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アルムナイアワード受賞者が語る挑戦と未来②(家業の豆腐屋を大変革:佐嘉平川屋 平川大計さん編 )

前回の記事に引き続き、10月20日(日)に実施した10周年特別イベントの講演会レポート(後半)をお届けします。今回は、佐賀県を代表する豆腐屋、株式会社佐嘉平川屋の代表取締役社長・平川大計さんのご講演です。

平川さんは旧運輸省に入省し、国家公務員として働いていましたが、起業を志して公務員を退職し、一時的な腰掛けのつもりで家業の豆腐屋に転身。しかし、結果的に家業に完全コミットし、多くの困難に直面しながらも挑戦を重ね、企業再生を進めてこられました。

ちなみに、佐嘉平川屋はグロービス経営大学院のクラス「ストラテジック・リオーガニゼーション(SRO)」のケースとしても取り上げられ、成功と失敗の両面から学びの多い事例となっています。平川さんが「変革」に伴う苦難と真正面から向き合って来られたからこそ、臨場感あふれるお話を伺うことができました。

代表取締役 平川大計さん

厳しい状況からのスタート

祖父が創業した1950年代の豆腐屋は、商圏が限定され、競合もほとんどない中で、1日100丁売れば成り立つ時代でした。しかし、スーパーの台頭や競争の激化により時代とともに豆腐業界は縮小の一途をたどり、最盛期に5万店あった豆腐屋は、2020年には5千店を切るまでに減少しました。豆腐の商品特性上、保存期間が短く、小規模商圏でのビジネスが主流でしたが、小売チェーンの拡大と物流の発展により、BtoBモデルへの移行が進んだ結果と言えます。

(豆腐事業者数の推移)

1990年代以降、スーパーマーケットはバブル崩壊による消費低迷や節約志向の高まり、さらにはコンビニの台頭で苦境に立たされ、倒産する事例も増えていました。そんな中で平川さんが家業に加わったのは2000年。事業は実質的に債務超過状態であり、資金繰りにも苦しむ厳しい状況でした。

「借金を返すために借金をして、返済の督促が次々とかかってくるような状況。資金繰りに苦しむのは本当に辛いもの」

と平川さんは当時を振り返ります。

再生の狼煙

平川さんは入社直後、前職で培った調査・分析スキルを活かして会社の現状を徹底的に把握しました。原価計算や販売データ、決算書を分析し、改善すべきポイントを見極めて売上最大化と経費削減を同時に進めます。

「通販事業は利益率が高く、資金回収も早いため、業績回復の柱となった。また、人手不足で外注していたお歳暮のセットアップ業務を内製化し、自ら対応した。さらに送料の価格交渉も進めた」

こうした取り組みの結果、わずか3年で黒字決算を達成。金融機関も驚く回復を見せましたが、キャッシュフローの改善には引き続き課題が残りました。

成功体験からのさらなる挫折

次第に競合が増え、ブランド価値を高めるための差別化が必要になったといいます。温泉湯豆腐という地域性を打ち出し、佐賀県産大豆の使用やパッケージデザインの刷新を行い、ブランド化を推進しました。BtoC事業を拡大することで価格決定の主導権を取り戻し、販路や商品の多角化を図ります。

しかし、生産キャパの限界や競合の増加、大豆価格の高騰といった課題が重なり、再び危機に直面します。

「小売店との取引頼みでは価格競争に巻き込まれるし、取引を切られれば倒産しかねない」

平川さんは、仕入れ先も販売先も「一つに依存することのヤバさ」を感じ、BtoCビジネスのさらなる推進を決意しました。

嬉野店のOPEN

温泉豆腐は嬉野の名物でした。しかし、佐嘉平川屋は武雄市に所在。温泉豆腐の売上が拡大するにつれ、嬉野側からのやっかみを受けることもあったといいます。このため、平川さんは「ニセモノの温泉豆腐」と言われないよう、嬉野市への出店が不可欠だと考えました。

2010年、満を持して嬉野店をOPEN。しかし、思うように集客が伸びず減収を記録。周囲から「失敗」とささやかれる中、巨額の投資をして後戻りできない状況で平川さんは苦悩しました。

そこで商品を見直し、店舗を拠点にした商品開発を進め、ヒット商品を生み出します。さらに販路を拡大し、佐賀県内での売上No.1を達成しました。

サラッと書いてますが、大変な決断と実行の連続ですよね。

佐嘉平川屋 嬉野店

決意、成功、挫折、実行の繰り返し

売上が拡大するにつれ、生産キャパや設備の不足、作業の属人化といった内部課題が浮上しました。また、ドラッグストアの台頭といった外部環境の変化もあり、卸が好調でも通販事業が伸びないという状況に直面します。

大規模な設備投資を行い、生産性を向上させましたが、2019年と2021年に発生した水害や社員の離反など、またも次々と厳しい逆境に見舞われました。

しかし、2022年の西九州新幹線の開業に合わせて「武雄温泉店」をOPENしてから状況は好転。メディアでの露出が増え、ブランドが定着。直近では売上も利益も過去最高を記録しているそうです。

平川さんの原動力は、役所の仲間や離反していった社員も含め、「負けたくない」という強い反発心のようなものだったそうです。また、MBAでの網羅的な学びが経営判断や多角的な視点の形成、視座の上げ下げに役立っていると述べられました。

豆腐屋という事業特性を踏まえた、数々の打ち手とその効果は如何に。佐嘉平川屋の事業再生は決して簡単なものではなく、唯一の解があるわけでもない。失敗も成功も含めたリアルな体験談は参加者の行動意欲を駆り立てるものだったと感じます。

ちなみに、武雄温泉店で足湯をしながら食べる豆腐パフェは本当に最高ですので、是非、店舗に足をお運びください。

佐嘉平川屋 武雄温泉本店


作:原 純哉 氏

おまけ

講演後のディスカッションでは、変革クラブ創設者の唐澤講師がモデレーターを務め、登壇者と意見交換を行いました。話の流れにより、唐澤講師は「No.2の心得」として、リーダーが強権的なら穏和なNo.2を演じ、リーダーが温和なら強権的なNo.2を演じることができれば本物だ、と語りました。

「103%の努力」を推奨する大山さん、「人生3倍速」を主張する唐澤さん、そして「試行錯誤型」の平川さん、いずれもリーダーシップスタイルは異なりますが、根底にあるのは、自己変革への強い意志と、周囲を巻き込みながら前進する力ではないでしょうか。リーダーシップに唯一の正解はない。しかし共通点はある。我々も、学びを通じて自分流のスタイルを確立していくよう、引き続き前進していきましょう!

パネルディスカッションの様子
グラレコ 作:原 純哉 氏

アルムナイアワード


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