#03 トカゲの世界観
おさらい
前回の「木でなく森を見つめてみる」では、人が何をどうして好きかには、独自性にも依れば人間性にも依ること、そして個人にフォーカスするよりも広角レンズで人間全体を捉える方が糸口が見つかりそうだということが分かりました。
ここからは、時間軸も広げ、三位一体説の3つの脳をモデルに、私たちが進化の過程で受け継いできた特質や特性を検証しながら解体作業を進めていきます。
まずは3つの脳・レイヤーのおさらいです。実際の私たちの意思決定には3つが複雑に影響を与えながら進んでいきますが、それぞれをみるとこのようなことが言えます。軽く頭に入れ、まずは最初の爬虫類脳・直感レイヤーから詳しくみていきましょう!
爬虫類脳:直感レイヤー
生命維持にかかわる機能や交尾本能など一番原始的な反応をつかさどる。ここでの反応は無意識のうちに瞬間的に起こる。Weinshenk (2009)
旧哺乳類脳:動作レイヤー
日々の行動や社会的な交流に大きく関わり、集団内での立場や地位、受容や拒絶に対する反応を引き出す。このレイヤーで起こる反応も無意識の領域。Graziano (2011)
新哺乳類脳:思考レイヤー
3つの中で唯一意識のあるレイヤー。つまりこのレイヤーでは自分の考えていることを「聞く」ことができ、意識的かつ積極的に意思決定に参加できる。Gorp & Adams (2012)
トカゲの毎日
これは私がハイキングをしている時に見かけたトカゲです。トカゲの毎日は好機と危機の連続です。トカゲ達は主に本能レベルで生きています。頭上でカメラを持ったハイカーが自分の写真を撮っていることの意味や理由を思案してみることは、まずありません。何か大きなものが近づいてきてるぞと感じ、近くの茂みに逃げ込む。感覚情報を受け、それに反応する。それだけです。
私たちが原始的生物や爬虫類から引き継いだこの脳は、生命維持にかかわる機能や交尾本能をつかさどっています。私たちはこの脳で瞬間的かつ無意識のうちに周囲に反応し、それが自分にとって良いものか悪いものか、安全か危険か、感覚情報を通して判断しています。
それに応じて私たちの感情は、自動的に、考える余地なく引き出されます。
考える余地のない自動的な作用
たとえば想像してみてください。あなたは今、立っているだけで失神してしまいそうな 100階建て超高層ビルの屋上にいます。このビルは一般公開前でフェンスはまだ設置されていません。ゴーーーッという音がしています。下を見ようとあなたは端に向かって一歩一歩にじり寄っています。膝がガクガクしてきました。間違って足を踏み外したら、誰にも助けを求められないまま 500m を真っ逆さまです!
こんな状況に立たされると、怖がろうと考えなくても、誰でも怖くなるものです。
どうしてでしょう?
それは、爬虫類脳があなたが置かれているこの非常に心もとない状況を感知するやいなや、自動的にネガティブな作用を引き起こすからです。
もちろん、落ちたら大変だとフェンスのある一角に移ったなら、あるいは平気になるかもしれません。でもそれには論理的思考のできる新哺乳類脳:思考レイヤーの参入が必要です。
ありがたいことに、現代の私たちの生活では、生命が脅かされることはあまりありません。それでも私たちは、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の五感を通して、常に美的性質を判断し、それが望ましいのか否か、有益なのか否か、瞬間的に判断しています。
内臓は知っている
アメリカの認知科学者ドナルド・ノーマンは、このレイヤーのことを Visceral(ヴィセラル)レベルと呼んでいます。
語源となる Viscera は内臓の意。Visceral はその形容詞「内臓に関連した」という意味ですが、この言葉、実は日常的には「直感的な」とか「理屈抜きの」という意味で使われます。
ちょっと意味が飛躍しているように感じませんか?
でもある種のことを、私たちは身体感覚で捉えるのではないでしょうか。たとえば「腹落ちがする」や「腹に据えかねる」などの慣用句があります。それぞれに「受け入れた」「受け入れられない」の感覚を内臓で感じとっていることの表れです。「生理的にダメ!」なんて言うときも、このレベルでの感覚を言っているのではないでしょうか。
良いか悪いかその中間か
私たちはこの直感レイヤーで、文字通り直感的に、すべてのものを良いか悪いかその中間かを判断しています。
判断基準は大きく次のように二分されます。
- 快いものは「良い」
- 不快なものや苦痛なものは「悪い」
その結果、私たちの感情は動かされ…
- 良いと判断したものには「近づきたい」欲求
- 悪いと判断したものには「避けたい」欲求
を感じます。
さて、ここで質問です。
生まれながら私たちみんなに備わっているこの直感レイヤー。具体的にどんなものを好ましいと思うのでしょうか?
ゆっくりと考えたい方は、ここでいったんストップしてください。(すぐ下に答えがありますので、スクロールしてしまわないようご注意くださいね。)
答えはこの下 ↓ ↓ ↓
理屈抜きに好きなもの・苦手なもの
ざっくりと言えば、私たちは生まれながらに進化の過程で食べ物・暖かさ・保護を与えてくれた状況や物を好ましいと思います。
そしてそれらは、爬虫類脳:直感レイヤーを介して自動的にポジティブに判断され、その結果、私たちは近づきたい欲求を感じます。
実際にどんなものがあるのか、リストアップしてみましょう。
ポジティブ・リスト
暖かく適度に明るく照らされている場所
温暖な気候
甘い味や匂い
彩度の高い(鮮やかな)色
心地よい音
シンプルなメロディーやリズム
調和のとれた音や音楽
優しい肌触り
微笑んでいる顔
リズミカルなビート
見た目が魅力的な人
左右対称なもの
丸っこいなめらかなもの
官能的な感覚や音や形
ネガティブ・リスト
高さ
予想外の突然な音や眩しい光
迫りくる物体
極度の熱さや冷たさ
暗闇
極度に明るい光
大音響
何もない広大な平地(砂漠)
鬱蒼とした地帯(ジャングル・森)
混雑した場所
腐敗臭
腐りかけの食べ物
苦味
尖ったもの
突然のきつい音
軋むような不調和音
不恰好な肉体
ヘビやクモ
排泄物
他人の体液
吐瀉物
Norman, D. A. (2005). Emotional design: Why we love (or hate) everyday things. New York, NY: Basic Books.
いかがでしょうか?
ポジティブなリストは読むだけで、あぁいいねぇと内側から温かくなる感じがして、メガティブなリストは読みながらだんだん胃がキリキリとしてきませんか?
リストを読んでなるほどと感じていただいたところで、今度は実際にポジティブな作用とネガティブな作用が引き起こされるかどうか、文字よりも分かりやすい写真を見ながら確認していきましょう。
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この記事は、グローブ・ポーターのオフィシャルサイトで公開した記事の転載です。