「人生を懸けて取り組みたい」ドイツ拠点唯一のキャピタリストが語るVCの魅力【GB社員インタビュー】
グローバル・ブレイン(GB)で情報発信を担当している岡本です。
GBは東京以外にも世界各地に拠点を持っています。その1つである、ドイツ拠点に唯一勤務しているのがキャピタリストの小尾 理奈さんです。ここ数年、ドイツ最大規模のテックイベントのアドバイザリーボードに選ばれたり、「2023年度ドイツで活躍する女性投資家トップ10 ランキング」にランクインしたりするなど活躍の幅を広げています。
今回、ドイツたった1人のメンバーでありながら、大きなプレゼンスを発揮している彼女に、大切にしているというチームワークのことや、自身のアイデンティティを活かした仕事への意欲について話を聞きました。
「いったい私は何人なんだろう」
──まずこれまでの経歴と、ベンチャーキャピタリストというキャリアを選んだ経緯を教えてください。
父親の仕事の関係でドイツで育ったんですが、子供のころからグローバルなビジネスパーソンになりたいという思いを抱いていたこともあり、学生時代にはBMWでインターンを経験しました。社会人になってからはGoogleの日本支社とロンドン支社、アメリカのスタートアップ、ドイツの大手化学メーカーであるヘンケルなどを経て、2020年にGBに入社しています。
GBのことを知ったのは、ヘンケルでオープンイノベーション・CVC業務に携わり、スタートアップ投資の面白さを知ったころです。たまたま転職エージェンシーから「GBの2人目のヨーロッパ拠点メンバーとして働いてみないか」とお声がけいただきました。
入社の決め手となったのは、GBなら私の生い立ちと、これまでの経験をすべて活かせると感じたからです。
私はドイツで育った日本人として2つの文化の中で生きてきたために、常にアイデンティティクライシスを抱えていました。「いったい私は何人なんだろう」と。
GBは業界としては数少ない、グローバルに拠点を構える日本のVCです。その地域でしか投資をしていないアメリカやヨーロッパのVCでは、私はワンオブゼムで、日本語が話せても日本に投資できるわけではありません。自分のUSP(Unique Selling Proposition:独自の強み)を1番出せるのはどういう形かと考えた結果、GBなら私のバックグラウンドを活かして、欧州と日本、アジアをつなぐユニークなポジションを担えると感じました。
初めての日本企業への就職で不安もありましたが、代表の百合本さんからの「ありのままのあなたを受け入れるので、お互いに歩み寄りましょう」という言葉も入社の後押しになりました。
ちなみに最近、高校の卒業文集を見返したんですが、将来の夢の欄に「日本とドイツの懸け橋となるような国際的な仕事をしたい」と書いてあって。GBでの仕事は子供のころからの自分のミッションと完全に一致しているなと感じますね。
──キャピタリストという仕事のやりがいはどんなところに感じますか。
夢を追いかけて、世の中を変えようとしている起業家の皆さんと関われることにやりがいを感じます。従来型のキャリアを選ばず新たな挑戦に立ち向かったり、家族がいながら従業員への責任も抱え、それでも自分の信じる道を進もうという勇気を持っている。そういった方々をサポートする仕事ができるのはありがたいし、私自身のモチベーションにもなっています。
私が1番彼らに貢献できると感じているのは、国際展開の際にあらゆる国の文化や市場の違いを理解している点です。アメリカ企業で働いた経験もあり、ドイツの文化も知っていて、日本市場も分かる。その強みをもとに、国をまたいだ架け橋としての役割を果たせるのが魅力的で楽しいと感じています。
また、GBには経験豊かなメンバーが多く、リソースも膨大にあります。私1人の限られたリソースではなく、GBメンバーの力を借りながら起業家を支援できることに喜びを感じますし、これぞまさにGBの強みだなと思っています。アフリカのことわざで「早く行きたければ1人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」という言葉があるんですが、まさにそれを体現できる環境ですね。
アイデンティティクライシスを「強み」に
──日々の仕事の仕方についても教えてください。起業家やLP(Limited Partner:ファンドの出資者)とコミュニケーションをする際に心がけていることはありますか?
「いかにシャープなインサイトを提供できるか」を意識しています。起業家やLPの方の意思決定に貢献するために、GBにいるからこそ伝えられる情報やインサイトを届けていきたいなと。
そのために日々やっているのは、各エリアの市場の情報収集と分析です。GBはアメリカ、イギリス、中国、インドネシア、インドなど世界各地にキャピタリストがいるので、現地の生の情報にすぐアクセスできます。「日本のスタートアップ市場はいまどういう状態なのか」「インドではXX領域が流行っていると言われているが本当か」「中国の投資市場は向かい風と聞くが実態はどうなのか」などの情報を、各国のキャピタリストに直接聞きながら集めています。
欧州のVC業界からは、日本と韓国の市場について同時に聞かれることが多いので、ときには「アジア動向に詳しいキャピタリスト」のような立ち位置でコミュニケーションする場合もあります。アジアとグローバル、両方のバックグラウンドを持っていることでアイデンティティクライシスだったと言いましたが、キャピタリストとしては逆に強みになりました。
──たしかにその点は小尾さんの大きな強みですよね。小尾さんは対外的な活動も積極的に行われています。“ドイツ版のCES”とも評される大規模なテック見本市「IFA Berlin」のアドバイザリーボードなども務められましたが、ここからどのような成果が得られましたか。
運営関係者になったのでGBのロゴをさまざまなところに掲示できました。これによってGBの認知度を高められたのが1番の成果です。私1人がイベント1つ1つに来場者として顔を出したとしても、限られた人にしかタッチできません。ベルリン最大の見本市という、認知度を一気にスケールできる機会にGBのロゴを出せたことには大きな意味がありました。
また、スタートアップや大企業の方はもちろん、ベルリンの市長や各国の政治に関わる方などともつながりが増えたのも大きな収穫ですね。
いままで私がお世話になってきたVC業界の方々を招待する機会にもなりました。これまではイベントに呼んでいただいてばかりだったので信頼関係を強める意味でも効果的だったと感じます。
IFA Berlinをきっかけに、新たな露出の機会も生まれています。同じくアドバイザリーボードを務めた仲間に招かれて、女性投資家が集まる「Female Investors Dinner」の審査員も務めさせていただき、多様なネットワークを広げられました。
こういう活動が自由にできるのも、会社から最大限任せてもらっているからだと思ってます。本当に感謝しています。
(「Female Investors Dinner」の様子。0:27、1:03ごろに映っているのが小尾さん)
チームでなければ何も成し遂げられない
──小尾さんはドイツ拠点の1人メンバーとして在籍されています。その他のGBメンバーとはどのように関わっているのでしょうか。
海外拠点のメンバーで集まって、情報共有や悩み相談の会を月1回程度設けています。ここでは先ほどもお話しした各地の市場動向や、スタートアップ文化の成熟度などをそれぞれの拠点の視点で議論することが多いですね。最近はトランプ再選の話題でもちきりでした。
東京拠点のメンバーとコミュニケーションすることも多いです。GBが二人組合となっているCVCを担当するメンバーとは、各CVCの戦略や最新トレンドを情報交換しています。私たち海外メンバーは物理的に遠いので、東京拠点メンバーの生の声を聞けるのはとても貴重です。
──話を聞いていると、社内外のさまざまな人とのつながりを大事にしながら、積極的にコミュニケーションを取って働いている印象を受けました。
何をやるにしても1人でできることには限界がありますから、チームワークは大切にしています。「チームでなければ大きなことは成し遂げられない」という考え方は、Google時代に叩き込まれました。
「Sharing is Caring(分かち合いは思いやり)」という言葉がある通り、人と何かを共有することにはものすごく価値があります。ドイツオフィスには私1人しかいないのでわからないことだらけですが、そういうときにはGPも含めたあらゆる方に「これは誰を巻き込みましょうか?誰がいま1番詳しいですか?」と積極的に聞いて解決できるよう心がけています。
これは私たちが相対する起業家にも求められる資質です。起業家も、自分のアイデアに共感する従業員や応援してくれる投資家を惹きつける必要がありますよね。スタートアップも私たちVCも、すべてピープルビジネスです。人との関わりを中心にしないと、何も生まれないと思っています。
人生を懸けるくらい、気合を入れないとダメ
──ありがとうございます。すでに多方面で活躍されていますが、改めて今後GBで成し遂げたいことを聞かせてください。
欧州拠点をもっと大きく成長させたい思いは強くあります。欧州拠点の旗を持って突き進んでいくメンバーになりたいですし、いずれはGBを背負っていくキャピタリストにもなりたいです。
スタートアップからは国際的なパートナーとして見ていただきたいですね。私は過去のキャリア的にも市場参入の支援を得意分野としているので、スタートアップが新たな市場の扉を開ける際のキーパーソンとして選んでもらえる存在になりたいなと。
私、GBで仕事をさせてもらってることに本当に感謝していて。いままでの会社では「私が明日出社しなくても会社の売り上げは上がるな」とか「私がいなくなっても同じスキルを持つ人がやればいいよな」と感じる場面が多く、それがすごく苦しいと感じていました。
でもいまは、欧州と日本をつなぐ架け橋というポジションで、自分の経験やスキルを全部1つにまとめて活かせます。文化、市場、人材を結びつけて新しい価値を生み出すことに貢献できている実感があり、それが大きなモチベーションになっています。
憧れているキャピタリストは、Sequoia Capitalにいる、同じく女性でアジアにルーツを持つJess Leeさんです。彼女は起業家に徹底的に寄り添うパートナーで「起業家が自分のお葬式に来てくれるかどうか」をものさしにしているそうです。まさに人生を懸けてやっていらっしゃる。ベンチャーキャピタリストとは、それくらい気合を入れて取り組まないとダメな仕事だと思っています。
起業家に限らず、一緒に仕事をするあらゆる方から「小尾さんだから一緒にやりたい」と思われる、唯一無二の存在として輝けるよう頑張っていきたいですね。