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Buddy is a living spirit(相棒は生き霊)第九章

注釈
 「 」かぎ括弧は会話
 ( )丸括弧は心の中の会話又は電話等
 [ ]角括弧は生き霊の会話

第九章 真実

 瑠璃は、山神の声が聞こえないふりをしている神山に、
「何を仰っておられるのですか。」

「私は霊媒師とかではありませんが、ここに山神さんがおられます。言い換えれば、私に憑依しておられます。」と言いながら右手で胸を撫でた。

「揶揄(からか)うのはおやめ下さい。子供ではありませんので。」と激しい口調で話した。

「確かに変に思われますよね。私もこんな経験は初めてなので。しかし本当なんです。こちらへ来て下さい。」

 そう言いながら椅子から立ち上がり洗面所に連れて行った。

「瑠璃さんには見えないかもしれませんが、今、鏡に山神さんが映っています。」

[瑠璃、少し痩せたな。]

「瑠璃、少し痩せたな、と話されています。」

「バカにしないで下さい。祖母が変な人と言っていた意味が分かりました。何を企んでおられるのですか。」

 瑠璃はそう言いながら泣き崩れた。優しく肩を抱き起こそうとしたが、左手で振り払われた。それを見ていた山神が、なんでも質問するようにと言った。

「何か質問をして欲しいと話しています。全て山神さんが知ることは答えるとのことです。」

 瑠璃は気を取り直して立ち上がり、鏡に向かって、誕生日から父方の祖父母や母方の祖父母の名前そして妻と結婚した経緯や瑠璃の成長の記憶などを聞いたが、当然全て答えた。

[神山、そんなことは調査すれば分かるから、私と瑠璃しか知らないことを質問しろと言え。]

「山神さんが、それは全て表の話なので、いくらでも調べられるから、山神さんと瑠璃さんしか知らないことを聞いて欲しいと話されています。」

「分かりました。父と私との秘密の約束があります。もしも本当に父がそこにいるのであれば教えて欲しいと言って下さい。」

「私から言わずとも、聞いておられますよ。」

[それは、瑠璃が小学校六年生の時に、家族でキャンプに行った時の話だ。妻はロッジで寝たが、私と瑠璃だけがテントの中で寝た時の秘密のことだと思う。それ以上は瑠璃のためにも死んでも口にできんと言ってくれ。]

「山神さんが、家族でキャンプに行った際、テントで寝た時に、何かあったんですよね。そのことを二人だけの秘密にしていると話されています。それ以上は瑠璃のために死んでも話せないとのことです。」

 すると瑠璃は、鏡に両手を添え「お父さん。」と泣いていた。

「信じていただいたようですね。」

 瑠璃は鏡を見ながら頷いていた。
 
[神山、戻るから瑠璃をテーブルに座らせてくれ。]

(分かりました。)と言うと瑠璃の肩を抱きながらテーブルに座らせた。

[ちょっと近すぎるぞ、神山。]

(腰が抜けているかもしれません。だから倒れたらどうするんですか。)

[ううん。]

 山神は瑠璃に直接話せないもどかしさと、急接近する二人になんとも言えないヤキモチを焼いていた。
 神山は瑠璃を座らせたあと、落ち着かせるために冷蔵庫の麦茶をマグカップで出した。

[普通、冷えた麦茶はガラスのコップだろうが。]

(ここにはありません。客が来ることがありませんので。)

[誰が来るか分からんのだから用意しとくもんだろ。だから独身男はダメなんだ。]

(みんな独身時代があったから結婚するんじゃないんですか。生まれつきの既婚者なんていませんよ。)

[うるさい。屁理屈ばっかだな。]

(山神さんに言われたくはないです。)

 少し落ち着いた瑠璃が、
「父は神山さんにどのようなことをお願いしているのですか。」

「ちょっと待って下さいね。聞いてみます。」

(どこまで話せばいいのですか。)

[全て話しても構わん。]

「それじゃ、瑠璃さんに危険が及ぶのでは。」

「私に危険が及ぶとはどういうことですか。」

「あぁっ。声が出てしまいました。山神さんは全て話すように言われています。何か方策があるとは思うので、全てお話いたします。」

 先にと言い、手鏡を二人の真ん中に置いて神山へ向くように開いた。すると山神が中に入った。
 まず、交通事故の事について、あれは仕組まれたものであることが濃厚であり、その原因は、山神が追う犯人からのメッセージであること。そして捜査関係者及びその家族が見張られていると言うことを話した。
 今は神山を捜査本部に送り込む方法として、神山が手柄を立てる計画を作り、それを実行したところであると続けた。
 だが、捜査の中心である南田副班長に怪しまれた為、その善後策を練っているところだとも話した。

 申し訳なさそうに瑠璃が、
「たぶん、私が南田さんにお電話したせいですね。」

「いえ違いますよ。私が逮捕劇の際、説明する中で前後が合わなかったせいです。瑠璃さんは悩まれる必要はありません。」

 分かりましたと言うとそれでは父はこれからどのように進めると言っておりますかと尋ねた。

「取り敢えず、二人は交際に発展している段階と言うふりをして欲しいとのことです。」

[ふりだけだからな。]

 鏡を閉めてポケットに入れた。

(これで邪魔者は消えた。よっしゃー。)

「南田副班長にはこう伝えて下さい。お墓の件は、神山がおばあちゃんから聞いていたと。おばあちゃんに、私から聞いたことは内緒にして欲しいと言われていたので、咄嗟に南田副班長の名前を出したそうですと話して下さい。そうすれば少しは疑いの目から逸れるとのことです。」

「分かりました。」

「これからなんですが、瑠璃さんに危険が及んではいけないので私がガードします。いわゆるボディーガードです。」

 喜ぶ顔を見せた瑠璃が、
「そうすると二人で、いえ、一魂と二人の探偵クラブの結成ですね。」

「瑠璃さんを守りながら山神さんの残した事件を私が解決します。」
 
 瑠璃は安心したように白い歯を見せ、笑いながら神山に全てを預けますと言い、頭を下げながら神山の右手を両手で握りしめた。神山も左手を添えたあと左手で右肩をしっかりと掴み瑠璃の身体を起こして頷いて見せた。
 神山は取り敢えずと言い、にこやかに表に出て家まで送ることにした。

 山神は神山のズボンのポケットの中で暴れていた。そろそろあけなければと思い、ポケットから出して手鏡の蓋を開けた。

[お前、分かってやったな。]

(何がですか。)

[瑠璃とどんな話をした。]

(瑠璃さんには南田副班長に勘違いと言ってもらうことにしました。そして危険が及ぶ可能性があるので、ボディーガードがわりに私が護衛しますと言いました。)

[バカやろう。それじゃ瑠璃ともども危険に飛び込むことになるだろう。]

(山神さんもそばで見守れるじゃないですか。それに聞いていたんじゃないんですか。何も言われなかったということは、OKということですよね。)

[ああ、聞いていた。しかし守るのが神山なんだぞ。お前は足が速いだけだから、心配でたまらん。]

(山神さん。そんな心配はいりませんよ。瑠璃さんと一緒に犯人と対峙することはないですから。)

[それだけは頼む。]

(大事な瑠璃さんに危険な目は合わせません。違いますか。)

[言い方がおかしいよな。大事なとはなんだ。] 

(大事でしょ。もう山神さんだけの問題ではないのですから。この船に同乗した以上、関わる人はみんな大事です。)

[ううん、分かった。]

 神山は、瑠璃を送ると言って一魂と二人で部屋を出た。


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