時は森二神さんだけ反対していましたが、弥刀井さんという議員さんはなんとしても満場一致が欲しかったとのことでした。なぜかと言うと森二神さんの奥さんであるおばあさんが言うには、弥刀井さんと誰かの間に何かしらの裏取引があったのではないかと噂されていたそうです。
だから、弥刀井さんから相当な嫌がらせを受けていたそうです。しかし、その嫌がらせは他の四家族には秘密にしていたようです。
その後も、嫌がらせはエスカレートするばかりでした。だから奥さんだけは身の安全の為、村から逃げていたらしいのです。それでも森二神さんは、頑として反対し続け、決議の後、多数決には従うと一言だけ言って議場を出て行きました。その後、家に閉じこもっていたが、ある日の朝、神木で首を吊って自殺していました。
当初は弥刀井さんのしわざではないのかと噂が立ちましたが、裁決の前に殺すのであれば分かるが、終わった後では意味がないし、恨まれこそすれ、殺すほど恨む立場にはないだろうということで、自殺として処理されたらしいのです。」
疑問があるような口調で後藤捜査一課長が、
「先程出た名前で、弥刀井さんという人の立ち位置を教えて下さい。」
「はい。この弥刀井さんというのは、美登神村最後の村議会議員の一人でした。都心の大学に通っていた息子と一緒に、他の議員にダム建設の賛成に回るように説得していた人です。
お気付きの人もいるかもしれませんが、その息子が銀座にいくつもビルを所有する現在の弥刀井興産の社長で弥刀井白朗です。」
「それは理解できました。では、今回の報告でその人の名前を出した根拠をお聞かせ下さい。」
「佐々木刑事からあったように、村の怨嗟による復讐であるので、次に狙われるのは弥刀井興産の弥刀井白朗さんか孫で弥刀井緑郎さんだと思います。
現在、白朗さんは箱根の別荘にいるそうです。息子の緑郎さんはカナダに留学中ですが、来年の都議会議員選挙に立候補するために五月十五日に帰国するとのことです。
私はこの二人のうち緑朗さんではないかと思います。何故ならば白朗さんがターゲットであるならば、太田さんのことを考えると既に殺害されているのではないでしょうか。
それに、白朗さんの娘さんは婿養子をとりましたが、緑朗さんを生んだ後病弱になり亡くなったそうです。だから緑朗さんが亡くなれば血筋が絶えることになりショックが大きく、白朗さんにとって耐えがたいものになると考えます。そして白朗さんにその悲しみを死ぬまで味合わせることが出来るからです。」
「すると、教授は、その緑朗さんが次のターゲットと思われているのですか。」
「はい、そのように思います。」
「ところで、ぼんやりとは浮かんでいても、まだ、具体的な犯人は浮かんでいないようですが、どのような捜査方法を取るべきでしょうか。」
「それではよろしいでしょうか。まず、お願いしております身辺警護の措置を強化していただきたいと思います。念のため緑朗さんだけではなく白朗さんもお願いします。そして多々良班の方を私ども佐々木班に加えていただきたいのですが、ご了解いただけませんでしょうか。」
前に座っていた佐々木刑事が少し興奮気味に、
「教授、必要ないですよ。これまでも我々だけでやってきたじゃないですか。」
それに反応した多々良刑事が、
「それはこっちのセリフだ。聞き込みの範囲が広すぎて島尾も大変なんだ。」
二人と同じように不思議な顔つきをした後藤捜査一課長が、
「勝手に発言するな。今から教授の真意をお伺いするから。教授、どうして多々良でしょうか。どう考えてもこの二人では、チームとして統制が取れないと思うのですが。」
「いえ、どうしてもお二人に協力していただきたいのです。理由は、解決がついた時に分かると思います。後藤捜査一課長、何卒、お願い致します。」
「分かりました。前回、佐々木が言ったように、この捜査では教授の助言等により前に進んできたことは間違いがありません。その教授のたっての希望です。多々良班、これから先は佐々木班に合流だ。返事は。」
はいと大きな声を出していたが、出しながらこっちを向いていた。すごい圧。
でも私には分かる。この二人は互いに認め合っている。ただ、進歩的な佐々木刑事と伝統を重んじる多々良刑事という、ちょっとだけ犯人へのアプローチが違うだけだ。
他に報告はあったが、気にかかるものはなかった。
水野係長の号令で解散となった。
多々良刑事と班のみなさんが私のところに来られた。みなさん名前と階級を話され、指示を仰がれた。
「今はまだ、特別な指示はございません。それよりもお聞きしたいことがあります。そこで最重要課題を共有して一緒に行動していただきます。」
みなさんキョトンとされていた。後ろにいた若林という若い刑事さんが、それであれば会議でお聞きになればよかったのではないですかと言った。
少し笑みを浮かべ、
「もっとざっくばらんにお聞きしたかったのです。係長にお願いし9階の少人数の会議室をお借りしております。そちらに移っていただけませんか。」と話した。