4. オー・ヘンリー『After Twenty Years』
こんにちは、授業のない休暇はとことんだらけてしまう大学院生GBです。
4つ目の記事となる今回のテーマは、プラハに旅行した際に、Carles Bridgeから撮ったこの1枚の写真です。
この橋からの1枚、特に何か珍しい景色ではない。が、、、水辺近くの道、石造りのタイル、それを明るく照らす街灯、そしてポツンと時間を知らせる時計柱、ヨーロッパにはどこにでもありそうな景色だ。
それでもこういう場面に出会う度、自分が小中7年ほど通っていた公文の英語教材で読んだ、O Henryの短編小説『After Twenty Years』の世界を想起させてくれる。
以下、ネタバレ注意です⚠️
物語は、20年後に同じレストランの前で再会の約束をした2人の男が旅路を別れ、再び20年後、何年も前に店を閉じた同じレストランの前で実際に再会を果たすのだが、片方は指名手配犯、もう片方は警察官となっており、感動の再会を懐かしむも最後は逮捕に至るという、とてもシンプルで短い話だ。
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茶色の瞳に、綺麗な宝石のネックレスを身にまとったその男は、約束の時間に潰れたレストランの前で煙草を吸い、懐かしい友人を待つ。約束の時間、夜になる。少しの雨に風が混ざって冷たい、そんな中22時になる数分前、1人の警察官が彼の前を通り過ぎ、世間話をする。
雨の中、夜の街を歩く警察官、ビジネス街の建物はほとんど明かりが消え、数時間前にサラリーマン達は帰路についた。そんな中、潰れたレストランの前で立ちすくむ1人の男に、警察官の足取りが止まる。
男「何も問題ないよ刑事さん、暇だったら説明するよ」
警「どうしたんだい雨の中こんなところで」
男「ここのレストランで会う約束をしたんだ、20年前にな」
警「ここは5年前に閉まったよ、興味深いね」
男「ヤツは信用ある男だったさ、俺は西部から遥々彼に会うためだけに来たんだ、きっと来るさ」
警「彼が22時までに来なかったら、ここを去るのかい?」
男「待つよ、少なくとも30分は」
警「良い再会になることを祈ってる、では」
そう言って警察は去り、男は再び相手を待つ。しばらくして、茶色のコートを来た背の高い男が彼に近づいてくる。
背「君は、、、もしかして〇〇かい?」
男「ということは、、君は△△か?!」
背・男「なんということだ、まさか本当に20年経って再び会えるなんて!!元気にしていたかい!」
背「素晴らしい日だ!ここのレストランは無くなってしまったようだが、向こうに良さそうな喫茶店がある、行こう」
そういって雨の中、薄暗い道を男たちは肩を組んで歩き出し、これまでの話をする。
背「どうだった、西部はよかったかい?」
男「ああ、俺には最高だったさ、君も変わったな、そんなに背が高いとは、一瞬気づかなかったさ」
背「まだ20歳だったからね、その後伸びたのさ」
2人が角を曲がった時、街灯が明るく2人の顔を照らし、一瞬の沈黙の後、男の足が止まる。
背「どうしたんだい、〇〇」
男「君、△△じゃないな」
背「何を言っているんだい、こうして話しているじゃないか」
男「20年という月日は長い、だが誰かの鼻の形を変えてしまうほど長くは無い!」
背「だが20年という月日は、時に良いものを悪いものに変えてしまう」
男「…」
背「君は10分前から逮捕されている、大人しく署まで来てもらえるかい?その前に君に渡すものがある」
その小さな手紙を受け取る男の手は震えていた。
〇〇、僕は約束の時間にそこに行った。
そして僕は見た、その顔はここで指名手配されている男だった。僕は自分で君を逮捕したくなかった。だから代わりの者を行かせたんだ。
・-・-・・
その後も何度か読み返しているので、覚えている限り簡単に書いてみたけど、大体こんな感じだった。
当時10歳ぐらいの自分が、子供ながらに想像していたのはまさに写真のようなストリート、白黒にして、雨を降らせて、脇に煙草を吸う人を何人か立たせれば完成。
公文の宿題は溝に捨てて帰ったこともあるぐらい、教室で勉強するのが嫌いだった自分、何度も先生や親に怒られた。それでも10年以上たって、いくつか覚えているストーリーの1つが、このAfter Twenty Years。
子供ながらに、西部の男が身につけるラグジュアリーの描写や、ビジネス街ながらもどこか寂れた雰囲気に天気など、鮮明に描かれる舞台を楽しく読んだ記憶がある。
この警官さんも、おそらくすごい楽しみにしてたんじゃないか。
レストランは閉まってしまった、あいつは西部に向かったっきりだけど、果たして本当に来てくれるのか。日中の仕事を終えた夜の街を歩きながら、男の影を見た時はきっと心踊り、嬉しかったはず。
しかし話しかけてきたその顔は指名手配犯、彼が再会の内容を話してくれている時、おそらく警官の男の頭の中は、この男をここで逮捕すべきなのか、それとも見逃すべきなのか、葛藤の時間だっただろう。
20年前のディナーを最後に道を分かれ、西部からわざわざ自分のためだけに帰ってきたという旧友、その裏の顔はかたや指名手配犯。少なくとも30分は待つというけど、勘づいて逃げられてしまうかもしれない。
みなさんが警官の男と同じ立場だったら、どうするだろうか。
僕だったらきっと、1度相手が指名手配犯だということは忘れ、思いの丈だけ懐かしい話と、空白の20年間の話に花を咲かせ、ディナーを食べ、機を見て正体を明かし、署まで同行するように促すだろうか。あるいは、西部に帰って二度と戻ってくるな、とでも言って見逃すかもしれない。
どちらにせよ、この警官は私情に負けず責務を果たした、立派な刑事さんだと思うし、同時に再会の約束は果たせたことで、西部の男としても、儚いながら、観念しますというような、そんな終わり方。
わずか10歳足らずの日本人の少年を、たった4ページで感動させたオー・ヘンリーの手腕には、今更ながら驚かされる。
でも、実際に20年後に再会の約束をして、その間ほとんど連絡も取らずに、その約束の地へ、20年後の同じ日、同じ時間に来てくれるような友人なんて、果たして人生に1人でも、出逢えるのだろうか。
今の時代、そんな約束ができる間柄の友達ならきっとこれからも連絡は取り合うだろうし、SNSでも繋がってるだろうから、よっぽどの事がない限り、再会は可能かもしれないけど、ほとんど連絡なしにして、ちょっとやってみたい気もする。
キリのいい25歳になったら、1人の親友に言ってみよう。
なあ、20年後またここで会おうぜ、これからほとんど連絡しないけどよろしくな、じゃ、45歳になった時に。
…そんなやつと誰が会いたいねん。
このストーリーは英語のレベルも簡単で、ネットでO Henry, After Twenty Yearsと検索すれば5分くらいで読めるので、お時間ある方はぜひ、目を通してみてほしい。
それではまた、