パン職人の修造17 江川と修造シリーズ 進め!パン王座決定戦!
江川は機械がなくなった責任を感じてスタジオ前の長い廊下で膝をがっくりついていた。
「僕がもっとちゃんと見ていればこんなことにならなかったのに。修造さんごめんなさい」また半泣きになっていると田中が走ってきた。
「江川く~ん!これじゃない?」
「あ!それです!」箱の中身を見た!
佐久間シェフは冷や汗を拭きつつデザートの説明をしていた。「オレンジを使ったパネトーネにシナモンたっぷりのりんごとアイスを添えました。」.残念だがアイスと言うよりは冷たいバニラソースになったがそれはそれで美味しい。
文化人枠の有田川ジョージが「オレンジの爽やかな生地とりんごのスパイスの味がソースに染みて美味しいですね。」と感想を述べた。
修造の番が来た。「江川どうなったかな。もし帰って来なければこのまま出すしかないか。」水色のふちの可愛い皿にパンを並べ始めた。
「修造さん!」
「おっ江川!間に合ったな!」修造は箱の中身を出してすぐにコンセントに刺した。起動して暖めるまでに3分かかる。
「わたあめメーカーだったのか。。」江川を追いかけてきた四角と田中は呟いた。
修造のデザートは、ブリオッシュにサクランボのリキュール『キルシュヴァッサー』を染み込ませたサヴァランで、その上に生クリームを加えたカスタードを絞り、表面をバーナーで焼いてアイシングクッキーで作った王冠を添えた。
あとはあれを乗せるだけだ。
「もう少し待って下さいね」
と、その間にわたあめメーカーが温まり、修造は真ん中の窪みに赤い飴を入れた。
「江川、のせたらすぐにお出しして」
「はい」
そのうちに赤い色の甘いわたがフワフワと出てきてそれを箸で巻いて小さなわたあめをつくり皿に乗せ、その上にラスベリーを砕いたものを少し振りかけた。
江川は全員に順にお皿を配り「お早目にお召し上がり下さい。」と言った。
バーナーで温めたカスタードの上でじわっとわたあめが溶けていく。計算通りになって修造は悦にいった。
「さあ!それではこれが最後になります。パンロンド、田所チームのデザートを召し上がって頂きましょう!」
食べながらアイドルの羽山裕香が「うわ〜っ赤いワタアメが可愛くって美味しいですぅ〜」と言ったので被せて桐田が感想を述べた。
「しっとりしたパンとわたあめの甘酸っぱさとそれをマイルドにするカスタードの味が一体化してとてもバランスがいいと思います」
「ありがとうございます。ラズベリーでキャンデイーを作り、それをわたあめにしました」修造は頭を下げた。
桐田美月は王冠の小さなクッキーを食べながら「これで王座は決まりね」と呟いた。
江川はほっとして、後ろで見ている田中にグッとこぶしを握って見せたので、田中も小さくガッツポーズをした。「江川君かわいい〜」
さっき箱を探していた時、江川が下ばかり探したので、背が高い上にハイヒールの田中は上を探していた。
台車に道具を沢山積んで運ぶ時に、1番上に乗せていた箱の上の隙間に廊下の木の枝が刺さりそのまそのまま引っかかっていたのだ。
審査員達は、4品の試食を終えあとは点数発表だけになった。
司会の安藤が真ん中に出てきて特別声を張って言った。「さあそれでは最後の審査と参りましょう!皆さんどちらが美味しかったでしょうか?ボタンを押して下さい」
「桐田さん、いかがでしたか?」
「はい、悩みましたがどれも美味しかったのでその分も含め付けさせて貰いました」
急にスタジオが暗くなり安藤と2チームにだけライトが照らされた。
「さあ!わたくしの元に審査結果の書かれた紙が届きました。5人の審査はどうだったのでしょうか。パン王座に輝くのはどちらのチームでしょう!!?」
デレレレレレ、、、と小さくドラムロールが鳴りだした。
江川は心臓がドキドキした。額から汗が垂れる。
「1品目パンロンド2点!ブーランジェリーサクマ3点!」
大画面に2と3が大きく出た。「サクマさんがまず1品目をゲットしました。さあ!次は?」
「2品目パンロンド2点!ブーランジェリーサクマ3点!」
ジャーン!と音が鳴り画面に4と6が映し出された。
江川は修造を見て背中に冷や汗が垂れた。
「うわ!ちょっとワナワナしてめっちゃ悔しそうなのに顔に出してない。こわ〜!」
修造は反省と悔しさで血圧が上がってぶっ倒れそうだったがグッと耐えた。
「さあ、まだまだ分かりません!さて次は?」
「3品目パンロンド3点!ブーランジェリーサクマ2点!」
画面には7と8が出た!
「次でとっちかが優勝か引き分けだ!どうなるぅ〜?!」
さあ!4品目は!?
デレレレレレレ!!ドン!
「パンロンド!4点!優勝は田所チームです!11対9点でパン王座決定戦はパンロンドの勝ち〜!佐久間シェフもありがとうございました~!」
バーンと音楽が鳴って金色の紙が降りライトが当たった。
安藤が「おめでとうございます〜」と言って修造にトロフィーと賞金を渡した。
「やったー!やりましたよ修造さん!」
「うん、ありがとうな、江川」
修造は泣いてる江川にトロフイーを持たせて、手持無沙汰になったので仕方なくどこかしらを向いていた。
2人が大写しになったままテレビはカットになった。
優勝して喜ぶところだが、修造の頭の中はさっき作ったパンの成功と失敗を反芻していた。「前菜とカイザーのどこがいけなかったんだ、、」
そこへ桐田が挨拶に来た。「修造シェフ、とっても素晴らしかったわ。またお会いしましょうね。」
「あ、はいどうも」考え事中に話しかけてきた桐田に修造は生返事をした。
控室に戻ると佐久間シェフがいた。「田所シェフ、優勝おめでとう、よく勉強してるね。こちらも色々学ばせて貰ったよ」
「佐久間シェフ、俺たち似たもの同士なんですかね?カレーパンと前菜は驚きました。それとフルコースの流れも一緒でしたね」
佐久間シェフも同じ事を考えてたらしくうなずいて微笑んでいた。
世話になった人達にお礼を言って、帰り道の車の中で「修造さん、桐田さんって綺麗でしたね〜。僕あんな近くで芸能人見たの初めてです」
「きりたって誰だ?」
「えー、、信じられない。あんな美人を。。修造さんって頭の中パンでできてるんじゃないんですか?」
「だとしたら美味いな!絶対!」修造はフンと笑って言った。
だがふっと表情が変わり「江川、、俺はドイツに行く時律子から条件を出されたんだ。絶対女の人と目を合わさなきゃ行ってもいいってな。」
「ええ~!?」
「俺が眼で女の人を落とすって思ってるのかもしれないがそんな事あるわけないんだよ」
江川は律子の厳しい言いつけに背筋がぞっとしながら「そんな事できるんですかぁ?ていうかやったんですか?」と聞いた。
「そうだよ。律子と緑のところに帰るのが大前提だから、もし俺が裏切ったら律子の鋭い勘で一発で見抜かれる。そしたら俺は帰る所がなかった」
「ひえ〜厳しい!」
「俺にとっては女性は律子しか考えられない。と同時にパンの修行に行きたいって気持ちも通してしまったんだ。律子との約束を守るのが自分の見せられる最大の誠意だった。だから自信を持って律子のところに現れる事ができたんだ。今もそれは変わらない。江川。俺は律子とは本当に相性が良いんだ。律子以外は考えられないんだ。」
急にのろけだした!「はあ。。」
「今日は早く帰ろう」
「はあ?」
「一回だけちゃんと目を見て話をした事があったな。告られた事があって、流石に目を逸らしたままじゃいけないからと思ってね。そしたらえげつない美人だったよ。でももうどんな人だったか忘れたな〜」
「概ね約束を守ったって事ですね。僕が表彰してあげますよ。約束を守ったで賞!」
「嬉しいね」
2人は疲れていたが爽快な気分でふふふっと笑った。
「さあ、もうすぐパンロンドだ。放送が終わったら忙しいぞ!」
「はい!」
つづく
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