パン職人の修造64 江川と修造シリーズ Genius杉本 リングナンバー7
パン職人の修造 江川と修造シリーズ Genius杉本 リングナンバー7
東南駅の西に続く東南商店街の真ん中にあるパンロンドは火曜日が定休日だ。
杉本龍樹と森谷風花は東南公園のバラ園に来ていた。
色とりどりのバラが咲き乱れた綺麗な公園のバラのブリッジの下で写メを撮り、ベンチに座って良い雰囲気なのに風花は思い出した事があった。
「全くもうやんなっちゃう」
「なんで怒ってんの?」
「あのね、たまにあるんだけど、男のお客さんに愛想よくするじゃない?そしたら勘違いする人がいてね」
「なに!」
「それでね、何回か来てるとそのうちに奥さんとか彼女とか連れてきて、私にすまなさそうな顔するの!」
「ん?どう言うこと?」
「つまり〜君は僕の事好きだと思うけど僕には彼女がいるんだごめんね。って事よ!」
「勘違いしたんだね」
「すまなさそうにするって何よ!失礼な!何とも思ってないのにフラれた感じになってるじゃない!」
「あはは」
杉本はホッとして笑った。
男のお客さんの何人かは風花目当てなのを知ってるからだ。
実際風花は明るい笑顔で、入ってきたお客さんの心を和ませることがあって人気がある。
「心配だなあ」
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次の日
その事を杉本は藤岡に話した。
「風花は目が離せません」
「あのさ、それはね。あれじゃない?」藤岡は店にいる風花の手の方を指さした。
「指輪とか?」
「あ!本当だ!ナイスアイデアですね」
「これで勘違いもなくなるね」
「サイズはどうしたら良いですかね?」
「指輪のサイズ?一緒に見に行ったら?」
「行かないって言いますよ。貴金属に興味ないって言ってますし」
「じゃあ奥さんに聞いて貰ったら?」
えっ?奥さんに?
それは、、
「あ、あの〜奥さん」
杉本は、パンロンドの売れ筋商品山の輝きという山食を大量に切っている柚木店主(親方)の奥さんの所に行って話しかけた。
「何?杉本君」
「いえ、今日忙しいですね」
と言って引き返してきた。
「頼んできたの?」
「いえ、恥ずかしくて」
「まあ、分からんでもないね」
そう言って、藤岡と杉本は二人でとろとろクリームパンの成形を始めた。
藤岡の伸ばした生地に杉本がクリームを包んでいく。
ふと見ると杉本の両方の手の甲にペンで色々書いてある。
「杉本っていつも手の甲にメモしてるよね」
「親方に言われた配合とか、注文の数とか、俺ここにメモると覚えてられるんですよ」
「確かに杉本ってなんでも忘れるからな、こうして書いておかないとな」
「いつも見てるドラマの主人公の名前とかもここに書いてるんですよ。一回書いたら忘れない」
「へぇ、じゃあ手の甲に今から俺が言うのを書いてよ。覚えてられるかも知れないじゃん」」
「え?何書けばいいんすか?」
杉本は藤岡の言う長い不思議な言葉を書いた。
そして次の日、藤岡が杉本に「なあ、昨日の覚えてる?」
「昨日の?なんのことですかあ?」
「全体的に忘れてるじゃん。ほら、手の甲に書いただろ?」
「あ!※スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス!」
「おっ!そう!それ!メリーポピンズに出てくる言葉だよ!」
藤岡は驚いて杉本に指をビシッと当てた。
「杉本凄いじゃん!じゃあ今日は違うやつ」
と言って今度はパン関連の長い言葉を書かせたがさっきのより短い。
次の日
藤岡はまた杉本に聞いた。
「なあ、昨日の覚えてる?」
「ああ、※サッカロマイセスセレビシエってヤツですね?」
「おっ!覚えてるじゅないか!それってパン酵母の事なんだよじゃあこれは?」
藤岡はまた他の、長い言葉を書かせた。
そして次の日「なあ、あの呪文の様な言葉覚えてる?」と聞いた。
「あ、※カザフスタニア–エグジグアですか?」
「こりゃ本物かもしれないなあ」藤岡は小声で呟いた。
江川が興味深げに尋ねてきた「ねえ、、なあに?それ、カザフホニャララ?」
「パネトーネ種の酵母の一種ですよ」
「へぇ難しそう!」
「杉本はどうやら手の甲に書いた事は覚えられる様ですよ」
「えっ本当?もっとやってみようよ」
「江川さん俺で遊んでますよね?」
「せっかくやるんだから身になるものをやろう」
「パンの用語でもっと難しいやつ?」
そこに修造も口を挟んできた「手の甲も良いけどノートに書くのはどうなの」
「俺今までノートに何か書いた事ありません」
と言うか文字なんて自分の名前と住所ぐらいかなあ。ここに来るまではいかに勉強しないかとか学校サボる事に心血を注いできたからな。
「ねぇ杉本君、もっと難しいの書こうよ」
はしゃぐ江川の横で修造が「じゃあパネトーネ種の乳酸菌のラクトパチルス–サンフランシセンシス等!」
「ラクト?」杉本は修造の言う通り書いた。
つづく
※スーパーカリフラジリステイックスエクスピアリドーシャス
映画メアリーポピンズの長い合言葉 ➀ Super (超越した)② Cali (美しい)③ Fragilistic (繊細な)④ Expiali (償う)⑤ Docious (洗練された)5つの単語が組み合わさって出来ているのですが、「素晴らしい、素敵な」の意味で使用されます。(元CAが教える~思わず使いたくなるワンフレーズ英会話レッスン~より引用)https://makupo.chiba.jp/article/article-4350-2/
※サッカロマイセスセレビシエ Saccharomyces cerevisiae
パン酵母の事 糖を代謝して美味しい香りのアルコール発酵を行う。
※カザフスタニアーエグジグアとラクトバチルスーサンフランシセンシス等
パネトーネ種は酵母(Kazachstania exigua カザフスタニアーエグジグア)と、数種の乳酸菌(Lactobacillus sanfranciscensis ラクトバチルスーサンフランシセンシス等)が仲良く共存し、それぞれの持つ特徴を、発酵熟成から焼成中に発揮し、パンなどの改良を行う世界的に珍しい酵母と乳酸菌類です。(株式会社パネックスより引用)http://www.panex.co.jp/panettone
会社によって扱う酵母の種類は違います。特許第4134284号、特許微生物受託番号FERM P-16896)などの特許がそれぞれあります。
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