3)パヤパヤ頭だけど何か質問ある?─言う話す系の動詞【金カムロシア語】
前回のロシア語台詞の大前提を元に、三回目は一旦戻って144話。
杉元の「妙案」と共に行方不明で終わった「情報」の話。
【読了まで 4分】
ゴールデンカムイのロシア語台詞を楽しむシリーズだよ。
単行本読了済みであることを前提に執筆しています。
作者と監修がつけた日本語とロシア語の台詞の差異から物語を掘り下げていきます。
ロシア語には縁が無いよって方にも楽しんでいただけるよう書いています。
ロシア語解説:
今回のお題の台詞とロシア語の再訳は以下の通り。
さて、ここで使われた動詞から確実に「情報があった」と見なせるかどうか。杉元の妙案が行方不明な中、情報の方は確実に存在したのか。存在したならそれはどんな情報だったのか、という話。ロシア語の「言う/話す」系の動詞がそれぞれどの範囲を担っているかの話だよ。
ロシア語の「言う/話す」系の動詞と言えばこの二つ。
✅говорить [ガヴァリーチ]
⇒ 話す行為自体を指す。語源は「音を模倣すること」。
✅сказать [スカザーチ]
⇒ 言語を用いて何らかの情報(簡潔で確定的なもの/具体的なもの) を伝えること、明らかにすること。
だから『チタタㇷ゚って言え!!』の「言え」には「говорить [ガヴァリーチ]」を使う。
「сказать [スカザーチ]」を使う場合はチタタㇷ゚を明らかにすることに焦点が当たる。
で、今回使われてる動詞は「рассказать [ラスカザーチ]」。
「сказать [スカザーチ]」の前にブースター数文字くっ付いた動詞で、意味の解像度が上がっている。この動詞の担う範囲は「簡潔な回答」ではなく「事細かに解説/説明すること」「物語ること」「エピソード」になる。
つまり、さんざん脅迫を試みたものの何一つ刺さらなかった挙句やっと出てくる「物語る(рассказать [ラスカザーチ])」てのは、行方のような簡潔で明らかな情報はないってこと。表題通り「何でも訊けよ。知ってる限り何でも喋ってやるから」ってこと。
もちろんその中には有益な情報が含まれてる可能性もあるっちゃあるけど…川で砂金掘りするようなもんだね。これ砂金掘りやめて金塊探しするお話じゃなかったっけ?
ちなみに日本語台詞から露作文してみたのが以下。ここまで引っ張っといてごめんだけど「言う/話す」系の動詞は使わず「私には~がある(У меня есть ~ [ウ・ミニャー・イェースチ])」という構文を使っている。ごく初期に学ぶ、使い勝手の良い構文。
🟦ロシア語台詞
⇒ ゴールデンカムイの世界で実際に発せられた言葉(客観的事実)
🟥日本語台詞
⇒ 上記を会話相手がどう受け止めたか(主観的事実)
日本語台詞にはバイアスが掛かっている。つまりここの日本語訳は、続く月島の『こいつの情報がまだあるのか? 行方を知ってるのか?』を聞いて周囲が推察した…厳密には杉元の妙案に最後までこだわることになる鯉登が「情報があると言ってるんだろう」と推察して受け止めたことを示してる。
そして読者は鯉登と共にこのエピソードを読むことになり、結局、情報も妙案も行方不明なまま終わるわけだから…
存在しないんだ、妙案だけでなく情報も。
そういうあれこれの詰まった「рассказать [ラスカザーチ]」という動詞。
考察:
では、もし八百長の末「рассказать [ラスカザーチ]」してもらえることになったなら、どんな話を事細かに物語ってくれるつもりだったんだろうか。
先遣隊が知らない(けど読者は知っている)「写真の男」のこの村でのエピソードっていうと走馬灯で垣間見た部分だけなんだよね。だから要するに…
スチェンカでボコられた話だと思うよ、たぶん。
ロシア語台詞は単行本を基本とします
明らかな誤植は直しています
ロシア語講座ではありません
文法/用法の解説は台詞の説明に必要な範囲に留め、簡素にしています
ポイントとなる言葉にはカナ読みを振りましたが、実際の発音を表しきれるものではありません。また冗長になるため全てには振りません
現実世界の資料でロシア側のものはロシア語で書かれたものにあたっています。そのため日本側の見解と齟齬がある可能性があります