人材確保に挑む日本企業が学ぶべきエンゲージメント戦略
~MBA視点とケアマネジメントの思考を活かして~
Gallupが発表した「日本の雇用主が直面する人材確保の課題」によれば、日本企業が現在直面している大きな課題は、「人材不足」と「高い離職率」です。このような状況において、MBAで学ぶ経営視点と、ケアマネジメントが重視する「人に寄り添い、人を支える」という考え方を組み合わせることで、課題解決に向けた新たな視点を得ることができるのではないでしょうか。本記事では、これらの視点を通じて現状を分析し、具体的な解決策を考察します。
https://www.gallup.com/jp/653540/日本の雇用主が直面する人材確保の課題.aspx
1.日本企業が直面する人材確保の危機
Gallupの記事によると、従業員の3分の1が転職を検討し、10人に4人が「現在の居住地で仕事を探すには今が良い時期」と感じています。この背景には、以下のような要因があると考えられます。
1. 労働市場の逼迫
2024年の帝国データバンクの調査では、半数以上の企業が従業員不足を訴えています。人材の需要は増えているにもかかわらず、供給が追いついていない状況です。
2. 若手社員の仕事観の変化
若手社員を中心に、単なる「給与の高さ」だけではなく、「成長」「社会的意義」など、仕事を通じた自己実現の要素を重視する傾向が見られます。
3. 賃上げの限界
多くの企業が労働力不足への対応策として賃上げを行っていますが、これだけでは持続可能な解決策にはならないという指摘があります。賃上げは短期的な効果にとどまり、長期的な人材確保にはつながりにくいからです。
2.従業員エンゲージメントの重要性
Gallupの調査では、日本の従業員エンゲージメントはわずか6%と、世界最低水準となっています。また、41%が日常的に強いストレスを感じており、ウェルビーイング(心身の健康や満足度)が「成功している」と回答したのは3割にも満たない状況です。エンゲージメントが低いことは、企業にさまざまな悪影響をもたらします。
1. 離職率の上昇
エンゲージメントが高い組織は低い組織に比べて離職率が大幅に低いというデータがあります。離職率が高いと採用や教育のコストが増大し、企業の競争力が低下します。
2. 燃え尽き症候群による生産性の低下
ストレスやウェルビーイングの低さは、従業員のモチベーション低下や欠勤の増加につながります。結果として、生産性が著しく低下するのです。
3. 経営成果への悪影響
Gallupのメタ分析によれば、エンゲージメントが高い組織は、売上高や生産性が著しく向上していることがわかっています。エンゲージメントを軽視することは、企業の成長機会を逸することにつながります。
3.MBAの視点から考える解決策
MBAで学ぶ主要なフレームワークを活用することで、エンゲージメントを向上させるための具体策を次のように整理することができます。
(1) 戦略
• 長期的な人材投資のビジョンを策定する
短期的なインセンティブだけでなく、企業として「どのような人材を育成し、どのような価値を社会に提供するのか」を明確に示す必要があります。
• 差別化された価値提供
特に若手社員に対し、企業が「ここで働く意義」を具体的に伝えることが重要です。例えば、イノベーションを推進する文化や社会課題の解決に取り組む事業内容を強調することが効果的です。
(2) 組織
• フラットなコミュニケーションの構築
情報の断絶を防ぎ、従業員同士や上層部との信頼関係を強化することが大切です。
• 成果と学びのサイクルを作る
成果を振り返り、改善するプロセスを組織内に定着させることで、継続的な成長を実現します。
(3) リーダーシップ
• 管理職の役割を強化する
部下の成長を支える「コーチ」としての役割を果たせるよう、管理職に十分な権限と教育を与えるべきです。
• 率先垂範するリーダーの姿勢
リーダー自らが変革の必要性を示し、積極的に行動することで、組織全体にポジティブな影響を与えます。
4.ケアマネジメントの思考から得られるヒント
ケアマネジメントでは、「対象者一人ひとりに寄り添い、その人の尊厳や希望を大切にする」アプローチが重視されています。この考え方は、企業における人材マネジメントにも応用できると考えます。
1. 個別アセスメントの重要性
ケアマネジメントでは、対象者の生活背景やニーズを丁寧に把握します。企業でも従業員の個別の価値観やモチベーションを理解することが重要です。
2. パーソン・センタード思考
ケアマネジメントが本人の希望を中心に考えるように、企業も従業員のキャリアビジョンやライフスタイルに寄り添った柔軟な働き方を検討するべきです。
私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)
3. 継続的なモニタリング
ケアプランを定期的に見直すように、企業のエンゲージメント施策も常に改善していく必要があります。
5.まとめ:エンゲージメント向上は「経営視点」と「人間理解」の融合が鍵
人材不足と生産性向上という課題に取り組むためには、エンゲージメントの改善が不可欠です。MBAで学ぶ戦略的な思考と、ケアマネジメントで培われる「人を支える」視点を融合させることで、以下のような成果が期待できます。
• 従業員が「自分の仕事が企業の目標や理念にどのように貢献しているか」を理解し、仕事への誇りを持つようになる
• 管理職が主体的にリーダーシップを発揮し、エンゲージメント向上に向けた職場文化を形成する
短期的な賃上げや福利厚生だけに依存せず、長期的な視点でエンゲージメントを高める施策を取り入れることが、日本企業が人材不足の課題を乗り越え、持続可能な成長を実現する鍵となるのではないでしょうか。