変わっていくものと変わらないもの
鵤誠司さんにとって、今シーズンは転機のシーズンになるかもしれない。
鵤誠司さんが、スタメンから外れてもう4ヶ月が経とうとしている。
思い起こせば、プロキャリアをスタートさせた広島ドラゴンフライズの頃から、コンスタントにスタメン起用されてきた。
ブレックスが3度目の日本一になった時も、鵤誠司さんはスタメンで起用されていた。
去年に至っては全試合スタメン出場だった。
その彼が、今は2番手としてコートに立っている。
12月に体調を崩し、欠場した試合以降スタメンは遠藤祐亮に、1番ポジションはDJニュービルが担うことになった。
今シーズンからニュービルが加入したことにより、OFの起点がDJニュービルと比江島慎の2人体制になった。また佐々HCの代表ACの経験から3Pに重きを置くプレースタイルにチーム自体が変わっていった。このことで2番ポジションを担うことができ、今シーズン3P成功率40%以上を保ち続けている好調の遠藤さんをスタメンとして起用することになったのだろう。
スタメンから外れた彼が今何を思っているのか、どのような壁にぶつかっているのか、そもそも壁にぶつかっているのかどうかさえ分からない。
だけれども、彼自身スタメンで出ることに対して拘りがないことだけはなんとなくわかる。
何故か。彼は元々主役になりたい人ではないからだ。
前述の3度目の日本一を獲った時、大会MVPに選ばれたにも関わらずカメラの前で語ったのは「自分はそれなりにやってるだけだから」だった。
他のインタビュー映像の中でも「点を取れる人がいるので、自分は中継役。」とも語っている。
自分が活躍することは二の次なのだ。それよりも勝つためのゲームを作ることの方に重きを置いている。
PGというポジションでは時にエースで司令塔を担う選手も少なくない。例えば富樫勇樹や河村勇輝、安藤誓哉や斉藤拓実などはそのような位置付けであろう。
それでも、わたしはとことん脇役に徹することができるPGが好きだ。
OFにおいて自分自身が得点を取りに行ってチームを勝たせるのではなく、仲間が得点を取りやすいように、それによってチームを勝ちに導けるように構成していくPGが好きだ。得点よりもアシストが多い方が嬉しい。
DFでは最前線から当たっていき、絶対に速攻を止めてやる、速攻からの得点は許さない、という意思が見える方が好きだ。DFの起点が自分自身であることを自覚しどんな相手でも真っ向から勝負する方が好きだ。
そしてそれを体現してくれているのが鵤誠司さんだと思う。
スタメン起用から外れて、一つ気づいたことがある。
それはどんな状況でたとえビハインドを追った状況でも、流れが相手に傾いている状況でも、彼のゲームメイクは試合を落ち着かせてくれる、ということだ。
流れが劇的に変わることはなくても、彼にはブレックスのバスケットを着実に遂行してくれることへの信頼がある。彼自身にも流れを手繰り寄せることができるという自信がある。持ち前のバスケ勘による相手の一瞬の隙を見逃さない洞察力でスティールをすれば解決の糸口を見出すことができる。天性のフィジカルで相手に速攻をさせない、場合によってはファールで止めることも躊躇わないことで仲間の士気をあげ、流れを変えるプレーに繋げていく。
様々な要素が混じり合い、結果として相手の流れに飲み込まれそうになっているところを食い止めて、落ち着かせてくれるのだ。
田臥勇太をはじめ、ブレックスのPGが担ってきた役割は大きい。
そしてそれを理解し、試行錯誤しながらも愚直に遂行し続けたことでスタメン起用でなくても彼のゲームメイクが勝利に少なからず繋がっていると思う。
「もっとやれるとかは思わない。やれるけど確率が20%より80%やれる方に徹した方がいい。」
BTALKSの密着の中で語っていたこの言葉は、時を経て今スタメンから外れ、シックスマンとしての立ち位置で2番手で出てきたとしてもやることは変わらないのだ、と示してくれているようだ。
スタメン起用から外れたときに、わたしはプレータイムは短くなりチームに与える影響が少なくなってしまうのではないかと不安もあった。
それでも、彼は今までと変わらないプレーを見せてくれているし、結果を残してくれている。
これから先も彼がスタメンに戻ることがあるかどうかわからない。
だけれども彼のプレーはこれから先も変わらないと確信しているし信頼している。彼は置かれた立場で自分の役割を遂行するだけだ。
たとえそれが自分にスポットライトが当たらなくても、勝利に繋げることができるなら。
そんな姿をこれからも見守っていきたい。
追記
先日、PGであるにも関わらず得点、リバウンドにおいてダブルダブルを達成した時も、渡邉裕規さんのシーズンハイ、スコアリーダー、ナベタイム発動により活躍が霞んでしまったことも、彼らしいなと思う。
ただファンとしてはダブルダブルの活躍をしてくれたのだから今夜くらいは主役になってくれてもよかったのに、なんて思ったりしたが、きっと彼にとっては当たり前のことを当たり前にしただけで特別なことは何一つしてないのだ。彼にとっては些細なことの一つだろう。
特に喜んだり、活躍をひけらかしたりすることは無いんだろうと思うと、それもまた彼らしくてそういうところが魅力的なのである。
2024.4/12