「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖 第六話
あまりにも遅いので伊藤さんが迎えに来た。
どうかなさったのですかと聞かれたので、鍵を閉めて食堂への行きがてらに先ほどの巡査の件を話した。
「出世欲全開の人ですね。」
「そのとおり。佐々木刑事とは全く違う種類の人だ。私はあまり好きじゃないタイプかな。それに、信用していいものかも分からないし、自分で本部にアピールしてほしいと思った。」
「警察組織をあまり知らない私でも、地理に詳しい程度で捜査に加えていただくのは無理があるとおもいます。何か深い関わりがあれば別でが。」
「確かに地理に詳しいだけでは。」
二人は、研究棟を出て、食堂のある中央棟に歩いていった。まだ、お昼の十二時前なので食堂は空いていた。
食堂に入ると、伊藤さんがあの場所が好きなのでと、テラスが見える大きなガラス張りの窓際のテーブルに案内され、手荷物を置いて二人は食券を買いに行った。
トレーを持って並びながら、
「あそこが伊藤さんの指定席。」
「はい、そうです。空いていればいつもあの席です。」
「夏場も。」
「はい。夏場はすごく暑いのですが、エアコンは効いています。それに夏っ
ていう季節が感じられますし、真夏の日差しが大好きなので。」
「女性は真夏の日光は嫌いなのかと思っていたけれど。」
「私は、昔からアウトドア派で、高校生まで陸上をやっていました。顔は、
一年中真っ黒でした。一応、毎朝ジョギングは欠かしませんし、日に当たっていると無我夢中で走っていた高校時代を思い出します。」
「そういえば、結衣さんの奈良の山では息切れ一つしていなかった。」
「はい。体力だけは自信がありますので。」
私はお蕎麦、彼女はお弁当なのでカフェオレだけを注文して、そのままトレーを持って席に戻ってきた。
「教授、ロダンになった件ですが、疑問が追加されたようですが。戻り次第ボードに記載しましょうか。」
「一連のものも含めてお願いします。それとお願いがあります。」
何でしょうかと聞かれたので、ホワイトボードは、毎回、奥の倉庫に鍵付きでしまっておいて下さいと話した。
「佐々木刑事が頻繁にきますし、教授の思惑と違う考えを持たれても困ります。」と言った。
そうなんだと言ったが、実際は先ほどの侵入者が気になったからではある。それを言うと気にするだろうと思ったので話さなかった。
「結衣さんの事件以来ですね。今回は初めから殺人事件なので身震いから始まります。」
「同感だ。それに私も犯罪者を捕まえる手助けはしたけれど、犯罪者から挑戦される側は初めてだから。」
食事を終えた二人は教授室に戻った。伊藤さんは中央棟の五階倉庫へ行ってホワイトボードを持ってきてくれた。そして早速記載してくれた。
さすが、伊藤さん。六番目までスラスラと書いた。
①何故、直ぐに見つかるような場所に遺体を置いたのか。そして早すぎる検視官。
②早乙女教授との関係性は。
③名刺の指紋が早乙女教授のみであったのは何故か。
④何故、ダムの防犯カメラのループ時間を12時間もの長い時間にしたのか。
⑤スタンガンのあとに注射針を刺し、血液を注入していたのはなぜか。
⑥早乙女教授を早く捜査に参加させたかったのか。
「ありがとう。それじゃ追加で、七番目に、
⑦殺害方法には意味があるのか
と、書いてください。」
「そうなんですか。」とびっくりしていた。
「まだ疑問のうちだけれど。歩いている人や、立っている人だと、道端で誘拐することになる。そんなとっさの時に、心臓目掛けて上手くスタンガンを当てられるとは思えない。」
「おっしゃる通りです。」
「それに、睡眠導入剤が検出されていると書かれてあったから、寝ている間にピンポイントでスタンガンを当てられたのではないかと思う。」
「そうすると、誘拐もしやすくなります。」
「今日の会議で報告があると思うけれど、被害者は一人で住んでいたのかも早く知りたい。」
「どうしてですか。」
「もしかすると、足跡を残すことを何とも思っていない犯人だから、何かミスをしているかもしれないから。」
午後四時
佐々木刑事と加藤刑事がやってきた。
「お迎えにあがりました、支度は宜しいでしょうか。」と言われたので、いつでも大丈夫ですとお答えし、四人で部屋を出た。
佐々木刑事が、車に行く間に、何か進展はありましたかと尋ねてきたので、進展はありませんが早くお聞きしたいことがあります。車の中でお聞きしたいのですが、と返答した。
その後、四人が車に乗り込み出発した。
「先程、お聞きになりたいとお話しされていた件はどのようなことでしょう。」
「今日は被害者の自宅に行かれました。」
「はい、行ってまいりました。」
「報告前に先にお聞きしても宜しいでしょうか。」
分かりましたと言い、佐々木刑事が話し出した。
「被害者の奥さんは八年前に他界され、現在は一人暮らしで、火木土とヘルパーさんが介護に来ておりました。
まだしっかり歩けますし、日常生活は自分でできたようです。家族は子供が四人いて男三人と末が娘です。みなさん東京都と神奈川県在住なので、日曜日は交代で訪問していたようです。
犯行当日は留守で鍵も掛かっていました。まだ、寝ているのかと思い、ヘルパーさんが携帯に掛けたそうですが出られなかったので、一番上のお兄さんに連絡を入れたそうです。その時は、ヘルパーさんの訪問日を間違えて外出してしまったと思いキャンセルしたそうです。
しかし、気になって何度も携帯に掛けたそうです。何回掛けても掛からないので、十一時頃に行ってみると、寝室の布団がめくれたままだったそうです。
日頃は几帳面で布団をはだけっぱなしにすることはないので、兄弟で相談し、昼頃、警察に連絡したそうです、その後、奥青梅ダムで発見された人と似ていたので、安置所のある監察医務院に来ていただき、確認していただいたところ、ちちおやであると。」
「教授、これで何か進展しますか。」
「お願いしていたことは、どうでしたか。」
「教授の言う通り布団に少し失禁されていました。」
「やはり、寝ている間にスタンガンを当てられて誘拐されたのでしょう。殺害時点はダムまで連れて行く車の中でしょう。」
「それは、報告しても宜しいでしょうか。」
「当然、報告して下さい。そして、問題は何時ごろに誘拐されたかです。」
「と言いますと。」
ロダンになった。
佐々木刑事は、理解したのか何も言わず黙っていた。あとで伊藤さんに聞いたが、車中の緊張感は半端じゃなかったようだ。多分私の頼んだことが当たっていたとみんなが思ったからだ。
ロダンが溶けると、失禁の件を報告したあとでいいので、私に話しをさせて下さいとお願いした。上席に了解を貰いますと言われた。
しばらくすると警視庁の駐車場の入り口に着いた。前回と同じようにして、十階の捜査本部に入った。