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「見た目の「快」はリーダーの必要条件」:『日経ビジネス』寄稿

※本記事は『日経ビジネスオンライン』に掲載された日野江都子の寄稿記事からの転載です。

「見た目の「快」はリーダーの必要条件」仏マクロン大統領の勝利を支えた「紺」の効果

 今年5月、フランスでは同国史上最年少・39歳という若さ年齢の新大統領が誕生した。エマニュエル・マクロン氏だ。

 選挙活動の間、彼は大衆に向けてメッセージを伝える際に、常にネイビーのスーツを着用していた。勝利宣言でもネイビーのスーツとネイビーのネクタイ、そして白のシャツという、王道のスタイルを貫いた。

 マクロン新大統領は、就任後も活動の重要なシーンではこのスタイルを貫いている。5月14日、大統領府で就任式に臨む時にもネイビーのスーツとネクタイ、初の外遊でドイツを訪問してメルケル首相と会談した時や、先のG7の際にも同様の装いだった。

 そもそもネイビーを基調とした装いには国際舞台に通用するクラシカルさやオーセンティックさがある。

 ネイビーという深い青みは、「知的」「精悍」「冷静な頭脳」「落ち着き」「若々しさ」「爽やかさ」「清潔感」、さらには「現役感」や「力強いパワー」などを、見る人に認知させる。ただ悩ましいのは、このネイビーという色は、自信や意思のない人が身に着けると、まるで制服を着ているように映ったり、「つまらない格好」に見えてしまったりもする。

 その点、今回のマクロン仏大統領のネイビーの着こなしは印象的だった。

 彼のネイビーの装い方はフランス人が得意とするシックで粋なエスプリと、大人の成熟を感じさせるものだった。

 ひと言でネイビーと言っても様々な違いがある。暖色よりなのか寒色系なのか、その中でも明度や彩度などの違いも細かくある。マクロン仏大統領が大統領選などでよく着用していたのは、きめが細かく、適度なつやのある素材のダークネイビーのスーツで、ドレスシャツは真っ白、ネクタイは無地でやや細めの幅のダークネイビー。

 きりりとした清潔感のある配色は、洗練された印象や、高潔で颯爽とした存在感、意志を持った力強さを表現している。セミワイドのシャツの襟は、個性的すぎず、保守的でもなく、とてもいいバランスだ。少し細めの幅のネクタイが、不要な重苦しさや古さを払拭し、いい具合の若々しさを演出していた。

 大統領選の勝利宣言の場では、会場上から当たるライトによって、スーツが品の良い光沢を放っていた。装いに派手な色や柄は使われていない。いや、だからこそ、彼本人の存在の輪郭が見事に際立っていたのだ。

 勝利宣言後、日が暮れた後に国民の前に登場した時には、その演出も含めてとにかく絵になっていた。ネイビーを着用したことで、「若さゆえの百戦錬磨ではない、ちょっと緊張している様子」や「新鮮で真剣」などが見ている人々に伝わったからだ。もしここでグレーのスーツを着用していれば、マクロン新大統領はあれほどパワフルには見えなかったはずだ。

 彼の政治家としての経験値の低さや若さは、ともすればフランスをこれから率いていくうえで弱点ともなり得る。だがこうした弱点となりそうな部分を、ネイビーのスーツを着用したことで、「新しい時代の到来」を象徴する武器に変えたのだ。これは政治家を始め、リーダーとなる人物に不可欠なポイントだろう。

見た目の「快」を保てるか
 大切なのは、視覚における「快」すなわち「likeability」を保てるかどうかということだろう。

 見ている者が望む・望まないにかかわらず、一国のリーダーの姿は多くの人がメディアなどを通じて定期的に目にするはずだ。そんな存在が視覚的に「不快(もしくは引っ掛かりや疑問を抱かせるものがある)」であれば、それはリーダー失格とも言える。見た目が「不快」ではない存在だということは国民の社会生活に良い影響を与え、サブリミナル効果によって精神衛生を正常に保つ意味でもとても大事だろう。

 似合うことでもなく、個性の表現でもなく、欧米人がとても大事にする「appropriate(相応さ)」という基準で、ムダなものを削ぎ落とし、基本かつ高貴や王道の印象を与えるネイビーで、新大統領となることに賭けたマクロン氏。今回の仏大統領選の勝利を支えた大きな存在が、ネイビーの装いだったと実感している。

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