右上り×紺」戦略か? 日米会見に見る「ビジュアル・パワーゲーム:JMCAウェブサイト 寄稿
*※本記事は『日本経営合理化協会 ウェブサイト』 2018年5月4日に掲載された
日野江都子の連載コラムからの転載です。
先月4月17日に行われた日米首脳会談@米フロリダ州パームビーチ。
会談の内容はいつものごとく大手メディアにお任せするとして、国際舞台を背景にした際、リーダーのプレゼンスとして視覚的に気になることを切り取り解説いたします。
今回の会談・会見も多くの写真がメディアで公開されていますが、大きく取り上げられているのは、安倍首相・トランプ大統領共に示し合わせたかのように同じ装い。紺のスーツ、白のシャツ、紺地に細い白の右上りストライプ(ブリティッシュ・ストライプ)タイ。
参考画像
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20180418000454.html
何が特に気になったかというと、普段からストライプのタイは比較的多い安倍首相ですが、その9割がたは右下がり(アメリカン・ストライプ)。「安倍首相」をネット検索して上がってくる画像一覧を見れば一目瞭然。一方、トランプ大統領がストライプを身につける時は常に右上りのタイ。ということは、安倍首相はこの右上りのストライプ・タイを、わざわざ今回の会見にぶつけてきたのでしょう。
そうだとすると、安倍氏の目的はそれを目にする人たちにトランプ大統領(アメリカ)と“同様・同等である”という意思を表示すること、そして相手に共感を抱かせる(少なくとも敵意は無い事を示す)こと。万が一トランプ大統領がストライプ・タイをしてこなかったとしても、常に彼が身につけているタイプのものをつけている安倍氏を、無意識下で異物としては扱いづらくなるわけです。
重要且つシリアスな意見をぶつけ合わなくてはならないけれど、融合ポイントを見つける必要のある会談の場に、落ち着きと威厳、知性と冷静さを感じさせるネイビー、そして右上りストライプでスタイル(好み・価値観・意識)の方向性の同意と共感を示したというところでしょうか。
フロリダ滞在中、その他のシーンでは、いつものごとく右下がりのストライプ・タイを身につけている安倍首相。ディナーに向かうシーンの参考画像がこちら。
参考画像
http://www.afpbb.com/articles/-/3171569?pid=20040595
会見の場では、遠目無地「青」のタイ。今回の訪米では、終始「青・紺」系のタイ。
参考画像
https://mainichi.jp/graphs/20180419/hpj/00m/010/001000g/8
一方トランプ大統領も然りで、タイは「紺・青」そしていつもの如く全て「右上がりストライプ」。フロリダにいる際のトランプ氏は、比較的明るい(薄い)色のタイをすることが多いのですが、今回の会談は、感情的にならず落ち着いて攻め込まねばということだったのでしょう。
ちなみに、今回のフロリダ訪問だけでなく、常に安倍首相の気になる部分としてあげる、スーツのネイビーの色選びが明るすぎて重みが足りないこと。本来、この方個人には合っているネイビーの濃さなのでしょうが、それはあくまで「この方中心」の考え方。「どういう立場」で「誰と」「どのような場」で会い、「何をする任務」があるのか? とりまく環境や状況、役割、目的を考えれば、ご自身の身を助ける有効なツールとしてのスーツの選び方かわかりそうなもの。もっと濃い紺にする方が存在感に重みが加わり、良いわけです。今回のフロリダ訪問時のスーツは、ライトが当たると光って明るくなりすぎ、自然光の下でもとても明るく見えます。それは写真に顕著に表れています。明るく見えるということは、よく言えば軽快な印象を与えますが、国を背負いシリアスな場面に直面している役割の人としては軽すぎます。元々の体格だけでなく、深い紺色のスーツを着用したトランプ大統領の方が、ずっしり「揺れない(自分たちの意向を譲らない)」というメッセージを視覚情報で宣言し、プレッシャーをかけることができています。また、この明るいネイビーを「良い」とする安倍首相の意識・認識がここに現れていると言われてしまっても仕方がないだろうというのが正直な見解。
特にグローバル社会では「似合う」でも「おしゃれ」でもなく、役割を果たす・仕事の文脈にあったものを選ぶ=「相応しいものを認識する」ことが重要。それを最初の0.1秒で無言のメッセージとして示せなければ、アドバンテージは取れないのです。腕相撲でいえば一瞬で手首を返すことができかどうかと同じなのです。
その他、このお二人といえば忘れてはいけないのが「握手」。今回は、グイッと腕を引っ張られることも、ブンブン振り回されることもありませんでしたが、握りあった手の上にポンポンとされる仕草はありました。これは嫌な相手には決して行わない仕草ですが、自分よりも下の(弱い・小さい)相手に行うのが常。
参考画像
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20180418000456.html
トランプ大統領にそうさせてしまう原因の一つは、安倍首相の握手の仕方に原因があります。なぜなら彼の握手はとても弱い。握る力はどれくらいか判断しかねますが、視覚情報として確認できる弱そうに見える大きな原因は、手首が曲がる(しなる)ところ。これでは「弱い・受け身」という印象を与えます。握手する際の手は、腕からまっすぐ力強く出し、決して曲げない。(パワーを示す場合、直線的であることが重要。「首」とつく部分を曲げたりしならせたりすると、か弱さを示します)。以前、握手の際にグイッと引っ張られたのは、この弱さが原因。相手に「自分が主導権を取れる」と確信させてしまいます。握手というのは、ただ手を握ればいいというものではありません。握手は最初に相手の体に触れる瞬間です。どれだけ相手にパワーがあるか体が判断しています。日本でも握手をする方が増えてきましたが、正しいやり方を知らずに行なっているケースがほとんどでしょう。損をしている部分が非常に多いことを是非頭に入れておいていただきたいものです。
それにしてもトランプ大統領、最近きちんと上着の前ボタンをかけているところを多く目にします。それは今回の会談時の写真も然り。あちらこちらから様々なスキャンダルが出て「今度は何が飛び出すのか?」と、上着の前くらい閉じて身を守りたい心理の表れなのかもしれません。
日本のリーダーの気になる部分ばかりクリティークしてしまいましたが、一つ日本側にとって良いコメントを発見しました。アメリカ人の男性イメージコンサルタントが「これ(今回の会談の写真)を見た人の中には、二人の装いがまるで一緒で、安倍首相がトランプ大統領の真似をしたという人がいるが、僕はそう思わない。(中略)安倍首相の方がきちんとしている。トランプ大統領はいつもネクタイが長いですからね」と書いてくれていました。「きちんと感」は確かに日本の方が安定感をもって示せているでしょう。ある種、日本的な社会性質の中で身についたことですから。アメリカの印象・視覚情報の専門家にそれを判断してもらえているとは嬉しいことです。とはいえ、「きちんと感」と、リーダーとしての「威厳」や「重厚感」はイコールではありません。そこが総合的に見た日本人リーダーの悩ましいところであり、今後の大きな課題といえます。
人の見た目には、その人の心理や思考が顕著に現れます。特に様々な言語が存在するグローバル社会では、一目見たときの視覚情報こそが決め手。オシャレや似合うよりも大事なのは「相応さ」、いかにリーダーとしての意思を示し、どうしたらビジネスを一瞬で制することができるプレゼンスにできるかを戦略的に練ること。そして何より、それらをどれだけ自分の習慣にできるかですね。
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