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パン職人の修造29 江川と修造シリーズ フォーチュンクッキーラブ 杉本Heart thief


秋浴衣に着替えた風花

友達と神社の前で待ち合わせて四人で歩き、色々な屋台を見てお祭りを楽しんでいるうちにふと子供の頃の心に帰り少し楽しい。

お祭りの屋台の黄色い灯りが揺れている横をみんなで歩き、ヨーヨー釣りをした。

みんなでユラユラポンポンとヨーヨーを持ち歩いている時、仕事帰りに自転車を押してお祭りを見始めた杉本と藤岡に会う。

「あ!風花!」

いつもの自分に向けられる厳しい表情と違い、ゆったりとした笑顔で浴衣姿の風花を見て杉本はキュンとした。

杉本達は人混みの中押していた自転車を道の端に停めた。

が、風花は杉本を無視して「藤岡さんお疲れ様です」と挨拶した。

風花の友達も藤岡を取り囲んで「同じ職場なんですか?」とか「こんなイケメンのパン職人っているのね!」とか藤岡を質問攻めに合わせた。

何を聞かれても爽やかにしか答えない藤岡のソツのない言い方がちょっと羨ましい。

あーあ、、同じ人間なのになんでこうも違うんだ。

俺もなかなかのイケメンなのに。

そう思っていると「はい、これあげるわよ」と言って風花がヨーヨーを渡してきた」


「ヨーヨー、、久しぶりに見たな。大人になるとお祭りも中々来ないなあ」

「大人って誰の事よ」

「え?俺ですよ俺!」

その時辺りから屋台の焼き鳥の香ばしくて良い香りがしてきた。

「腹減ったな〜、焼き鳥食べようよ」

「良いわよ」

「藤岡さん、俺達あっちに行ってますね」

「うん」

と言いながら藤岡は風花の友達三人と反対側に歩き出した。

どうやら何かを見に行った様だ。

杉本はいい匂いのする焼き鳥を四本買った。

「ほらこれ」

「ありがとう」

二人は屋台と屋台の間の二メートルぐらいの隙間に立ち、祭りで行き交う人達を見ながら食べていた。

風花は着物を汚さない様にしながら片方の耳に髪の毛をかけて少し前のめりに焼き鳥を口に運んだ、その様子に少し見とれていたら

「ちょっと口が開きっぱなしよ!」と叱られた。

「え!」

「もう、だらしないわねぇ!口元をキュッと結んで!」

「えへへ」と誤魔化しながら話を変えた。

「風花はなんでパンロンドに入ったの?」

「パンロンドって私が中学ぐらいの時にできて、それからは毎日パンロンドのパンを食べていたの」

「パンロンドって確か出来て十年目ぐらいだもんね」

「毎日沢山の人が店に来て、その人達はみんなパンロンドのパンを食べながら家族で話をしたり、急いで食べて仕事に行ったり、帰ってきて晩御飯の後でちょっと食べたりして、生活に溶け込んでる。」

「うん」

「そういう存在ってとても大切なんだわと思って」

「それで入ったの?」

「そう、自分もそれを提供する側に立ちたかったの」

「しっかりしてるなあ、俺なんかパンロンドに連れて来られたんだ。だから全然やる気なかったけど、修造さんに鍛えられてちょっとだけわかってきたかな〜」

「修造さんって怖くない?目つきが鋭いわ」

「始めはめっちゃ怖かったけど、あの人はパンに対して真剣なだけなんだよ。言ってる事当たってるし」

「江川さんと修造さんって世界大会に出るんでしょう?」

「なんか飛び抜け過ぎてて俺はついていけないなあ」

「そんな事言ってないで!明日も頑張るのよ!あんたがあの二人の穴埋めをしなきゃ」

「無理だろそれ」

杉本が笑って誤魔化していると藤岡達が楽しそうに戻ってきた。

「風花見てこれ、藤岡さんが全部とったのよ!凄ーい!」見ると袋にパンパンのスーパーボールが入っていた。

「凄い」

藤岡は「ほら、これあげるよ」と言って杉本に持たせた。

帰り際、ヨーヨーと袋いっぱいのスーパーボールを持ち自転車の前カゴに入れながら「俺が満喫したみたいだな」と呟いた。

—-

次の日

杉本は親方にバゲットのカットを習っていた。

カミソリ刃ホルダーの先に両刃のカミソリをつけて、よく切れる刃先でフランスパンをカットする。それを窯に入れて蓋を閉め、スチームのボタンを押すと、ブシューっと音を立てて蒸気が出て、生地全体が蒸気に包まれる。パン生地はカットしたところから上に横に広がり膨らんでやがて色づいていく。

窯から焼けたバゲットを取り出すとき外の空気が触れた外皮が縮んで割れてパリパリと音がする。

「この工程楽しいですね」

「このパリパリいう音は天使の拍手とか言うんだよ」

「へぇ〜」

「はい、バゲットあがりましたよ」

風花に叱られないうちに縦長のカゴにバゲットを入れて持っていった。

「はい、風花ちゃん」

一瞬目があったが、風花は黙って受け取り店の真ん中のテーブルに置いた。杉本はその背中を少し見つめてまた戻ってきた。

それを見ていた親方が思い出話を始めた。

「修造はね、今は奥さんの律子さんがパンロンドに入ってきた瞬間から夢中になっちゃってね。それを俺にバレてないと思ってたみたいだけどあいつずっと店の方見てんだよ。」

「ハハ、バレバレですね」

「付き合い出した頃なんて、修造が律子さんにベタベタで仕事が手につかなくてね、律子さんがとうとう仕事変わった程だったんだ」

「信じられない!あの修造さんが、、」

「あいつ俺が律子ちゃんって呼んだら本気で腹立ててたから律子さんって呼んだりしてたな」

「親方にヤキモチを?」

「ドイツに行ってる間律子を頼みますって頭下げられて、これでもし何かあったら俺は殺されると思ったね」

「無事でよかったですね!」

暴れる修造を想像するとゾッとする。

「ま、全ては出会い、出会いはチャンスって事だよ、な!」親方が出会い系アプリのキャッチコピーみたいな事を言った。


一方その頃

店の外から様子を伺ってる男がいた。

その男は30代前半ぐらいで黒いスニーカー、青いジーンズ、白いTシャツに黒いブルゾン、紺色のキャップを真深に被っていた。

その男は目立たない様にパンロンドに入って来た。



つづく

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