パン職人の修造18 江川と修造シリーズ催事だよ!全員集合!江川Small progress
NNテレビのパン王座決定戦で優勝したパンロンドは新商品の牛すじカレーパン「カレーパンロンド」が爆売れして連日大忙しの日々を送っていた。
店の奥の工場では田所修造がカレーをどんどん仕込み続けていた。
「杉本、玉ねぎ追加ね」
「はい」
杉本龍樹(たつき)は慣れない手つきで玉ねぎをカットしてフードプロセッサーに入れ続けていた。涙が滲み出る。
玉ねぎの後は分割丸め、その後はカレーを包む。
液を絡めてパン粉をつけてホイロヘ。
「これっていつまで続くんですかね〜」
「弱音吐くなよ」
「修造さん辛くないですか?俺は疲れてきました」
経験の浅い杉本は段々仕事が身について来ていたが、まだ辛い時がある様だ。
「俺、修造さんについて行こうって決めてますけど、パン屋って大変で全然仕事が楽しくないです」
修造はカレーを包みながら言った。「言われるがままにやってるとつまらないものだよ。お前はまだ仕事を自分のものにしてないんだろう。今はまだ出来ないことが多くて、できない事をさせられてると錯覚してるだけだよ」
「はい、させられてるって感じです。ここの先輩達とは違うんです」
「先輩ができてる事をできないのは経験が足りないからってだけで、マックスの自分を知ればそれがそんなに大変じゃないってわかるんだよ。
ずっとマックスでいろって話じゃないんだ。一度自分の限界に挑戦してみたら、今やってる事がそれに比べてどのぐらいだってわかるだろ?
まだまだ頑張れるのか、もう限界ギリギリなのか。それを知る為にもう少し頑張ってみたらどうだ」
修造は「無口な修造」と小さい頃から言われていて、普段あまり話さないが、こんな時は長い話をしたりする。
「生地の面倒をいい感じに見てやって、最高の状態の時に焼く、それが俺たちの仕事なんだ」
修造はカレーパンの生地をポンポンと手のひらで弾ませて言った。
「でも〜」
「お前は今まで何かの限界に挑戦したことがあるか?」
「う〜ん」
修造の問いかけには答えられなかった。
限界なんて言葉なかなか自分の生活の中になかったし。そんな一生懸命熱く生きるなんてカッコ悪いと思ってたし〜
俺、初めはパン屋で働くなんて簡単だと思ってて、漫画に出てくるパン屋さんみたいに手を動かしてたら生地が勝手にできると勘違いしてたもんな、と杉本は思った。
江川さんなんて修造さんに食らい付いて行ってるって感じだな。修造さんの成形の速さに追いつこうとしてるもん。
とそこへ丸太イベント会社の食品催事部門の蒲浦(かばうら)がやって来た。蒲浦は地味な紺色のスーツを着た、抜け目なさそうな目つきの男だ。親方にすり寄って来た。
「柚木社長!お久しぶりです。いや〜テレビ拝見しましたよ!美味しそうなパンで優勝してらっしゃいましたね」
親方の柚木は成形の手を休めずに答えた。「どうも〜蒲浦さん。優勝したのは俺じゃなくて修造だよ。今日はどうしたの?」
「はい、実は今度うち企画の催事でパンフェスティバルを開催するんですが、ぜひパンロンドさんにも出店して頂きたいと思いまして」
「うち今忙しいからね〜そんな余裕あるかなあ」と言って他のメンバーを見た。
「うーん、もう少し従業員増やすか、仕込みのパートさんを探さないとちょっと大変そうかなぁ〜」
「1ヶ月後港の近くの公園で催事があるんですが。現場でカレーパンを揚げて販売して頂きたいんですが」蒲浦は畳み掛けて来た。
「ちょっと製造と相談してみますね」
「はい、是非お願いします!引き受けてくれないと僕会社に帰れません!」
蒲浦のやつ大袈裟だなあと思いつつ,親方は今の蒲浦との話を修造に説明した。
「ひと月後に催事ですか?現場に行かなくても良いんなら俺は頑張れます」
あまり目立ちたくないタイプの修造は言った。
「それと今は工場で6人体制でやってるのでこれ以上人を増やすと入りきれないですね。ローテーションでやりますか?」
「そうだなあ。俺、そのうち2号店を出そうと思ってるんだ。今のうちに人を育てとこうよ」と親方が言った。
「わかりました。催事の時はカレーパンを向こうで揚げるんですか?誰が行くんです?」と修造が言った。
「そりゃあ。。」
親方は杉本と江川を見た。
「えっ?」
江川卓也は驚いて言った「親方僕を見ないで下さい!修造さんが行くなら僕も行きます!」
修造は絶対行きたくないので言った。
「江川、こないだNNテレビで一緒にカレーパン揚げたろ?あんな感じだよ」
それを聞いていた杉本が「江川さん、まだ日にちもあるし今から練習しましょうよ」と言った。
「生地の面倒をいい感じに見てやって、最高の状態の時に揚げる。それが俺たちの仕事なんですよ」
修造は驚いた!杉本は自分がさっき言われた言葉をそのまま使ったのだ。
さっき弱音吐いてたくせにとちょっと呆れたが「まあ、2人で頑張れるだろ。これも経験だよ」と締めくくった。
何日かして、親方が面接した青年が採用になりパンロンドにやって来た。
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