見出し画像

小売業の生産性向上が日本成長の道、あとサービス業 N81

 5年ほど前、データサイエンティストという言葉が世界的に大流行をしていた。仕事でオーストラリアの最先端のデータサイエンティスト会社の経営者とビジネスをする機会があり雑談をしていたところ、「ウォルマートはデータサイエンティストを500人抱えている。うちの社員と同じ人数だ。やっぱりアメリカはすげぇ」と言った。この意味はアマゾンはもっと抱えているという隠喩でもあり、確かにアメリカは今も昔もすごいことには変わらない。確かなのはB2CビジネスにIT投資(特にAIやビッグデータ)を比較にならないくらい投資しているってことだ。  

 そもそも日本人の私からすればそのオーストラリアの会社も十分すぎるほど働いている社員もスマートで、オフィスもモダンな最先端を行っているように見えたのだが。当時日本だとブレインパッドやヤフーの人たちがトップを走っていてプリファード・ネットワークスの人たちが軌道に乗り始めた頃だった。そして難解な統計分析は●●総合研究所とかにいる東大理学部物理学科出の人とかが属人的にやっているのが日本の実情だった(今もそうかもしれないが)。  

 私が小売業に勧めたいのが給料を上げること。そしてメンバーシップ型雇用をやめてジョブ型雇用に切り替えることだ。もう一つ言えばもっと事業再編統合を進めてIT投資ができる体制に整えることだ。  

 何故かというとその給料の安さで逃げ出すIT部員が多く社内に優秀なIT人材が確保できていないことだ。小売業はITで勝負の成否が決まる業界にも関わらず、職種共通の賃金を採用しているのでIT部員は30歳にもなる頃にはノウハウを持った人たちは2倍の給料で転職することができてしまう。かと言って不足したIT部員をIT業界からはその給料のギャップより調達できずと悪循環だ。最終的にはお抱えのIT企業に丸投げとなって治外法権化してしまっているのが実情だ。  

 ジョブ型雇用にして特別に高給を認める制度に切り替えて優秀なIT部員を雇用して、IT投資をして合理化ができれば他の社員の給料も1.5倍くらいにはできる筈だ。しかし規模が足りない事業者が多いのも事実なのでもっと中小規模な事業者は吸収されるしかない(メンバーシップ型だとM&Aされる企業の社員は人的なつながりでポジションが決まるという不運を見るので、ジョブ型に切り替える必要はあるが)。  

 そんな簡単なことではないという意見に対して、土居丈朗先生をはじめとする「人口減少と経済成長に関する研究会」の報告書で発表された滝澤レポート(1*)から引用したい。さて下記のデータを見ていただきたい。小売業の生産性はかなり米国と比較して低い。 

画像1

 また興味深いのが製造業/非製造業と規模の大/小で労働生産性分布の比較を行った結果だ。「大規模な企業ほど高労働生産性である傾向が、業種別に分けても共通していることが分かる。加えて、製造業に比べて非製造業における企業間格差が大きいことが分かる。また、企業規模が大きい場合においてその格差はより大きくなる傾向にある(*1)」。

画像2

 まとめるとやはり小売業のデジタル改革に待ったなし。ただし労務改革と産業政策を合わせ技でやる必要がある。同じく衰退に悩むヨーロッパでは産業政策の議論が大好きだったが日本も国が思い切ったことをやってしまってもいい時期にきているのではなかろうか。  

 こちらが「人口減少と経済成長に関する研究会」報告書のリンクです。土井先生、滝澤先生、素晴らしい研究をありがとうございました。


(1*) 滝澤 美帆、企業レベルデータに基づく日本の労働生産性に関する考察、「人口減少と経済成長に関する研究会」報告書、2020年6月  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?