【第3回】パーソナルストーリー~次世代リーダーのつくり方~ 三菱UFJアセットマネジメント株式会社常務取締役 代田秀雄さん
「eMAXIS Slim(イーマクシス・スリム)シリーズ」生みの親・代田秀雄さんへの取材の全貌を全5回にわたって紹介します。第2回では「eMAXIS Slimシリーズ」のマーケティング戦略と今後の展望についてお話いただいきましたが、第3回では新規事業立ち上げにおける代田常務のリーダーシップの考え方に迫ります!
【第3回】代田流リーダーシップ〜両利きの経営を成功させるために大切なこと〜
💼 代田流リーダーシップ~新規事業立ち上げ 社内で共感を得るためには「モデルを示し、説明を尽くす」~
小平:代田さんには2016年にグローバル人材戦略研究所が開催している公開講座、グローバルマネジメント研修にご参加いただいています。これまで110社以上の皆様にご参加いただき現在も継続しているこの講座では海外で伝わるコミュニケーション、マネジメント、部下育成はじめ、駐在員のリスク管理にも対応した内容を異業種交流型で学ぶというものです。リーダーシップは『あり方を描くこと』、マネジメントは『やり方』という違いがありますが、代田さんのリーダシップ、すなわち「eMAXIS Slim」という旗を揚げ、方向性を提示し、まわりに働きかける際に大切にしていたことをお聞かせいただけますか。当時はアクティブファンドが9割を占める社内でのインデックスファンドの展開ですから、いわば新規事業の立ち上げだと思うのですが、もちろん社内でも反発がありましたよね?
代田さん:会社の収益の主軸はアクティブファンドですから、収益性の低いインデックファンドの推進には確かに反発はありました。反発の理由は、収益性の高いアクティブファンドが収益性の低いインデックスファンドに置き換わるだけで、運用会社にとっては利するものがないという意見でした。私からはアクティブファンドとインデックスファンドは二者択一ではなく、インデックスファンドで投資を始める人が増えれば、アクティブファンドの市場も拡大するはずであると説明しました。実際NISAによってインデックスファンドで新たに投資を始める人が増えています。インデックスファンドは「コア」(核)となる投資ですが、投資に慣れてくると、リスクをとって高いリターンをめざす「サテライト」(衛星)としてのアクティブファンドも探し始めるという人も出てきます。投資家にとって、「eMAXIS Slim」でコアとなる投資をしっかり固めたうえで、優良なアクティブファンドにサテライトとして投資するコア・サテライト戦略は、投資家が長期にわたって投資を継続していただくためにとても大切な考え方です。
小平:クリステンセンは「イノベーションのジレンマ」において組織能力は資源・プロセス・価値基準から構成され、そのうちどれがかけても組織の力にはならないと指摘していますがまさに自社が何を大切にするのか(しないのか)という価値基準を明確に打ち出されていたのですね。
代田さん:今、当社に転職して来られる方のなかには三菱UFJアセットは「eMAXIS Slim」という強みを持つ会社という捉え方をされている方が多くなりました。しかし、「eMAXIS Slim」がこれほどの成功を収める前には、運用会社として儲からないインデックスファンドに注力して投信市場の収益性を悪化させているとか、自分はもっとアクティブファンド領域で能力発揮したいのにアクティブファンドをやる気がないと言ってやめていく人もいました。全ての社員に理解してもらうのは難しいものですが、収益性の低いインデックスファンドを規模でカバーし当社の収益の柱に育てることができれば、この資金は非常に粘着性の強い資金であるために、会社にとって安定的で強固な収益の柱にすることができます。こういう収益基盤があれば、運用成果が上下し、キャッシュフローが不安定なアクティブファンドへも一層注力できるはずで、こういったビジネス戦略のストーリーは当社独自のもので、他社はやっていませんしできません。今までの改善・ベターではなく、ディファレントなことをいかに早く打ち立てて企業の独自の経営戦略ストーリーとして発信し、共感してもらうことが大切だと思います。独自の成長ストーリーはリスクを取りに行かなくては実現できません。
小平:今までの改善・ベターではなく、ディファレントなことを、という点、非常に興味深いです。オライリーは「両利きの経営」で既存事業の深化・改善だけでなく、新たな事業への知の探索が必要だとしていますが、前者がベターに対して、後者はディファレントと言えます。「eMAXIS Slim」などはまさにディファレントの探索の賜物のように見えますが、その土台には、先ほど述べた明確な価値基準があり、さらに自社独自の経営戦略ストーリーとして発信・共感を得ているというプロセスがあるのですね。通常、商品・サービス自体の良し悪しに目が向きがちで「eMAXIS Slim」の場合は安価な手数料がフォーカスされますが、それは海の上に出ている氷山の一角のようなものであり、実際の海面下では明確な価値基準・発信・共感があるのだと理解できました。
執筆:インターン 飯田知世(慶応義塾大学 政策・メディア 修士1年)