企業のトップたる服装戦略 -[特集1] 社長は最高の広報パーソン- :『PRIR』寄稿記事
※本記事は『PRIR』創刊号 5月号(2005年)に掲載された日野江都子の寄稿記事からの転載です。
8人のトップエグゼクティブの方々に共通していることは、装いにおける基本ルールと、企業のイメージ戦略・ブランディングを十分理解したうえで、「会社のイメージづくりは社長自身のイメージ」をアピールするための最適なツールが写真であることにフォーカスできている点である。
ヴァージン アトランティック航空のサー・リチャード・ブランソン氏、グラクソ・スミスクラインのマーク・デュノワイエ氏の両氏に見られる、ポートレート用衣服を選ぶ際の、そのセレクトやコーディネートに冒険的・挑戦的なウィットを取り入れている例と、そのほかの方々に見られるトップエグゼクティブがビジネスの正式なシーンで装うための基本スタイルである、紺やチャコールグレーのダークスーツに白いワイシャツ、パワータイの代表赤系のネクタイや、信頼感と知性を印象付ける紺地のネクタイというスタイル。これらは一見両極物のようにも見える。しかし、どちらも正しいポートレートなのである。その社長の写真を見た人々に、その企業が発信したいイメージを伝えることができるポートレートであることが、最重要事項であると言えるからだ。
写真のように、動かずしゃべらない物を世に出すということは、その写真を見た人が抱いたイメージが一人歩きする可能性が非常に大きい。そしてそのイメージは、そこに写っている社長のビジュアルイメージからくるものである。
メラビアンの法則でも提唱されているように、人のイメージに最も影響を与えるのは外観である。従って、社長の写真撮影の場合、被写体の装い・グルーミング・表情・ポーズがイメージのすべてで、それがダイレクトに企業のイメージとなってしまうと言える。企業と社長のイメージの合致、そして求めるイメージにふさわしい理想的なものにする必要があると言える。
その際に気を付けなければならないことがある。「ポジション相当の良い物を身に付ける」これは非常に大切なことだが、それはブランド物を身に付けるということではない。ブランドの物を身に付けること自体は良いのだが、それがどこの商品であるかが一目で分かるロゴなどの入ったアイテムを取り入れるのは、取り入れたブランドの宣伝をしていることにつながり、その時点で本来アピールすべき自分の企業・そこの社長としての自分自身は主役ではなくなってしまっている。写真のみならず、ご自分や企業という、ある種のブランドを背負って人前に出る際には、ほかのブランドを前面に出すのではなく、自分と企業というブランドを引き立てるために、イメージづくりに有効なブランドを、その色が出過ぎないようにうまく取り入れていくことがひとつの鍵となる。
そう、写真でのイメージづくりで注意すべき点は「その装いで写真を撮ることによるメリットをどこにおくのか?」、「どのような企業および企業トップのイメージを、どのように世間に刻みつけたいのか?」である。その部分を明確にできていないと、不特定多数の人の目に触れた際に、つくりたいイメージや欲しい評価を的確に得られる、効果的な写真にならない、ひいては企業のブランディング、イメージづくりは叶わないということになってしまう。
そうならないためには、会社の個性と社長自身のもつ個性とのバランスによる服装のコーディネートと、質の良い素材の衣服選び、顔立ちとシャツの襟、それとベストバランスのきれいに結ばれた光沢のあるネクタイ、カジュアルダウンする際には、そのメリットとデメリットの足し算・引き算をしっかり戦略的に計算することが必須なのである。社長のパーソナル・ブランディングは企業のブランディングである。おしゃれに見えるか否かではなく、職種・ポジション・目的を企業戦略のひとつとして考慮すべきなのが、企業のトップたる方々の服装戦略なのである。