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6)ボンボンがバルチョーナクなら箱入り娘は何て言う?【金カムロシア語】
鯉登『ロシア語でバル……バルチョーナクとはどういう意味だ?』
月島『Барчонок? 貴族の少年とか そういうものをからかう感じで つまり……「ボンボン」です』201話
✅「барчонок [バルチョーナク]」⇒ 貴族や地主など良家の子息(転じて坊々)
今回はそんな「барчонок [バルチョーナク]」系の言葉を抜き出してみるよ。
【読了まで 2分】
ゴールデンカムイのロシア語台詞を楽しむシリーズだよ。
単行本読了済みであることを前提に執筆しています。
作者と監修がつけた日本語とロシア語の台詞の差異から物語を掘り下げていきます。
ロシア語には縁が無いよって方にも楽しんでいただけるよう書いています。
まずは182話。「барчонок [バルチョーナク]」の女性版。
✅「барышня [バルシニャ]」⇒ 貴族や地主など良家の息女(転じて箱入り娘)
ソフィア『Я была барышней, которая нигде, кроме большого города, не была.
(都会のことしか知らないお嬢様だったわ)』182話
もちろん「お嬢様」でいいんだけど『都会のことしか知らない』とセットなら「世間知らずの箱入り娘だったわ」という自嘲が込められているだろう。
バルチョーナクもバルシニャもそれ自体が悪口なわけではない。嫌味な感じで言えば嫌味になる。日本語と同じ。
但し「кисейная барышня [キスィーナヤ・バルシニャ](モスリン(のドレスをお召しの)お嬢様)」と言った場合にはガチの悪口(※男性に言う場合もバルチョーナクに変えずこのまま使う)。
甘やかされ、世間の荒波を渡っていけなさそうな人。
成り立ちは19世紀前半。高価なモスリン生地で作られた、薄くてふわふわした可憐なドレスの繊細で浮世離れした雰囲気と、そんなドレスに身を包んでいられる良いご身分の、繊細で浮世離れした性格や言動とのイメージの一致から生まれた皮肉。
だから鯉登少年をボロクソに言いたいなら、この「Кワード」にすれば良かった。
月島と尾形が同じ誤謬を冒していることから、情報の出どころが同じ(=ロシア語教師が同じ)と判るわけね。
続いて179話から。キロランケを称して。
✅「сынок [スィノーク]」⇒「сын」は「息子」の意。「坊や」。
ソフィア『Ну, прощай, сынок.
(元気でね 坊や)』179話
[ヌゥ・プラシシャーイ・スィノーク]
170話から。40歳越えたキロランケを称して。
✅「малолеток [マラリェータク]」⇒「мало(少ない/足りない)」+「лето(年齢)」で「少年」。
ソフィア『Вернулся, малолеток
(戻ってきたね 坊や)』170話
[ヴィルヌールシャ・マラリェータク]
191話から。キロランケに対して。
✅「дружок [ドゥルジョーク]」⇒「友人」
ソフィア『Ну бывай, дружок…
(さようなら 坊や)』191話
[ヌゥ・ブヴァイ・ドゥルジョーク]
あえて話数順ではなく時系列順で紹介してみた。こうして並べると日本語では全て「坊や」だけど、ロシア語では少しずつ変化していて、繊細に表現されているのが分かる。
最終的に283話の演説の中で「товарищ [タヴァーリシシ]」⇒「同志」と呼ばれる。
ロシア語台詞は単行本を基本とします
明らかな誤植は直しています
ロシア語講座ではありません
文法/用法の解説は台詞の説明に必要な範囲に留め、簡素にしています
ポイントとなる言葉にはカナ読みを振りましたが、実際の発音を表しきれるものではありません。また冗長になるため全てには振りません
現実世界の資料でロシア側のものはロシア語で書かれたものにあたっています。そのため日本側の見解と齟齬がある可能性があります