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自己紹介

はじめまして。
私は総合診療科・家庭医の医師として岐阜大学・総合診療科/関中央病院で活動をしています。
総合診療科は2018年に新設された専門領域なのですが、2024年現在、未だに医療者の間ですら、認知が進んでいない現状です。

そんな現状の中で、そんな現状だからこそ、私のミッションは、岐阜県の総合診療医の育成、総合診療の普及を通して県内の医療の形を変えていくことです。
総合診療は、少子高齢化の進む日本で必要とされ、現代の医療の質を向上できるものと信じています。また、総合診療が私達医師に、『医師としてのやりがい・アイデンティティ』をもたらし、医師人生を豊かでかけがえないものにしてくれるものと日々の診療を通して身にしみて感じています。

総合診療がどういったものなのかは別稿に譲るとして、ここでは私がなぜ総合診療科を志したかについて紹介したいと思います。

私が初期研修医(医学生が医師国家試験に合格し、医者の卵として研修をする期間、いろいろな科を研修する)として内科の研修をしていた時です。高齢男性の患者さんで、感染症により生死の境まで至るほど重症な状態でしたが、集中治療の結果なんとか一命をとりとめることができた方です。しかしながら、問題はその後でした。感染症の治療の場合には、感染症による衰弱から口から食事がとれなくなることがあり、この方も救命はできたものの食事を口からとることが困難となってしまいました。
こういった場合に、医療者は本人が意思表示できる場合は、本人と治療内容を相談、本人が意思表示できない場合には家族などの代理人と相談して今後の方針の相談を行います。この方は、独り身で、代理人となる親族としてこられたのは姪さんでした。
口から食事がとれなくなった場合には、鼻からのチューブの栄養や胃ろう栄養(お腹から胃に穴を作りそこから栄養投与をする方法)が、生命の維持には必要になります。それらの治療を希望されるかどうか、そういった話し合いがこの場合必要でした。
姪御さんはこの方について、「もとより破天荒な人。パチンコ、タバコ、ギャンブルなど好きにやってきた方。そういった(胃ろう栄養など)ことをうけることは本人にとっては惨めに感じると思います。」と述べられました。
当時の私としては、とても複雑な感情でした。これだけ頑張って治療して救えた命なのにと。栄養投与をしないことは、そう遠からず亡くなられることを意味します。
ただ、この姪御さんの思いや考えは、この患者さんを尊重してでたものなのは、そばで聞いていた自分には疑う余地のないものでした。

この経験で、私のなかでは「いったい医療とは何なのか?」という根源的な疑問が起こりました。その疑問を抱えたまま、医師としての生涯を送ることに、いくばくの心もとなさを感じるようになりました。
そこから少し時間がたち、初期研修医は研修を終えると、多くの場合専門研修(内科、外科、眼科、麻酔科などなど)を開始します。私としては、内科、救急科、耳鼻科(父が耳鼻科医のため)に進むことも考えていたのですが、ちょうどその年から総合診療科の専門研修が始まると知りました。

そこには、『疾患だけをみず、全人的にヒト、そして家族、地域を診る』科であると書かれていました。当時の私は正直ピンと来ず、実際にどういったことをするかは見えてきませんでした。ただ、私の感じた疑問の答えは、この科を研修することでわかるかもしれないと直感的に感じました。
疑問に答えがでないまま医師人生を終えるのだけは嫌だ。腹を括りました。もしこの総合診療科が思ったものと違えば、別の専門科の研修をまたはじめればよいと。

そこから総合診療の研修が始まりました。総合診療の研修では、内科、小児科、救急科などの科を研修する必要があります。これらの科は初期研修医にも研修しているため、多くの時間は初期研修医の延長のように感じていました。
その後に、医療資源の乏しい地域での診療所の研修や、訪問診療を学びました。
そこでは、自宅で自分らしく最期まで過ごされる方、末期がんと診断されて時間が限られる中で絶望に陥らず有意義に過ごされる方、たくさんの患者さんとの出会いがありました。
それらの経験を通して得たのは医師としての診療技術はもちろんですが、なにより、医師という職業関係なく、ヒトとして患者さんや家族と接し、心動かされる場面に多く触れ、人間としての成長の機会でした。

医師9年目(医者の世界ではまだまだひよっこ)になった今では「医療とは何か?」少し答えられるような気がしています。
そして総合診療の専門医となった自分は母校の岐阜大学で講義をする機会がありました。そこで、これらの自身の経験などを授業として話したのですが、医学生の中に「そういった医者になりたくて、医学部に入ったのです」と話してくれる学生もいました。
自分自身は今、総合診療医として働く中で、充実感・やりがいをもって過ごしています。仕事を通して得られる成長を日々感じています。
現在、医師の働き方改革として労働時間を削減する動きがでています。過剰な労働時間を減らすことはもちろん重要なのですが、それ以上に医師という仕事がやりがいのあるもの、医師人生を終えたときに満足できるものであることも同じくらい重要と考えています。

ここで、私のミッションに戻るのですが、
私のミッションは
・岐阜県の総合診療医の育成
・岐阜県における総合診療の普及
と上述いたしましたが、ここには条件があります。これらをノルマや課題としてこなしていくのではなく、幸福かつ健康に(well-being)これらを達成することが前提と考えています。私含め、後輩医師らも仕事を通して成長・やりがいを感じ、満足行く医師人生を歩めること、それが私の目標です。

現在、関中央病院で、私と同じく総合診療の研修医を迎え、ついに指導をしていく時期になりました。ここに書いたことが空約束とならないようにがんばります。

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