日米首脳会談、長い握手が示した日米の“力関係”:『日経ビジネス』寄稿
※本記事は『日経ビジネスオンライン』 2月号(2017年)に掲載された日野江都子の寄稿記事からの転載です。
日米首脳会談、長い握手が示した日米の“力関係”異様だった「19秒の握手」でトランプ大統領が誇示したもの
「滑稽」「ぎこちない」と形容されながらも、トランプ大統領が日本の首相と19秒も握手をしたことが話題になった。
一部の報道ではこの握手を、日米間の固い信頼の証しとも解説しているようだが、イメージコンサルタントである私の立場から見ると、この握手には強い違和感を覚えた。
握手では、トランプ大統領が終始、力任せに安倍首相の手をグイグイと引っ張り、安倍首相はトランプ大統領に引っ張られる通りにならないよう、何とか踏ん張っていた。安倍首相の様子は、まるで腕相撲の強い相手に弄ばれているかのようだった。
2人の座る位置関係も影響しているが、安倍首相は握手をする手を遠くから差し出す姿勢を取らねばならず、しかも報道陣に向けて体を正面にしようとしており、どうしても腕に力が入りづらくなったのだろう。
それを知ってか知らずか、脇をしめ、肘の角度を90度に固定したまま、腕に力を込めるトランプ大統領。わずか19秒の握手でさえ、トランプ大統領は安倍首相の不意を突き、そして自分の“やり方”を貫いていた。
この19秒間の握手の最中に、トランプ大統領は2度ほど、握手している手とは別の手を握手の上に添え、ポンポンと軽く叩いていた。
通常、握手の最終にもう片方の手を添えるのは強い親愛の情を示す。しかしトランプ大統領のこの仕草は、まるで自分よりも小さく、弱い存在を可愛がるような印象で、安倍首相への強い親愛というよりも、安倍首相との力関係を報道陣に見せつけたいという狙いが透けて見えた。
握手直後、「参った」表情を撮られた安倍首相
握手は、米国では非常に重要視されるコミュニケーション手段で、政財界のあらゆるシーンで欠かすことはできない。
基本は、相手に向かってまっすぐと腕を伸ばし、相手の手をがっしりと強く握り、目と目を合わせて、笑顔で挨拶をしながら、握った手を上下に数回振る。あまり細かく振るのは落ち着きがなく見え、振らなすぎるのもやる気がなく見える。
だが今回の安倍首相のように手首を曲げてしまうと、それだけで“パワーレス”の印象を与えてしまう。首脳会談など、政治的なメッセージを発するシーンでは本来ならば、特に注意をしなくてはならなかったのだ。
握手後、トランプ氏は親指を立て、ご満悦の様子でポーズをとっていた。対する安倍首相はといえば、強い握手から解放された直後の「参った」という表情を、うかつにも報道陣の前でさらしてしまい、その表情はテレビやネットを介して世界中に広がった。
今回の握手は、終始トランプ大統領が力関係の違いを見せつけたという点で、極めて異様で、日本人にとっては非常に残念なものだった。
唯一、評価できるとすれば、潔癖性で知られるトランプ大統領が、19秒に及ぶ長い握手をしたことの意味だ。少なくともトランプ大統領は、安倍首相のことを「嫌いではない」、むしろ「身近な存在」と感じており、「可愛がっておこうか」と思っているように”見える”ということだ。
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