【第2回】パーソナルストーリー~次世代リーダーのつくり方~ 三菱UFJアセットマネジメント株式会社常務取締役 代田秀雄さん
「eMAXIS Slim(イーマクシス・スリム)シリーズ」生みの親・代田秀雄さんへの取材の全貌を全5回にわたって紹介します。第1回では「eMAXIS Slimシリーズ」の誕生から今日に至るまでの発展の経緯をお話いただいきましたが、第2回ではマーケティング戦略に迫ります!
【第2回】マーケティング戦略はファンとともに
👥 情報開示と対話、そして共感
小平:第1回の最後では、インデックスファンドは社会のインフラを目指しており、また広く受け入れられることが、アクティブファンドの質の向上にもつながっているということをお伺いしました。ところでインデックスファンドについて広く個人投資家・国民に認知してもらうべきだということですが、「eMAXIS Slim」を始めた時にはどのようなマーケティング戦略をとって広めていったのでしょうか。
代田さん:「eMAXIS Slim」の特徴はコストの安さです。広告宣伝費を多大に掛けるとその分コスト高になり、最終的には投資家の負担になってしまいます。そこで広告宣伝費をできるだけ抑える一方で、ブロガーなどのインフルエンサーとの対話を重視したファンベースマーケティングに取り組んできました。今でこそインフルエンサーという言葉は一般化していますが「eMAXIS Slim」の前身である「eMAXIS」がスタートした2009年頃から、ブロガーの方との対話の場であるブロガーミーティングを継続的に続けています。ブロガーとの対話を通じて、そこで出された新たな商品開発への要望や既存ファンドの商品性改善、そして情報発信の仕方などのご意見に応えるかたちで、ブロガーの方との信頼関係を深めてきました。結果として「eMAXIS Slim」の良さを納得してもらい、ブロガーが「eMAXIS Slim」に対する見方を発信することで「eMAXIS Slim」ブランドがクチコミで広がっていきました。このような無形資産とも言える関係性はこれからもしっかりと継続して育んでいきたいと思っています。
小平:ファンベースマーケティングに関連し、2つの概念を紹介したいと思います。一つは、コ・クリエーション(共創)です。「Co=共同の、相互の」「Creation=創造」と文字通り、顧客参加による価値創造のことですが、ユーザーを単なる購入者として見ているのはなく、一緒に新しい商品・サービスを生み出す「パートナー」として関係性を育んでいるという代田さんのスタンス・ものの見方を知ることができました。
もう一つは、コ・クリエーション(共創)のベースとなる、ファンとの対話です。議論と対話は異なります。議論(discussion)は相手と正面から向かい合い、自分か相手か、どちらが正しいか白黒をつけるようなアプローチ、いわば勝ち負けのコミュニケーションですが、対話(dialogue)は、もともと古代ギリシア語で「意味を共有すること」という意味ですが、お互いに同じ方向を向き、あるべき姿とともに模索する、というものです。
代田さん:そうです。参加させていただいた公開講座でもありましたが、まさに対話が大切なのです。
💰 「直販」という新たな取り組みへの挑戦
小平:新規プロジェクトであった「eMAXIS Slimシリーズ」ですが、更なる成長・発展を期待しています。何かこれから新しく取り組んでいきたいとお考えですか?
代田さん:弊社は「eMAXIS Slimシリーズ」という商品をつくっている、いわば「メーカー」であり、販売は銀行や証券会社などが行っています。メーカーですから、販売時にお客さまと直接接点がなく、お客さまがどういう点を気に入って私たちの商品を購入していただいたか、あるいは何が気に入らなかったのかが分かりません。メーカーとしては気に入っていただけなかった点を改善していくというサイクルが重要で、そういうお客さまの声や反応を吸収できるのが直販です。加えて、もしかしたら今後販売会社が儲けの薄い「eMAXIS Slimシリーズ」を扱わないという時代が来ないとも限りません。そのために自分たちでつくったものを直接投資家に届けられるチャネルもさらに強化していきたいと考えています。
小平:ユニクロや無印良品などアパレル企業にSPA(製造小売業)といわれる、製造から販売まで垂直統合したビジネスモデルがあります。グローバル人材戦略研究所でインターン をしていた山﨑理子さん(パーソナルストーリー #2 Note URL)は東洋経済でアパレル業界担当の記者として、まさにユニクロの担当をしたり、無印良品を展開する良品計画の社長インタビューなどをしたりしていますが、このような製造小売業のモデルを金融業界で実現されたい、ということでしょうか。
代田さん:自分たちで実際にお客さまに販売してみると、お客さまの関心事がどこにあり、またお客さまにとって魅力的なUI・UXとはどんなものだろうか、またどのような状況でホームページからの離脱率が高くなっているのかなどを知ることができます。メーカーとしてファンドを作って終わりではなく、どうすればお客さまの手元に届けられるか、それを実感できることが重要です。またそういった取り組みを通して、インデックスファンドという安定的な資産形成の基盤を作る、まさにインフラビジネスをさらに展開していきたいと考えています。
執筆:インターン 飯田知世(慶応義塾大学 政策・メディア 修士1年)