香港動乱からの漁夫の利を得る 〜 日本の戦略 N88
久しぶりに香港在住の先輩とzoomをしたが(特に日本の)報道と香港(国)内で起きていることには随分ギャップがあるそうだ。だが中期的に見て(いや数年内には)香港は本土に巻き取られるのは香港内と外にいる人の認識に間違いないだろう。
香港は一人当たりの名目GDP(USD)で世界17位($48,450.61)(*1)と裕福な国で、それに対して日本は26位($39,303.96)(*1)となっている。この香港が裕福である理由はグローバル企業のRHQがあることが大きい。もともとイギリス領としてアジアのハブという位置付けが強かった香港だが、近年はむしろ中国の巨大化により中国市場へのアクセスのための要衝として発展してきた。だが今回の香港への国家安全保障法制(国安法)の導入はこの地のアドバンテージを一気に消滅させる一手である。
すでに昨年2019年のデモに先立って動きべき国は動いている。シンガポールのEDBやオーストラリアのAustrade(それぞれ日本でいう経済産業省といったところ)は香港からRHQを奪うためにグローバル企業に移転の提案を試み始めている。いわゆる高級な雇用をもたらしてくれる企業誘致の一大チャンスなのだ。そしてもちろん香港内にRHQ拠点を置くグローバル企業こそ当然ながら移転を模索している。
そこで香港在住の先輩の意見はむしろ東京、あるいは日本がチャンスと捉えるべきだとの一言だ。以前はシンガポールと香港はライバルでしばしば比較されたが、今のシンガポールは東南アジアのRHQのような位置付けに成り下がっている。またオーストラリアは英語ができることと欧米国との文化的背景が似通っている圧倒的強みを持つが、距離的なディスアドバンテージがある(時差はほぼ同じだがアジアまで10時間以上フライトでかかる)。
一方、シンガポールが東南アジアに対して香港も東アジアのRHQ拠点となっているので、香港以外の東アジアで検討する場合は日本(東京)、韓国(ソウル)、あえて中国本土(上海、北京)くらいの選択肢なのだ。シンガポールやオーストラリアを抑えつつ正攻法で攻めれば勝てなくない相手だ。
そして日本にこの中国本土と香港が争っている漁夫の利を狙うことを勧めるだけではなく、私は東京ではなく大阪と博多、そして沖縄での誘致の検討も勧めたい。一般的に外資企業、特にRHQの誘致をする際には法人税の時限的な免除が個別カスタマイズで行われる。敢えて東京ではなく、これらの地域を特別経済特区として法人税免除をはじめとする各種促進をしてみてはいかがだろう。香港が中国本土にとったように。
働き方改革を見ているとボトムアップで国民が汗水流して働き方論を朝から晩まで考えている。マスコミも企業の人事も人事でない人も皆で知恵を出し合って日々改善で美しい光景に見える。しかし日々の改善もいいのだが、トップダウンで政府が高級な仕事を国内に誘致する方が生産性を上げるのに手っ取り早いと私は思うのだ。
*1) IMF - World Economic Outlook Databases (2019年10月版)