パン職人の修造140 江川と修造シリーズ prevent a crisis 杉本
次の朝
藤丸パン横浜工場の朝は早い。
もうとっくに皆働いているが杉本は6時出社と言われていた。
丁度昨日の4人が裏庭で屯している。
植え込みの影に隠れてちょっと話を聞いてみる。
「昨日パスワードを書き換え済みだ」足打が言うと
「その後で機械を操作してあれをばら撒くぞ」最上も残りの2人に言った。
「はい」
パスワード?ばら撒くの?何をばら撒くの?
4人が歩き出したのでとりあえずつけて行く事にする。
工場の中に入り、歳上の2人と若者2人は別れて歩き出したので歳上の方について行く。
足打の持っていたファイルからメモらしきものが落ちた。
「おっ」
それをすかさず拾う。
大文字小文字と数字がいっぱい書いてあるのでまたそこにあったホワイトボードに書き写した。
「おい!何やってる!」
「あ、探しに戻って来た」
「こいつ昨日の」
「やっぱり怪しい奴だったんだ!メモを返せ!」と言ってメモを取り上げてホワイトボードの文字を慌てて消した。
「あんた達の方が怪しいでしょーよ」
「うるさい!来い!」
「そうは行くか!」
杉本は足打の手を振り払い拳を握って2人にファイテイングポーズを取った途端後ろにいた男に棒の様な物で頭を殴られた。
「イタタタ」
足打達は倉庫の隅の扉付きの収納部屋に杉本を連れてきて口をガムテープで塞ぎ、両手を後ろで縛って閉じ込めた。
「時間までここで大人しくしてろ」
ーーーー
藤丸パン横浜工場の表玄関では大和田工場長と木山課長が並んで立っていた。
「もうそろそろ来られるな」
「後何年かしたら次期社長になるんですかね」
「そうなると社長もお喜びになるんだが、今の所そんな気はなくて困っていらっしゃる」
「ふーん、あ、あれ!来ましたよ」
スーツが決まっている次期社長が早足で歩いてきた。
「ようこそお越し下さいました」
「大和田さんご無沙汰しています。昨日メールありがとう。早速行きましょう」
そういうと工場に入って行った。工場の裏側は昨日杉本が入って行った通りだが、表から入ると事務室や応接室があり、その横は配送の為の広い施設がある。その場所から関東一円にトラックでパンが運ばれていく。
「足打達4人を呼んで下さい」
「はい」木山課長が4人を呼びに行った。
ところが
待てど暮らせど木山が戻ってこないし4人も来ない。
「遅いな」
「どうなってるんでしょうね」
「探しに行こう、案内して貰えますか」
「あっちです」
館内にある工場の横道から作業中の従業員を見ながら探したが「いないですね」とうとう裏の扉までたどり着く。
「外に出てしまいました」
「何処に行ったんだ」
「ここだよ若様」
「お前が足打?」
ーーーー
話は少しだけ遡るが
藤丸パン横浜工場の裏口付近にあまりにも杉本を心配し過ぎている風花とそれに着いて来てと頼まれた由梨の姿があった。
「ここのはずなんだけどいるかな龍樹」裏口付近の鉄柵から顔を突っ込んで覗く。
「中で働いてるんじゃないですか?」
「スパイなんて大丈夫なのかな?」
そう言われると心配だ、しばらくの間2人はじっと建物を見ていた。
するとここの従業員らしい4人が出てきた。
「ねえ、あれって龍樹の言ってた4人組かな?」
「どうなんでしょう、何を話してるんでしょうか?」
由梨が聞き耳を立ててると風花が「ねえ、あれ見て?あの陰から見てる2人」
「あっ」由梨が驚いたのも無理はない「鴨似田夫人のお付きの2人だわ」
その2人とは鴨似田フーズの従業員歩田と兵山だ。何故か木の陰から4人の様子を窺っている。
「何してるのでしょう」
風花は2人に近づいて小声で「ちょっと」と合図してみた。
歩田が気がつき由梨に頭を下げた「何してるの」
「奥様に言われてあの人達を見張ってる所です」兵山も顔を近づけて来て小声で言った。
「何で」
「それは」と言いかけた時、1人の作業員が出てきて4人に声をかけた「次期社長がお前達を呼んでこいとさ」
「あの新人の杉本って言うのからやっぱり情報が伝わったんだ」
「そいつは?」
「倉庫に閉じ込めてます」
「そうか」
それを聞いて風花は死ぬほどびっくりして心臓がバクバク言い出した。
「龍樹が」足が震えて止まらない。それを見た由梨が、騒いで捕まるより4人の後をつけようと思ったその時、大和田達が裏口から出て来た。
「あっ」それを見て由梨も心底驚く。
そしてさっきの会話に続く。
「ここだよ若様」
「お前が足打?」
「あっ!木田!何やってる。お前はなんでそっちにいるんだ」
「工場長、あんた何も知らなかっただけなんだよ、計画はずっと前から始まっていたんだ」
「馬鹿野郎!何をする気だ」大和田は木田に掴みかかったが逆に足を引っ掛けられて押さえつけられる。
「やめろ木田!」
「若様なんて言われてるのも今のうちだよ。お前の父親には悪いがこれから藤丸パンは終わりを迎える。大量に細かい針先の入ったパンを販売して失脚して貰う」足打が上擦った声を出した。
「針先?そうはいくものか!AIセンサーがついてるんだ、金属片などの異物が入った物は跳ねられる」
「反応しない様にすればいいだけの話だからな」
「パスワードが無ければ変更できないんだから無理だろう」大和田も言った。
「大和田さん、あんた油断して俺と一緒の時にもパスワード打ってただろう」
「うっ」
「もうすでにパスワードを長いのに変更してある」
大和田は押さえつけている木田を跳ね除け制御室に走って行こうとしたが京田達に取り押さえられ、刃渡り10センチのナイフを首に当てられる「ううう」
「おっと、もう13時を過ぎている、14時からはいよいよ藤丸パンで1番売れているバターシュガースコッチブレッドの※本捏の時間だ、俺たち準備があるからそれまで大人しくしてて貰おうか。おい!お前も来い、大和田が怪我しても良いのか」なんと2人は連れて行かれた。
風花と由梨は慌てふためいて歩田に裏門の鍵を開けて貰い急いで裏口から入った。
「どこの倉庫?」
つづく
※食パン屋さんなどの大量仕込みの場合、捏ねられた生地は中種発酵と言って生地を2度に分けて仕込んだりする。初めに生地の50%以上と材料の一部(水や塩など)を捏ねてから3〜4時間(8時間のものもある)その後本捏と言って残りの材料を加えて捏ねる。
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