パン職人の修造19 江川と修造シリーズ 催事だよ!全員集合! 江川Small progress
「藤岡恭介(ふじおかきょうすけ)です。よろしくお願いします。僕レストランで働いていました」
藤岡はシュッとしたイケメンで、手先が器用ですぐに仕込みの手順を覚えた。なんならもう杉本より早い。
親方はうちには個性的な面々が多いが藤岡って色々とスマートな奴だな〜と思っていた。
修造は藤岡に色々教えながら
「藤岡君って仕事覚えるの早いよね」と言った。
「ありがとうございます」藤岡はキリッとした表情で答えた。
「そろそろ慣れて来たので明日は一人で朝の早番をお願いします。こないだ教えた手順でやったら良いからね。わからなければここに書いてあるから」と修造はメモを指さして言った。
「はい、了解です」藤岡は爽やかに答えたが、密かに顔が引きつっていた。「一人で、、、」
次の朝4時、早番の藤岡から修造に電話がかかって来た。
「はい、もしもし?藤岡君どうしたの?え?怖い?何が?」
修造には何の事かわからなかったがとりあえずパンロンドに急いで行った。
「修造さ〜ん!」と言って藤岡が腕に抱きついてきた。
「なんだよ?」「怖かったんですよ〜!僕が一人で作業してたらそこのタッパがガラガラって崩れたんです!誰もいないのに!僕一人で作業なんて嫌です!」
なんなら半泣きの藤岡はビビりきって修造から離れない。修造はそのタッパが崩れたところに見に行って「きっと積み方が悪かったんだね」と明るそうに言った。困ったなあ。確かに一人で作業してる時に物音がすると驚くけどここまでかなあ。怖がるから藤岡君だけ早番は無しでなんてみんなに言いにくいし。。
藤岡は次の朝のローテーションの日が迫って来たら段々表情が暗くなってきた。
杉本が積んでた計量用の缶に当たって崩してしまった。ガラガラガラカンカン、、と音がした。「キャア〜!」藤岡が怖がって叫んだ。
「藤岡大丈夫だって!今のはただ缶が崩れただけだから」となだめたものの、仕事のことならアドバイスできるが怖がりってどうしたらいいんだろう?
その日
修造は親方にそっと事情を話して「とりあえず明日の朝は俺が出ますから」と言った。
「そうなの?ごめんね修造」
「大丈夫です」
さて
杉本は江川に偉そうに言った手前、本当に練習して催事までにそこそこ上手くカレーパンを包んだり揚げたりが出来る様になってきた。
そしてとうとう催事当日。
パンロンドの奥さんは張り切ってカレーパンののぼりを作っていた。
「これ持って行ってね!いってらっしゃい〜!催事がんばってね〜」
「パン王座決定戦で優勝!カレーパンロンドだって、奥さん商魂たくましいな~」江川は修造がいない催事が不安だったが杉本が張り切ってるのでちょっとだけ安心した。
「じゃあ行って来まーす」
車に催事に必要なものを詰め込んで江川と杉本は出かけた。
工場では朝から催事の準備をしていたので、今度は店の分のパンを急いで準備しないといけない。
修造は藤岡と組んで仕事をしていった。
江川はまだ免許を取った所で初心者マークを車に貼り、慎重に運転していたが、カーナビの「もうすぐ左です」と言うのを一筋間違えて民家と民家の間の細い道に曲がってしまった。
「江川さん!今通り過ぎた道を曲がるんでしたね」
「え!どうしょう!戻らなきゃ!」江川はパニクってどこかで方向転換して元の道に戻ることにしたが、慌てて右手の民家の柵にぶつかりそうになり、反対に行き過ぎて路肩の溝に左の前輪を突っ込んでしまった。
ガクン!
「うわー!どうしよう!修造さーん!」江川はそこにいない修造の名前を叫んだ。
外に出て2人で動かそうとしたが荷物を沢山積んだ配達用のバンは重くなかなか手強い「江川さん、俺が催事場に遅れるって連絡の電話するんで江川さんは店に電話して貰えますか?」
杉本が冷静で良かったと思いながら震える手で修造に電話した。
「もう着いたのか?準備できた?」
「それが僕、溝に車を突っ込んじゃって動かないんです。どうしましょう修造さん!」
「え!まだ着いてないのか?冷やしてある生地がじわじわ発酵してくるだろう?早く行かなくちゃ!」
「助けて下さい!すぐ来て下さいよう」
修造は電話を切って親方に説明した「あいつまだ免許取り立てなのに一緒に行かなかった俺にも責任があります。今からもう一台の車で現場に行って荷物を催事場に運びます。もう始まってしまうので」
「わかったよ。ここは任せて気をつけて行っておいで。藤岡君も一緒に行ってきて」
「わかりました。」
2人は教えられた現場に到着した。江川と杉本は並んで修造を待っている所だった。
「2人とも怪我はないか?」
「はい。でも催事に間に合いません」
「杉本、牽引ロープを持ってきたから、こっちの車で引っ張るんで江川と3人で溝から車を浮かせてくれよ」
「はい」杉本は車にロープを縛り合図した。
修造はバックして前の車をゆっくりと引いていった。3人がかりで車を傷つけないように何度か動かして溝から浮かせた。
「やったー!」
「車は?」
「大丈夫そうです!」
「よし!急いで全員で行って準備するぞ!」
「はい!」
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?