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【阪大OBのキャリア談】阪大でPh.D.取得後スタンフォードへ、その後アメリカで就職した小川さんが歩むキャリアとは?
こんにちは、グローバル関西です。
グローバル関西では、グローバルに活躍する社会人との対話を通じ、学生が留学やキャリア形成について深く考えるきっかけを提供する座談会を実施しています。
今回のゲストは、阪大工学部OBの小川さんです。
小川さんは、1985年に大阪大学工学部応用生物工学科で学士を取得後、同大学工学研究科の博士前期課程および博士後期課程に進学され、Ph.D.(博士号)を取得されました。その後、スタンフォード大学にて5年間ポスドク研究員として研究に従事され、現在はカリフォルニア州ベイエリアにあるバイオ系の企業にて製品開発の研究員のポジションにて勤務されています。
本座談会では、小川さんがどのような考えを持って、これまで自分のキャリアを切り開いてきたのか、彼のキャリアを解剖していきます。
※本記事では、日本の博士号含め、Ph.D.と表現しています。
インタビュー
Ph.D.取得と渡米のきっかけ
ー 本日はよろしくお願いします!最初の質問ですが、Ph.D.を取得後、渡米しようと思ったきっかけは何ですか?
渡米のきっかけは、次の展開を見つけたかったんです。当時、私は阪大工学部の助教の6年目でしたが、アカデミアで生きていくには留学しなきゃと思っていました。当時は、2年間公務で留学するというシステムがありましたので、それを利用して渡米し、スタンフォード大学にて結局は5年間ポスドク研究員として勤めました。
ー 話が戻りますが、そもそもPh.D.を取得しようと思ったきっかけは何ですか?
博士課程に行こうと思った理由は、単純に研究が好きだったからです。 私の大学院時代は遺伝子を使った分子生物学が黎明期で、それに熱中していました。 日本経済はバブル期で、バイオテクノロジーが非常にブームな時代だったので、私の学科の多くの卒業生は引く手あまたで企業に就職していきましたけど。。。
留学先のスタンフォードで、同じ部屋にいた博士課程の学生が本当に優秀で。彼は当時最先端のマイクロアレイという技術を開発していました。それまでDNAの配列検査は一度の検査で一か所しかできなかったのに、彼の技術は一気に1万か所以上を検査できる。それを見て、『こっちに残ろう』って決めました。 今から考えれば、単にかっこいい技術に魅かれただけだったかもしれません。
スタンフォードで5年間過ごしたと時に、assistant professorなどのアカデミアのポジションに応募したんですけど、全然採用されませんでした。当時の私にはメンターもいないし、ネットワークも全然ありませんでした。今思えば、かなり無謀でしたね。 当時の所属研究室の教授のグラントも終わって、就職を考えざるを得なくなりました。アカデミアの仕事は諦めて、次はUC Berkeleyの国立研究所。アカデミアとしては50%くらいの関わりになりました。6年後には結局、完全にアカデミアに残ることはできなくなって、企業に入りました。
ー やっぱり企業の研究は学術的研究と違うんですか?
私の会社では、最先端の技術を追求するというよりは、製品開発という少し引いたポジションだったので、比較的ついていけました。Ph.D.取得者は実は少なくて、100人の中で10人以下、いや5人以下くらいでしたね。そのため、Ph.D.を持っている人は、それなりにリードできる立場にありました。
ー 日本とアメリカのPh.D.の重みの違いはありますか?
アメリカの会社の研究部門では、Ph.D.をしっかり重視してくれます。私のような物を作る部門では、Ph.D.保持者の必要性は部門によってまちまちです。特に製品開発では、Ph.D.は重要視されます。また、上のポジションに行く人は、Ph.D.取得者が多いですね。まあ、流動的な感じと言えるでしょう。
Ph.D.を考えている学生へのメッセージ
ー Ph.D.は日本で就職に不利だと思っている人が多いんですが、そういう方へのメッセージはありますか?
将来のゴールをどこに設定するかが重要だと思います。純粋に研究がしたいならアカデミアでPh.D.が王道ですよ。そう思っているのに、安易に企業に就職するのはおかしいでしょう。製品開発なら、Ph.D.は絶対条件ではありません。 学生時代に『これを作りたい』というイメージがある人は、関連する会社に入るのがいいでしょう。会社に入ってからでも大学院に入り直して、Ph.D.を取得できるプログラムもありますし、会社もそういったキャリアをサポートしてくれます。私の知り合いでも、企業に入ってからPh.D.を取得した人がたくさんいますよ。それの方が合理的だと思います。
工学部に入ってくる学生は、企業に就職することを前提に考えている人が多いんです。工学部でアカデミアを目指す人は少ないでしょう。5年前に『面白いものを作りたい』と思ったことが、今もベストとは限りません。5年後には状況も変わっているでしょう。 以前考えていたことにこだわる必要はないんです。その時々でベストと思えることをやればいい。Ph.D.も後から追いかけてくるものなんです。
MBA(経営学修士)は典型的で、それこそ本当に必要だから取る学位だと思います。ほとんどの人は何かの仕事をしてから取得しますよ。アメリカではMBAは特にマーケティングや企業戦略で重要視されています。 私が見たMBAの本質は『ネットワーク』です。アメリカでは、ネットワークをどう活用できるかが全てと言っても過言ではありません。友達を作り、人脈を広げるトレーニングを受けるんです。 だから、ハーバード大のMBAが強いのは単純明快で、素晴らしいネットワークがあるからなんです。日本のみなさんは、人脈の大切さを本当に理解できるでしょうか。
アメリカでのネットワークの大切さ
ー とてもわかります。私も現在アメリカ交換留学後のインターンシップにたくさん応募しているのですが、1つも通ったことがありません。今考えれば、ネットワークがないところに応募しまくっていたので当然ですね。
そうでしょう。こちらアメリカでは、ネットワークがないと仕事を見つけるのは本当に難しいんです。転職を考えたら、9割以上はネットワークを通じて行われます。日本では、4年生で卒業して、ネットワークのことを真剣に考える学生はそうそういませんよね。 アメリカでは、ネットワークを通じて仕事を見つけるのが当たり前なんです。
日本では『コネを使って就職するのはよくない』と言われることもありますが、アメリカでは逆にコネを使うのが普通なんです。 4年で卒業してすぐに就職できる人は実際少なくて、むしろインターンシップを経験した人がうまくいっています。夏休みや冬休みを利用して、インターンで実績を作る。インターンシップ先で『この学生はいい』と思われれば、次のポジションも見つけやすくなる。正直に言うと、真面目にネットワークなしで就職活動しても、まず無理なんですよ。
ー 小川さんもネットワークで現在のお仕事を見つけられたのでしょうか?
はい。私の今の会社に就職するのも本当に難しかったんです。アカデミアに11年もいて、もうアカデミアでの仕事が続かなくなった時期に就職活動をしました。でも、知り合いのいない会社は面接さえしてもらえないんです。あるとき、サンフランシスコベイエリアに留学している日本人のコミュニティで知り合いができて、その人づてに会社の面接を受けることができて、職を得ることができました。 そのとき、『コネが使える!』と本当に実感しました。だから、私が阪大北米同窓会に毎年参加する理由の一つは、ネットワーク作りなんです。実際、アメリカでポスドクをしていた後輩の女性は、この同窓会で仕事を見つけて、今は会社でバリバリ頑張っています。 ネットワーク作りは、本当に食い込んでいくという気持ちがないと成功しないんです。
アメリカのリーダーシップとは
ー アメリカの組織ならではの特徴はありますか?
日本は変わってきてるかもしれませんけど、組織のリーダーシップっていうのかな。その考え方が違う気がしますね。日本で学んでたリーダーシップと、アメリカに来てから学んだリーダーシップの内容が違うと思いますね。何が違うかというと、特に日本では、組織の中で地位が年齢とともにどんどん上に上がっていくでしょ。そこにいる人が若いときは下っ端。で、歳取っていったら上に行くと。同じ部署で、同じグループで、同じ会社の中で。アメリカと中国は違うんですよね。トップがあちこち飛んで飛び回るでしょ。
要するにリーダーシップというのは、そういうのに長けた人がリーダーシップを取るんですよ。日本では歳取ったらリーダーシップができるようになってるでしょという感じで上に上がるんですけど、だから本来なってはいけないような人がなっちゃうケースがありますよね。
性格と、その人が生まれてからその歳になるまでに得てきた経験なり、そういうものでリーダーシップが出来上がっていくんですよね。だからリーダーシップの質が違うと思います。順番で回ってくるリーダーシップでは組織は動かせない。
そして今年2024年、アメリカでは大統領選挙だったからわかると思いますけど、トップがコロンと入れ替わって、下の組織は全部入れ替わるんですよ。アメリカでのリーダーシップっていうのはトップダウンで組織を決めちゃう。そういう仕組みなんですね。
日本では組織の意思決定は合議制で多数決で決めるような雰囲気があるでしょ。あれやってたら本当は組織はすぐには動けないですよね。リーダーを決めるのに多数決やってもいいんですけど、一旦リーダーが決まってしまったらその人の意思で、組織の行動、方向性を決めちゃうんです。
だからアメリカでは組織が特に緊急時に動きやすいんです。災害の時とか、ああいう時にはトップの人が自分の責任でこうやれと命令していくんですね。もしうまくいかなかったら私が責任を取るという感じで。そこで多数決で方向性は決めないんですよ。それがリーダーシップなんだというのが分かりましたから。
この3年前のパンデミックの時に多くの会社がどう動けるかが試されました。日々状況を判断しながら、急激に会社の体制を変えていけないといけないという局面の中、アメリカは結構動けたと思うんです。でも日本は結構難しかったと思うんですよね。それはやっぱり体制の作られ方の違いでどうしようもないところがありますね。
私の会社の例で言えば、あの時、PCR検査のキットを作っていました。COVIDが出てきた頃、まだ何者かが分からない状況の時に、ウイルスの塩基配列が読まれて公開されました。その情報をもとに私の会社の十数人のスペシャルチームが、COVIDウイルスをPCRで検査できるキットのプロトタイプを作り上げたんですね。会社の上層部はその重要性を即座に認識して、次に合計40人以上に膨らんで、アメリカの厚生労働省に当たるFDAの認可を得るまで、1ヶ月あまりのスピードで成し遂げました。会社はそのスペシャルチームには、どれだけお金を使ってもいいからプロジェクトを一日でも早く進めるようにしました。その時の有名なエピソードとして、必要ならそのチームは自家用ジェットを使ってもいいという通達が出たということには、ちょっとびっくりしました。それから2年間、検査キットの大量生産と大量医療検査ラボのシステム構築と販売を最優先に方向を変えました。
だからうちの会社はコロナの時、猛烈に儲かったんです。会社の上層部が他の部門は停止でいいから検査キットをガッと一気にやらせる決断をして成功したんですね。それを目の当たりに見て、こういうドラスティックなことが大きな会社でもできるのがアメリカだなと思いましたね。
このように、アメリカの組織は流動的で、非常時に臨機応変に対応できるように作っています。しかし、それはいつもいいわけじゃないんです。働く人の出入りが激しいので、会社で重要な人がいなくなると技術や仕事内容が継承されない。こういう悲惨なことがあって、いい人はどんどん他のいい条件の職場に行っちゃうし、日本みたいに、この人はずっとこの会社にいるぞっていう感覚じゃないんです。そういう人をちゃんと手当てしてないと、他にいい会社が引っ張ってきたらそっちにポイって行っちゃいますからね。という感じで、安定志向の人にとっては、アメリカの会社は向かないと思います。
ー とても勉強になります。
もちろんアメリカのリーダーシップに関しては、好きな人と嫌いな人がいると思います。日本で育った人はついていけない部分は多いと思いますね。慣れるのには時間がかかります。
大学生へのメッセージ
ー 最後に何かキャリア形成について留学する大学生、もしくは海外就活する学生などに関してアドバイスがあればお願いできますでしょうか。
そうですね。自分の興味あることはどんどん興味持ってください。綺麗にやらないといけないことはないです。恥ずかしいというぐらいのベタベタなゴリゴリのことをやっていていいと思います。
とにかく、自分が何が好きなんだ、これが知りたいんだとか、これをやりたいんだっていうのを示すことができたら、アメリカではそういう人を重宝してくれます。自分の意思を伝えられない人はアメリカで住むのは難しいと思いますね。
意思を伝えられるようにするには英語力と思うかもしれませんが、そうじゃないですね。自分のマインドセット、そっちのほうが大事ですね。英語は本気で練習したら、1ヶ月くらいしたら何か喋れるようになります。でもインドセットは簡単には作れません。
ー 分かりました。ありがとうございます。
小川さん: グローバル関西は、いい活動されてると思います。続けて頑張ってください。
ー ありがとうございます。今日はありがとうございました!
ーインタビュー終わりー
終わりに
Ph.D.に関しては、日本では博士号と認識されており、その取得を迷う方も多いのではないでしょうか。しかし、「必要だから取るものだ。あとからついて来る。」「研究が好きだから取る。」という小川さんのお話を聞いて、肩の荷が少し軽くなった方もいると思います。私自身も迷いを抱えた時期がありましたが、今は何かのアカデミアの研究者になりたい訳ではないので、「必要な時に後からついて来る」のスタンスで、ドーンと構えておこうと思いました。
またネットワークのお話に関しても、共感する部分がありました。本記事を編集している私は、現在アメリカに交換留学の最中ですが、僕の実感ではアメリカでは、フラタニティやソロリティ、部活動に入るときに、ネットワークを意識している学生が多いです。日本では、サークルや部活に入るときに、将来の就職活動や人脈形成まで考えませんよね。アメリカでは、大学1年生から積極的に「インターンシップが得られるか?」等人脈の大切さを意識し、自分の納得いくネットワークが得られる団体を選ぶ人の割合が高いようです。
その他、リーダーシップやキャリアについても多くの示唆を得ることができました。総合的に、学生が自身の未来について、深く考える貴重な機会となったと考えています。
本インタビューでは、「小川さんのキャリア」という視点から、日本やアメリカの様々な側面を議論することができました。最後に、小川さんのお話が、より多くの大学生の「グローバル」や「キャリア」を考えるきっかけとなることを願っています。本記事を最後までご覧いただきありがとうございました。
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